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精神科医師のブログ。
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BPSDの激しい認知症の方の移送と入院

2012年08月02日 | Weblog
以下の様な質問をいただきました。

Q: 精神科救急は、家族が病院に連れて行きたくてもつれて行けない周辺症状が強くある認知症の方を救急車で搬送してよろしいのですか?


A:認知症に限らず精神科ではよくある相談です。
認知症に限らず精神障がいというのは支援を上手にうけられない、支援を受けること自体に支援が必要な方のことです。
引きこもりや統合失調症などの場合でもよくある構造であり介入方法もほぼ同様です。

もっとも危機が発生してからあわてて動いて無理やり精神科病院に投げ込むのでは本人も傷つきますし、病院としても対応に本当に苦慮します。
(残念ながらこういうケースはいまだに実に多いのですが・・。)
本当はこの様な状態に至らず認知症の混乱期を乗り切るために早期から介入し、家族以外の人に支援を受けてもらうことに当事者本人も家族も慣れてもらうことが大切なのです。
早期介入とアンチスティグマは裏腹の関係ありますが、幸いなことにさまざまキャンペーンで認知症は理解が深まりかなり早期介入が可能となりました。(一方、統合失調症はまだまだです。)

認知症のケア政策においてイギリスなどの取り組みを参考にして厚生労働省のプロジェクトチームが本年6月にだした「今後の認知症施策の方向性について」 はよくできていると思います。

さて、この様なケースでは、まず、家族、病院や行政関係者も含めた支援者、関係者で連携し共通の認識をもって作戦を練っておくことが大原則です。
家族は地域包括支援センターに相談し、精神科の外来でも相談しておくことをおすすめします。
精神科の医師が中心となって皆で作戦をたて、具体的な介入や身体的な危機や、自傷他害の恐れがでたときなど、なにかおこったときに誰がどう動くかと作戦を練っておいて、いざというときにすぐに危機介入できるようにしておきます。
受診や介入を拒否するようなケースには可能ならば精神科の医師も含めた支援者が訪問を繰り返し、病院に連れてくることが本当に必要で適当なのか、入院治療の他の方法がないのかをアセスメントすることが必要でしょう。
病状や構造を診たてて状況を把握するための訪問もホームグラウンドの地元では頻回でき、いざというときには自分の病院への入院というカードも使えますが、病棟を背負わず、地域のリソース(優秀で動ける人や使える施設)も把握しきっていないアウェイのパートで行っている病院で、この様な切り盛りは本当に大変です。

抑うつや妄想、徘徊、易怒性、暴力などのいわゆるBPSDは混乱期の認知症を持つ方の言葉、表現と考えて読み解くことが大切です。
本人に受け入れてもらえるような丁寧で細かな漢方薬や向精神薬での薬物調整も効を奏します。
やむを得ない場合は身体の薬などとだますこともありますし、セレネース液やリスパダール水液などの液剤を味噌汁などに混ぜてブラインドで投与することもありえます。(本当はいけませんが・・)

しかし家族も振り回されて疲れ果て余裕をもって対応できないことで余計に本人に辛く当たり、本人もイライラしてよけい荒れるという悪循環となってしまいます。
家族が倒れてみたり、やむを得ない用事などで本人に係ることができない状況をつくり、本人に困ってもらうことで、うまくいく事もありますが、困った挙句、包丁を持ちだしたり火をつけたりということもあり、物理的に離れることが必要となることがあります。
行動障害や妄想などの精神症状がひどく、どうしても入院していったん家族と引き離したほうが適当なケースです。
身体の衰えとパラレルならまだいいのですが、頭は大混乱していても首から下は元気なケースが特に大変です。

精神保健指定医が診察し、入院が必要だけれども本人の同意が得られない場合、家族が保護者となっての医療保護入院ということになります。
ただし家族にも認知症の方が病院に入院することには相当デメリットも多いことは知っておいてもらう必要はあります。
これは薬物治療やmECTなどで改善が見込める躁うつ病や統合失調症などとは違った難しさがあります。

入院や入所する施設は混乱の中で家族との関係も悪化しているよりは居心地のいい環境となっている必要があります。
残念ながら統合失調症などの慢性期の方が入院していた場所を転換した単科の精神科病院ではマンパワーも少なく認知症の方のケアに適した構造とはなっていません。
身体的な管理能力も乏しく、大暴れして体力を使い果たし、抑制(物理的、薬物的)などされて生きる気力を失って死んでしまう可能性もあります。
質の高い認知症対応の老人保健施設などがあればベターでしょうが・・。
安曇病院では15床の老年期病床にマンパワーをあつめ本人が支援を受けることも悪くないと思ってもらえるように「天国のよう」に関わっているため、家や施設で大暴れしたり、内科の病棟でせん妄をおこし転棟してきた方に「ここは待遇がいいな。」「みんなよくしてくれる。」と言われたこともあります。
しかし診療報酬単科の低い精神科病棟で、そのようなことをやっていては構造的に赤字になるのでなかなか大変です。

身体的な医療依存度が高くなければ、ケアという点では認知症に慣れた高品質の老人保健施設などのほうがむしろ適当かも知れません。
強制的な入院治療は人権問題も関わりデリケートで微妙な問題ですので、家族が主治医、包括支援センター、保健福祉事務所、精神科医、認知症疾患センター等に相談して十分に作戦をねっておくことが必要と思います。

さて、質問への回答ですが危機介入のための移送ですが原則として救急隊はそのようなケースでの本人の同意を得られない移送はできません。救急隊としても危険ですし救急車の使い方として望ましいものではありません。

ですので病院に連れてくるためには

(1)家族や親戚(多少強引なことをしても法的に問題になりにくい)を集めてもらって病院に連れてきてもらうようにお願いする事が多いです。ドライブや買い物に行くなどとつれだしたり、正月に家族があつまったときに簀巻きにされて突然連れてこられたアルコール依存と認知症の方もいました。

(2)あるいは本人も納得できるストーリーで入院できるよう体調不良時をみはからって検査しようとかこつけて救急車で病院へ連れていったりすることがいいでしょう。寝起きに連れていくこともあります。

(3)精神保健福祉法に従えば自傷他害の恐れがあり精神障害が疑われる場合、警察官をよび24条通報、あるいは23条の市民通報で精神保健指定医の措置鑑定をうけての措置入院というルートがありますが高齢の認知症の場合はあまりしません。

(4)第34条に基づいた「医療保護入院のための移送」ということもありえますが、都道府県(保健所)による事前調査などのあり、これも認知症の場合はまずしないでしょう。

参考になれば・・。
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