昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

小説「社長、ちょっと待って下さい!」(26)入社の頃(14)

2017-07-18 04:49:56 | 社長、ちょっと待ってください!
 猪熊課長はボクを大手自動車メーカー、I自動車の川崎工場へ連れ出した。
 守衛所で受付簿に署名しながら、馴れ馴れしく守衛に話しかけている。
 
 厳めしい顔の守衛も、課長にはにこにこと応対している。
 もう一人の若い方の守衛は、ボクを疑わし気な目つきで見ている。
 見慣れない人間は彼らにとって警戒すべき相手なのだ。
 ボクにとって守衛所は外部と一線を引く物々しい関所に見えたが、課長はボクの分まで含めて相手に納得させ易々と通過した。

「ここはI自動車の車でないと入れないんだ・・・」
 
 課長は工場内に目を配りながらハンドルを捌き、車を走らせながらしゃべり出した。
「正式に要請されているわけじゃないが、我々取引業者はお得意さまの車を使うよう無言で要請されているんだ・・・」
「・・・」
「どこの自動車会社も他社の車を自分の工場内で見るなんて嫌じゃないか・・・」
「・・・」
「言われなくっても我々出入り業者はお得意さまの意向を忖度しなければならないというわけだ・・・」
 ・・・忖度! なるほど、今日課長の乗ってきた車はI自動車のトラックだ・・・
「言いかえれば共存共栄、お互いに助け合って生きる!」
  
 ここで言葉を切ると声を強めた。
「これが日本経済社会の中で生きる要諦なんだ」
 大学出の新人にことさら難しい言葉を選んで課長は説明した。

 
 ・・・へえ、そうなんだ。ボクは社会の仕組みの一端を垣間見た気がした。
         
 ─続く─

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