昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

小説「社長、ちょっと待って下さい!」(9)プロローグ(9)

2017-06-02 04:38:08 | 社長、ちょっと待ってください!
 ドアが開いて現れたのは、うわさの主、桜田幸子だ。
「お先に失礼します。さようなら」
 きちんと頭を下げて一礼した。
 
 足先が揃っている。 
 帰るとき、必ず営業部に顔を出して挨拶する。
 入社以来一日も欠かさない彼女だけの行事だ。
 一瞬、騒いでいた場がシーンとなった。

「まだ仕事していたんだ。どう? 一緒に飲まない?」
 猪熊課長が振り向いて言った。
「いえ、失礼します」
 幸ちゃんの顏がぽっと赤く染まった。
「そう、じゃあ気をつけてね、さようなら」
 課長はいつもの無理強いを未成年の彼女にはしなかった。
「気をつけてね・・・」
 三上がやさしく声をかけた。
「さようなら・・・」
 野太い声の合唱が続いた。

 みんなの意思がひとつになって穏やかな空気が部屋に充ちた。  
 
「幸ちゃんは現代若者の変種だね。特別製だよ! マロもそうだけど」
 猪熊課長が僕の方を向いて言った。
 
 市岡専務の一の子分が、渡辺商会の営業部隊長、猪熊課長だ。
 まだ、30代後半だがなかなかの切れ者だ。
 人を見る目は厳しく、口は悪いが冷たくはない。
 ハートがある。

 ボクは部屋の隅っこで、みんなと少し間を置いた場所に座って、会社の核を成す連中の会話を客観的に聞きながら、今の幸せを味あうようにピーナツを
 一個づつ味あうように口に放り込んでいた。
 そして、入社したばかりの頃は、社長に請われて入社したのに、専務も、課長も洟もひっかけてくれなかった。
 あの魅力的な三上ゆかりですらそうだったんだ。
 
 しかし、今は順調に見えるけれど、遠からず厳しい状況が待ち構えていることに、ボクは思い浮かばなかった。

 ─続く─   





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