昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

小説「社長、ちょっと待って下さい!」(43)挫折(6)

2017-08-14 03:43:27 | 社長、ちょっと待ってください!
 大手ユーザーのD製作所大宮工場のラインが止まりそうだというので、必要部品を川崎のメーカーM社から引き取って大宮の現場まで届けることだった。
「いいか、先ず、川崎で部品を引き取って、・・・既に手配してあるから・・・大宮工場はここだから・・・」
 専務はコピー機からA4の用紙を引き抜いて、自ら経路図を画いてボクに説明した。
 いつもの上から目線の恫喝とは異なり、愛情のこもった父親の言葉を聞いているような気がした。
「高速を使っていいから、早く行け!・・・あわてるなよ。気をつけて・・・」

 車庫から自分が通勤に使っているサニーを引き出して、川崎に向かった。
 いつもなら帰宅時間だ。
 M社の部品センターから部品を引き取って、首都高速の羽田線鈴ヶ森インターから高速に入った。
 腕時計を見ると7時を過ぎていた。
 
 ラッシュと逆方向だと思っていたが、向島から先は意外と混んでいてD製作所の大宮工場に着いたとき、既に8時を回っていた。
 ほの白く広がる空の下、サメの背びれのような屋根を持つ工場群が黒々と横たわっている。
  
 守衛から訊いた現場へ、広い工場を行きつ戻りつ迷いながら車を進めた。
 ずいぶん予定より遅れてしまった。
 不安とイライラする気持ちをなだめながら、ようやく現場とおぼしき所へたどり着いた。
 ひとりの作業員が帰り支度をしていた。

「すいません。遅くなりまして・・・」
「ああ、佐瀬さんが待っていたやつか。・・・もう帰っちゃったよ」
 その従業員はこともなげに答えた。
「えっ? お急ぎだというのでこれをお届けに上がったのですが・・・」
「いいよ。明日渡しておいてやるからそこに置いておきな・・・」
 気のよっそうなその男は気楽に言った。
 ・・・そんなバカな! 明日でも大丈夫なんだ。どうしても今日でなければならないのなら担当者は帰ったりしないだろう。専務が言うほど緊急の要件ではなかったのだ・・・
 ムダなことをさせられた気がして急に腹が立ってきた。

 しかし、部下の欠点を根掘り葉掘り追求するのが仕事だと思っている専務のことだ。
 ・・・何? 間に合わなかった? 途中で遅くなる旨連絡したのか? していない。お客さんは怒って帰っちゃったんだよ! 役立たずめ!・・・
 今まで自分には関係ないと客観視していた専務の怒鳴り声が、明日には自分にも降りかかってくるのだ。
 初めてボクは会社が嫌になりそうだった。

 これまでの仕事はできないからと言って誰からも叱られることはなかった。
 この会社では誰も経験したことのない仕事だったし、ましてや社長直属の仕事だ。
 独断で先延ばしすることもできた。
 しかし、今度の与えられた仕事は違う。即、結果を問われる。
 なぜ要求されたことができなかったのか、対応に落ち度がなかったかどうかまで追及されそうだ。

 ─続く─         

 <好奇心コーナー>
 
 ベランダのひまわりが赤く色づきだした百日紅の林を見つめる。

 

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