碧空の下で

人生の第四コーナーをまわって

詩集 「人はかつて樹だった」 長田 弘著 

2010-09-07 13:25:37 | 詩、漢詩、その他読書感想

遠くからの声

 

林の奥から翳ってきた。

霧がふいに現れた。

木々のあいだから、

あざやかな緑が消えて、

梢のすぐさきのところまで、

灰色の空がどっと落ちてきた。

木立のなかが暗くなると、

逆に、樹の幹が白くなった。

空気がすっと冷たくなってきて、

辺りの景色を黙らせた。

たったいままで、

そこに誰かがいた。

すがたの見えない誰かがいた。

枝々を揺らす風の音は、急いで

誰かが遠ざかっていった跫音だった。

霧がいちだんと濃くなってきた。

昏れてゆく霧の林は、

見えないものの宿る場所だ。

土のたましいを宿す土。

草のたましいを宿す草。

木々のたましいを宿す木々。

じぶんのたましいを探すんだ。

遠くから誰かの呼ばわる声がした

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