巨匠 ~小杉匠の作家生活~

売れない小説家上がりの詩人気取り
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哀しい恋路

2016-11-28 22:22:58 | 
東京を発つ車中で物思いに耽っています
夕べあなたと二人で見た海の情景が頭から離れないのです

あなたの前から消え去りたい、春霞のように

人は何故こんなに苦しい恋をしてしまうのでしょう
あなたと出会わなければこんなに心は乱れなかったはず
もう恋なんて絶対にしないと決めていたのです
恋の結末の辛さを身に沁みて知っているから

だから、あなたへの思いが深くならないうちに
私はあなたに会うことのない場所に消え去ります
あなたはそんな私の行為を逃避と呼ぶでしょう
でも私はあなたの心に傷を残したくないのです
私なんてどうなってもいい
あなたに今のままのあなたでいてほしいのです

初めてあなたに出会ったとき
私は一瞬で恋に落ちると感じました
そして、あの苦しかった恋を思い出したのです

私はあなたと似た快活で笑顔の素敵な男性と以前付き合っていました
そんな彼と私は自然の成り行きで男女の関係になりました
まだ学生生活を謳歌していた私達は
二人でいろんな場所に行きました

パンダのいる動物園
共通の友達のライブ
彼が得意だったビリヤード
二人で転びまくったスケートリンク

そんな中、私は彼の子を宿してしまいました
あなたは幸福と懊悩を混ぜこぜにした複雑な表情で私の告白には耳を傾けました
私は卑怯な女です
すべての結論をあなたに委ねたのです

数日後、あなたは音信普通になりました
私の悲しみは如何許りだったでしょう
でも本当に辛かったのはあなただったはず
車中泊を繰り返し結論を出しあぐねていたあなたは
峠の山道で事故を起こし帰らぬ人となりました
本当に苦しんでいたのは私ではなく、あなたでした

一週間後、悩みに悩んだ末に私は堕胎しました
あなたの分身を見る、手にする資格がないと思ったのです
私は生きる価値のないそんな最低な人間です
あなたとお付き合いするようなことは許されないのです

あなたが私を探し回る姿が目に浮かびます
でも気付いてほしいのです
私はあなたが慕うような価値のない人間だと

私が向かうのはかつてあの人が逝った場所
電車の中からもその美しい自然の広がりが見えます
真っ白な雲が低く地平線に接するあの山の頂
私はあの人と共に生きる道を選びます

ありがとう、さようなら

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