昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

小説「社長、ちょっと待って下さい!」(3)プロローグ(3)

2017-05-26 01:35:03 | 社長、ちょっと待ってください!
 壁掛けの大時計の長針と短針が重なりそうになっている。
 
「おい、悪いけど行ってきてくれる?」
 川田はボクにパンを買ってくるように命じた。
 さっき自分が後輩に対していささかでも卑屈になった関係を解消しようというのだ。
 先輩として後輩の頭を押さえつけておく必要があると思っている。
 英語が分かるという専門的能力に対して格差があるし、社長の息子の家庭教師をしていたボクとは社内での立場がいつ逆転してもおかしくないという潜在的な怖れを抱いているのだ。
「オレの欲しいものは何かわかるか?」
 偉そうに川田が言った。
「そりゃ分かりますよ。日頃先輩には親しくさせていただいているんですから。焼きそばパンとカレーパンでしょう?」
 
 立場が分かっているボクは心の中とは裏腹に素直に応じた。

 買って帰って来ると、三上が上目づかいで言った。
「三上さんのパンは買ってきてくれた?」
 ・・・えっ? 冗談だろ!・・・
 ボクは一瞬きょとんとせざるを得なかった。
 実際には頼まれていないのだ。
 しかし、彼女も2年先輩だから逆らうわけにはいかない。
「そりゃもちろん、メロンパンでしょ? 当然ですよ」
 ボクはとっさの機転を利かせた。
 にやにやしていた三上の顏がびっくりした表情に変わった。
「えーっ? うそー、ほんとう?」
「だって、後輩としては当然のことでしょう!」
 ボクは自分の分を彼女に回した。
 
 実力のありなしと同時に、はたして彼らの環境に適応する能力があるのかを査定しようと待ち構えている先輩たちのキツイ試練にさらされているのだ。
「おにぎりあるけど・・・。食べる?」
 
 さすが三上も恐縮した顔になって言った。

 ─つづく        



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