昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

小説「社長、ちょっと待って下さい!」(25)入社の頃(13)

2017-07-17 03:42:00 | 社長、ちょっと待ってください!
 入社4日目の朝、猪熊課長は出社してくるなり上機嫌でボクに話しかけてきた。
 最初の日は何かと忙しそうで、挨拶もまともに受けてくれなかった。
 その時以来、課長はずーっと外出していて今日まで顔を見ることもなかった。
「何を勉強しているんだ?」
 課長はボクの机の上を無遠慮にのぞき込んで言った。
「はあ、・・・」ボクはあいまいに返事した。
 この会社に誘っておきながら渡辺社長は顔も見せない。
 市岡専務は猫の手も借りたいなんて言っていたのに入社以来お呼びがない。
 自分は猫以下かと、無性に腹が立ってきて、読んでいる本の内容も宙に浮きだしたところだった。

「キミね、物事は身近な所から発想しないとこなれた解釈なんてできないよ・・・」
 課長は初日のブスッとした顔とは一転して、馴れ馴れしい態度で課長席から自分の椅子を引きずってくると、ボクの横にドカッと足を開いて座った。
「物はどうやって作られているかということについて考えたことがあるか?」
「・・・」
「例えばこの椅子だ!」 そう言うと立ち上がって自分の椅子を傾け、ボクに見ろと目で促した。
「・・・いろんな部品が組み合わさって出来ていますが」
 ボクは課長の椅子はひじ当てもあって豪華だななどと思いながら気のない返事をした。
「ビニール製の背もたれとか、型で作られたと思われるプラスチック製のひじ当てなんかは、キミでも何となく想像がつくよな? ・・・だけど、芯を支えているステンレス製の軸とか、それらを組み立てている金属製のネジなどがどうやって作られるか見たことあるか? それとも想像がつくか?」           
「本で読んだだけじゃ分かりっこないよ!」
 課長は目を細め、口を皮肉っぽく曲げると、そっくり返ってボクを凝視した。
「だろう? 実際の製造現場を見てみようじゃないか・・・」
 課長は立ち上がりながら決めつけるように言った。
 具体的な指導の言葉をかけられ、引きずられるように腰を浮かせると、ボクは自然と課長に頭を下げていた。

 初めてこの会社で<立脚点>を与えられたと思った
 ─続く─



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