昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

小説「社長、ちょっと待って下さい!」(15)入社当時(6)

2017-06-18 04:36:15 | 社長、ちょっと待ってください!
 ボクの座っている真新しい机の右サイド直角の位置にに大きな机がある。
 課長席だろうか? その背後にガラスで仕切った大きな個室がある。
 誰かいる。中腰になって忙しそうに手を動かしている目の鋭い男。
 ・・・まるで水族館のピラニアみたいだ・・・
 たぶん、渡辺社長から聞いていた市岡専務に違いない。
 ボクは敢えて仕切られた扉を開け、頭を下げて挨拶した。
「おはようございます。今日からお世話になる司秀三です」 マックス・ピーズリ―に似たピラニアは、きょとんとした顔を向けると、思い出したというように顔を引き締めた。
「市岡です。今すごく忙しいんですよ。猫の手も借りたいくらいで助かります。よろしくお願い致します」
 やはり市岡専務取締役営業部長だった。
 社長のつてで入社したボクに、専務は薄い唇を歪めて笑顔をつくろい、塩辛声で慇懃に応えた。
 しかし、出かける準備のためか手は休みなくデスクの引き出しと鞄の間を往復し、目は笑っていなかった。
「おい、佐藤!出かけるぞ。村山工場のパーツフィーダーの見積書忘れるな!」
 書類を収めたアタッシュケースを手に、ボクをそこに残したまま専務室を出ると、さっき案内してくれた若い男にだみ声で声をかけた。
 
「はい。専務、ビルの前はきれいに掃いておきました」
 佐藤と呼ばれた男は明るく答えた。
「何? あたりまえのことだろう。そんなこといちいち報告する必要ない!」
 専務は新人社員を意識しているかのように大きな声を出した。
 そして、出勤してきて課長席に着席してタバコを吸っている男にひと言声をかけた。
「課長!彼が今日から入社した司くんだ。よろしく頼む」
 そう言うと、細身のからだをつんのめるように突き出して、佐藤を従えるとさっさと部屋を出て行った。
 専務と同様痩せぎすで小柄な課長はタバコをもみ消すと、ボクにちょっと頭を下げ、自分の前の真新しい机に座るよう手で示しただけだった。
 無言のままデスクから書類を引き出し、それを見ながら受話器を取り、こちらには顔を向けようとはしなかった。

 ─続く─




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