昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

小説「社長、ちょっと待って下さい!」(21)家庭教師時代(3)

2017-07-12 01:07:52 | 社長、ちょっと待ってください!
 4年生になって、ボクは初めて渡辺徳造社長と食事を共にした。
 「やはり、金属加工関連の機械・機器・工具類はまだまだ外国にいいものがあるね・・・。日本にないようなものが、アメリカやヨーロッパにはまだまだうようよある」
 ボクに話しかけるというより、社長は自分自身に呟くように言った。
 しかし、ボクにはこう聞こえた。
 「司くん! 世界各地から最先端の技術を具備した機械・機器・工具類を集め、日本の金属加工業界に寄与しようではないか!」

 就職を控え、いったい自分は社会へ出て何をしたいのか? 今まで考えもしなかった。
 この大学に入ればそれなりの企業に就職できるはずだと、漠然と考えているだけだった。
 すでに周囲はより良い就職先を求めて就職活動に動き始めていた。
 「商社は給料もいいし人気だね」
「これからはなんて言ったって自動車だな」
「でもやっぱり安定職種としては金融関係かな。だけど学校推薦がないとムリかな?」
 大企業を目指さないと仲間に入れてもらえない雰囲気だった。

 ・・・でも、とボクは思った。
 高い月謝をもらって、ご馳走にありつき、家庭教師の合間に英語のパンフレットを翻訳したり、外国のメーカーにカタログや見積もり依頼のレターを書いたりして、特別の謝礼までもらっている。
 たまにはゴルフに連れて行ってもらったりもしている。
 思わせぶりにちらっと覗かせてくれた社長の手帳にメモされた有力社員のボーナスは、半端な額ではなかった。

 既に旧社屋は取り払われ、7階建ての新社屋が完成に近づいていた。
 社会に出てからのわが使命にも気づかせてもらった。
 ・・・渡辺商会に就職しよう・・・
 ボクの気持ちは一気に傾斜していった。

 ─続く─

 


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