昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

小説「社長、ちょっと待って下さい!」(24)入社の頃(12)

2017-07-16 04:24:46 | 社長、ちょっと待ってください!
「ところで、なんで若い連中はわざわざ混みあった店に行列までしていくのかね? 昼なんてすきっ腹を満たせればなんだっていいじゃないか・・・」
 同意を促すように声を高めると、返事を待たずにひと息でコップ酒を飲み干した。
 そしておもむろにそばに手をつけた。
 無理やり口に押し込んでいる。のどぼとけが激しく上下した。
「キミ、そばはのど越しだよ。噛むものじゃない!」
 呆れたように見つめるボクを意識して言った。

「そばはお腹を満たすというより、お酒のつまみじゃないんですか?」
 ・・・のど越しは酒もそばもなんだ・・・
 ボクは思わず嫌みを言った。
「キミ、いきなりで言うじゃないか! お公家さまのような顔で・・・」
 ・・・お公家さま?・・・
 春だというのに、今まで凍りついていたボクの心が一気に融けた。

 ライオンおやじ岩壁商会社長、岩壁一郎にとってはいつだって酒だ。
 渡辺商会の裏通り、50メートルと離れていない貸しビルの一室を借りて、渡辺商会と同様機械・工具販売の会社を経営している。
 従業員は誰にでもニコニコと愛想はいいが、他へ飛び立つほどの気迫はない中年の営業マンと、最近ほとんど会社に居つかない社長に不満があるのか、客にも仏頂面で折角の美形を台無しにしている40近い女事務員の二人きりだ。
 渡辺社長の古くからの友人だが、方や7階建ての新築ビルのオーナー、此方は狭い貸しビルの一室でくすぶっている。
 ・・・奴はたまたま億が付く大金を借りられる一等地に自宅を持っていたから運が良かったのよ・・・
 運の差だと思っている。
 しかし、友人の渡辺に会うたびに言っている。
 ・・・年がら年中仕事でもないだろう! たまにはゆっくりいっぱいやろうよ・・・
 会社の経営は酒代が稼げればいいぐらいにしか考えていないようだ。
 会社が近いせいもあって、用のあるなしに拘らずしばしば渡辺商会に顔を出す。
 最近景気が上向きになって、渡辺社長も、専務も課長も相手にしてくれない。     
 
 ボクのことは渡辺社長から訊かされているのだろう。
 庇護すべき相手であると感じているのかもしれない。
 おやじはボクを新たな暇つぶしの相手として扱うようになった。


 ─続く─


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