昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

小説「レロレロ姫の警告」改定版(7)誕生(3)

2018-01-10 04:52:48 | 小説「レロレロ姫の警告」改定版
「わざわざお呼び立てして申し訳ありません。お子さんの今後に関わることなので、関係するみなさんに聞いていただいた方がいいと思いまして・・・」
 温和な顔の院長は眉毛を下げ、ちょっと頭を下げた。
「お子さんははっきりとしたことは検査してみないと分かりませんが・・・」
 そう言って言葉を切った。
「症状、外観から特定の病名を設定することもできるのですが・・・、遺伝子の異常があるかもしれません。・・・詳しいことは染色体分析や遺伝子学的検査が必要となりますので、その上で・・・」と病院長はまた言葉を濁ませた。
「・・・」
「・・・」
 遺伝子の異常などという言葉を聞いては、誰だってひと言も言葉を発することなどできない。
  
「現状では、気道と食道へのルートを分ける咽頭蓋に異常があるので、自力でおっぱいやミルクが飲めない状態です。とりあえず経管栄養摂取が必要になります」
「・・・」
 
「人によって差がありますが、成長が著しく遅れる場合があります」
「・・・」
「呼吸器感染を繰り返す恐れがあるので、しばらくは入院した方がいいでしょうね」
「・・・」
「近くに子どもの特殊な病気に対する専門病院がありますので、そちらにお願いするのがいいでしょう」

 いずれにしてもこのあかちゃんは普通ではないという事実がみんなの心に重くのしかかった。
 院長室を辞した4人は集中治療室へ寄って、あかちゃんを改めて眺めた。
「このあかちゃんに見つめられると、何かを訴えられているようで、ドキッとするんですよ。そう思いません?」
 とつぜん背後から若くて明るい看護師が近づいてきて、4人の沈んだ気持ちを吹き飛ばすように言った。

 ・・・たしかに、人の心を見通すような澄んだ瞳をしている・・・
 
 看護師さんの言う通りだとおじいさんは思った。


 ─続く─