吉田修一の連作短編集、「春、バーニーズで」を読みました。
モノクロの写真が点々と挿入された、フォトブックのような美しい体裁の本でした。
春、バーニーズで (文春文庫) | |
吉田 修一 | |
文藝春秋 |
構成は、先日読んだオカマの閻魔ちゃんと同棲する若者、筒井の生活を描いた「最後の息子」から10年後の筒井の日常を、さまざまな角度から切り取った短編集になっています。
最後の息子 (文春文庫) | |
吉田 修一 | |
文藝春秋 |
人は若者から中年にさしかかれば、当然、成長します。
筒井は幼い子を持つ女性、瞳と結婚し、瞳の実家で義母と同居しています。
平凡な会社員となり、毎日を忙しく暮らしているわけですが、ちょっとした事件は誰にでも、起こるものです。
新宿のバーニーズで偶然、閻魔ちゃんと再会したり、マクドナルドで相席となった女性とアドレスを交換したり。
挙句の果てには、突然会社に行くのが嫌になり、日光まで東北道を飛ばしたり。
筒井という男、いくつになってもどこかモラトリアムというか、学生気分が抜けない男で、私も年相応の貫録がつかないせいか、変に感情移入できるから不思議です。
実際、理由が必要だった。このまま東京に帰るにしても、会社に戻るにしても、何かしらみんなが納得してくれる理由が必要だった。たかが八時間、いつもと違った行動をしただけで、これまでの人生を、いや、これからの人生を語るくらいの物語をみつけなければ、元の場所には戻れないような気がした。
「パーキングエリア」で、会社を無断欠勤し、日光へ向かったときの筒井の心情をつづった文章です。
ズル休みするにしても、会社に電話を入れるのと、無断で休むのは大きな違いです。
現に私は無断で休んだことはないし、無断で休んだ人は、そのまま退職したり、自殺したりするのがむしろ普通です。
がんじがらめの日常を生きるサラリーマンの心情を描いて見事です。
このあたりが、吉田修一という作家の美点なのでしょうねぇ。
もう若くはなくなった、中年初期の男の日常や心情を描いて見事です。
ただし、これを読む前に「最後の息子」を読んでおくことをお勧めします。
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