tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

企業における人件費支払能力測定の実務:第7回―付加価値分析は経営計画に適している―(つづき)

2017年02月19日 10時12分17秒 | 経営
企業における人件費支払能力測定の実務:第7回
―付加価値分析は経営計画に適している―(つづき)
 経営指標についての説明が3回目に延びてしまって済みません。今回で終わります。
⑨ <配当率> 株主配当/資本金:(%)
 株主が最も関心を持つ指標です。株主にとっては高いほどいいのでしょうが、折角稼いだ利益の中から株主にばかり支払ってしまうと、企業の内部留保に回る分が少なくなります。内部留保は自前の資本蓄積で、企業にとって自由に使える金利のつかないカネです。これが十分あれば、金融機関から金を借りなくても、設備の高度化など自在にできます。
 配当率を上げれば、株価が上がって増資での資金調達が容易になるといった面もありますが、株価は好不況に左右される水ものです。内部留保で自己資本を増強することの方が「堅実経営」でしょう。
 この点株主と企業(企業労使)の利害は食い違うわけです。 企業は株主のものか、労使のものかという論争もあります。王道は企業の発展優先でしょう。
 関連する「配当利回り」は配当/株価(%)という事になります。

⑩ <総資本回転率> 総資本(+割引手形)/売上高:(回)
 総資本1億円の会社が、年間1億円を売り上げれば総資本回転率は1回です。1億5千万円売り上げれば総資本回転率は1.5回です。
 少ない資本で売上が大きければ、資本効率のいい企業という事です。
 売掛金の早期回収とか、JIT(ジャストインタイム)で棚卸資産を減らすとか、遊休資産を持たないとかで総資本回転率は高められます。

⑪ <資本生産性> 付加価値/有形固定資産:(円)
 正確には有形固定資産などの設備投資の生産性です。省力化や省エネ化を進めれば設備生産性は上がります。しかし高度な設備は値段も高いですから、稼働時間を考えたり、リースを選択したりという可能性も検討すべきでしょう。

⑫ <労働の資本装備率> 有形固定資産/従業員数:(円)
 時に、労働装備率といわれたり資本増備率といわれたりします。従業員一人当たりどれだけの設備をしているかで、製造業なら新鋭ロボットなどの高度の機械、販売業なら客に魅力のある店舗など、投資内容で生産性が変わります。
 製造業では昔から「労働生産性は資本装備率」に比例する、などと言われます。1人で2人分の仕事ができる新鋭機械は値段が2倍するという事でしょうか。
 その場合、資本生産性は変わらないわけで、人件費の減と、減価償却費の増の比較で導入のプラス・マイナスは判断できます。

 以上12の経営指標、労働分配率も入れて13の指標の経営上の意味、役割を見て来ました。
 企業成長(付加価値生産性)と財務体質(自己資本比率)の目標を決め、それが実現できるようにその他の経営指標を策定していけば、人件費支払能力は結果として出てきます。どれか1つ数字を変えれば、人件費支払能力は変わります。

 具体的にどんな順序で計算していけば、全体として合理的な経営計画の策定になるかは、順次説明することになりますが、労使の意見を積み上げ、シミュレーションを繰り返して、労使双方の納得を得られるようになれば最高です。

 計画の要諦は、過去(5年)の実績を十分に検討し、現在の企業の実力でどこまでできるかの限界を弁えながら、計画値を積み上げることでしょう。
 企業統計などから適切なケースを取り出し、その企業の過去五年間の実績をベースに、5年後のその企業の姿を計画し、そこに到達すべく毎年5分の1の達成を目指すといった形で来年度分を計画し、来年はその実績を見つつ来年からの5年計画を建てるといった形でもいいでしょう。勿論1年づつ5年間を積み上げればさらに実態に即したものになります。
 次回は具体例を出してみましょう。