集成・兵隊芸白兵

 平成21年開設の「兵隊芸白兵」というブログのリニューアル。
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霊魂の鐘を打つ人・杉田屋守伝(第6回・となりの野球新興国、柳井町)

2016-11-09 14:54:30 | 霊魂の鐘を打つ人・杉田屋守伝
 オッチャンは岩国中学時代の思い出につき、自著「私の野球生活」序文に「岩国中学に入学してさっそく選手に抜擢せられ、地方の大会には常に出場したもので、当時岩中には飯田三郎(元函館大洋選手)が主将であった」と、前回取り上げた、飯田三郎先輩へのリスペクトをいきなり語っております。
 前回もお話ししましたが、オッチャンのいう「函館大洋」とは、函館に現在も存在する名門クラブチーム・函館太洋倶楽部のことを指します。
 創設は明治40年。日本最古のクラブチームで、現在まで都市対抗出場15回(昭和4~29年までの25年間、21大会でのこと)という偉業を成し遂げています。
 著名選手としては、昭和9年の第2回日米対抗戦時に活躍し、今も都市対抗の敢闘賞「久慈賞」にその名を遺す久慈次郎や、のち草創期のジャイアンツに入り、川上哲治が入団してくるまで一塁を守った、堅守の永沢富士雄などがおります。
 アイドルとして仰ぎ見た飯田先輩がいなくなったオッチャンは、有り余るエネルギーを剣道などにぶつけますが、なんとなく不完全燃焼のまま、鬱屈した気持ちで毎日を過ごしていました。

 そんなころ、岩国町から南西に30キロほどのところにある、山口県熊毛郡柳井町(現・柳井市)では、街を挙げての一大野球ブームが巻き起こっていました。

 大正7年ごろ、小川直助という薬剤師のおじさんが、地元スポーツ用品店主・桂元治らとともに火をつけた少年野球ブームは、当時全国的に勃興しつつあった中等野球人気と相まって、瞬く間に町内を席巻します。
 ここで、当時の柳井の少年野球人気がいかほどのものであったかを、資料とともに見てみましょう。
 
 少し時代が下りますが、昭和6年11月3日、柳井小学校主催で行われた「選抜少年野球大会」という大会の様子が、戦前の山口県内ローカル少年雑誌「防長少年」昭和6年12月号に、詳細に報じられています。
 この大会は大正10年から行われており、招待出場校は地元柳井小学校のほか、県内から下松、麻里布第一の3校。そのほか広島県から、全国大会出場チームの五番町小(呉市)、同じく全国大会出場の廿日市小(現在の広島県廿日市市)の2校。
 この中で最強との呼び声が高かったのは、五番町小学校。
 当時の呉市は海軍の街として栄えに栄えていた頃。野球チームも山のように存在し、中等野球・社会人野球とも全国トップレベルにあった時期。当時、呉の大正中(現・呉港高校)は広島県内でも無敵の存在であり、昭和9年には甲子園で全国優勝。都市対抗野球にも昭和14年までは「全呉」、昭和15年から17年までは「呉海軍廠」が幾度も出場しています。
 そんな中でもまれた五番町小学校は当然、めちゃくちゃ洗練された優秀チーム。同チームOBにはなんと、南海ホークスの親分・鶴岡一人、のちの名将・廣岡達朗がいます。
 五番町小学校の隣の小学校には、初代ミスタータイガース藤村冨美男、終戦直後に南海ホークスのエースとして活躍した柚木進もいました。どんだけ当時の呉は凄かったんだ!それはさておき。

 当然観衆の熱狂はただならぬものがあり、記事によりますと、「場を埋む」ほどの客が「楽隊の奏楽と共に」「この好試合をかたずをのんで」見たと記録されています。
 しかしその強豪に対し、地元柳井は決勝で食い下がり、延長8回、2-3でサヨナラ負けを喫するのですが、「柳井の健闘と意気、観衆感嘆せり」「観衆(柳井ナインを)拍手して迎ふ」とあり、ガキの野球とは思えないほどの熱狂ぶりと、当時の柳井小学校の強さ、うまさが非常によくわかります。

 上記の状況は昭和に入ってからのものですが、大正時代の柳井小学校野球部はその後どんどん実力を伸長、当時勃興していた浅江小学校(現・光市)などを抑え、大正10、11年には名実ともに山口県トップのチームになります。

 この小学校野球の勃興と同時期、柳井町に公立中学校ができることが決まりました。
 大正9年には町立柳井商業学校(現・柳井商工高校)が、翌10年には県立周東中学(現・柳井高校。当時すでに存在した、私立周東中学(現・柳井学園高校)とは無関係)が開校。
 少年野球の優秀選手がそのまま地元の中学、あるいは商業学校に進学できる筋道が整備され、「柳井から全国中等学校野球優勝大会へ」というストレートの筋道が見えてきた柳井町民の期待は、いやがうえにも高まってきました。

 その燃え上がるような野球熱を受ける形で、柳井町の球史の礎を築く名将が、遠く福島県からやって来ます。

【第6回・参考文献等】
・「私の野球生活」杉田屋守 杉田屋卓編 私家版
・「岩国高等学校野球部史」 門田 栄著 岩国高等学校野球部史編集委員会・岩国高等学校野球部OB会
・「柳井高等学校野球部史」柳井高等学校野球部史編集委員会
・「防長少年」昭和6年12月号
・「都市対抗 2016」毎日新聞社
・フリー百科事典ウィキペディア「藤村冨美男」「柳井学園高校」の項目
・広島県呉市立五番町小学校公式HP
・函館オーシャンクラブ公式HP
 
 

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