碧空の下で

人生の第四コーナーをまわって

寒い冬には「さもなくば喪服を」闘牛士エル・コルドベスの肖像 ラリー・コリンズ ドミニク・ラピエール著

2012-12-09 12:39:28 | 詩、漢詩、その他読書感想
毎度、思うのですが、あの選挙の宣伝カーはどうにかならんのけ。インターネットのこのシャバにあまりにも時代おくれで、公害的な音量でガナリたてるだけの街宣は堪忍してもらいたいのです。先進国のやることではないやろ。昼寝の赤ちゃんが泣き出すし聞きたい音楽の邪魔をされるし、全く人をバカにしております。今ほど日本の政治家の質が問われている時はないとおもうのですが・・・
話はそんな政治家の虚しい言葉をさらりと忘れて、心は熱いスペインなのだ~っ。(小沢昭一さんのご冥福をお祈りします)これぞノンフィクション(事実)の名著というべき『さもなくば喪服を』闘牛士エル・コルドベスの肖像 ラリー・コリンズ ドミニク・ラピエール著なんです。狂人の額のような陰鬱な空から10日以上も雪や氷雨の降り続くこの季節には、<スペインの光と熱と乾き>をもとめる心情をなんとも抑え難いのであります。スペインの南部コルドバとセヴィリアの中間に近いパルマ・デル・リオに生まれたマヌエル・ベニテス”エル・コルドベス”が1936年スペイン内戦が始まるなかで生をうけ、貧困と飢餓のなかで、闘牛士を目指した記録です。「泣かないでおくれ、アンヘリータ、今夜は家を買ってあげるよ、さもなければ喪服をね」最初に勇敢な牡牛と闘った日に彼が姉に語った言葉です・・・闘牛はスペイン人の魂だと言ったのは、ヘミングウェイだったか、スペインのあらゆる階級を超えて熱狂する死の儀式は宗教といってもいいぐらい、人々の心に火をつける。スペインの文化は闘牛なくしては語れないと言われるくらい影響を持っている。その闘牛士のなかで、国民の熱烈な人気を得た世紀の闘牛士マヌエル・ベニテス”エル・コルドベス”の伝記です。ヘミングウェイの観念的なロマンチックな神秘主義的な闘牛ではなく、荒々しく、現実的で勇敢な狂気のマヌエル・ベニテスの闘牛のはなしです。彼が生まれた頃、スペイン内戦の悲劇とひと言で済ますことのできない当時の実態は、同じ国民が、いままで隣にいた住人を殺し合う悲惨なものだった。共和派に組みした父親が監獄で死に、母親は極貧の中で、子供を育てるために苛酷に働き続け40歳にもならないうちに死んでしまった。家族は離散し、マヌエル・ベニテスは姉アンヘリータに育てられるのだが、ある日、オレンジを盗んで作ったお金で闘牛士の映画を見て、闘牛士になろうと決意する。しかしその道は、無学で、字も読めず、地球が丸いことすら知らない田舎の貧乏な不良少年にとって苛酷なものであった。あるのは闘う勇気とかたくなな意志だけだった。この本は彼の生い立ちから闘牛士になるまでの経過を縦軸にその時々に関わった人々の証言を横軸にして構成されています。読んでいるうちにこれはフィクションではないかと思われるくらい、読み物としてよくできている。闘牛を知らないワシでも熱くなるのです。スペインの魂が感じられるのです。一人の人物を語るのには、その人に関係した周りの人々を語り、そしてその人々が暮らした社会を語らなければなりません。それをイデオロギーで語るのではなく事実だけを語らなければなりません。ウソであると知っていることについてそれが事実だというふうに書いてはならない。それがノンフィクションの境界です。内戦後のスペインの実態が見えてきます。それは、共和派とフランコ派という政治的な表層を突き破る闘牛士の剣そのものでありました。人間の存在の根底を貫く剣でありました。だから貧乏人も金持ちも熱狂しました。試合の日には、闘牛場は満席で、ダフ屋は大儲けし、入れなかった人々がその周りに人垣を作り、街は誰も通行人がいなくなり、数少ないテレビの前には人々が殺到した。試合が終わるまでは、列車さえ出発しなかった。昔の力道山を思い出すのですが、街頭テレビに集まった人々の表情は眼が輝いていた。しかしプロレスは筋書きのあるお芝居です。闘牛とはマジで命をやりとりする決闘です。虚構と事実の埋め難い違いがあります。命を落とすかもしれない決闘に臨む勇気が、その真実こそスペインの人々の心を揺さぶるのです。高倉健が現実のヤクザに殴り込みをかけるのを見ていると想像してみて下さい。ピレネー山脈から南はヨーロッパではないと言われたスペインのフランコ体制が崩壊してかなり社会が変化したのですけれど、今でも人の心はそう簡単に変わらないと思っております。それにつけても、権力だけ握れば、あとはどうでもいいような、どこかの国の政治家の薄っぺらい言葉に食傷気味のあなたには、ワシには、いい読み物だと思います。作者の一人ラリー・コリンズはあの『パリは燃えているか?』の作者でもある。ワシらスパニシュフライの心なのだ~(小沢昭一さんのご冥福をお祈りします)

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