THE KUROSAKIC RADICAL

こちらは『闇の末裔』の密を幸せにするサイトでしたが、
サーバー廃業により、当面、ブログで密を愛することにしました。

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都密ホラー小説『桜の鬼』4

2017-04-21 07:39:03 | 小説
 都筑はカチカチと鳴る歯を食いしばり、泣きながらも大きく息をつくと、ポケットから呪符を取り出した。
 「急々如律令勅逐怪破邪符!」
 恐怖に震えてしまった声で呪文を唱え、呪符を密に向けて放つ。
 気づいた密は咄嗟に結界を張り、呪符は目に見えない壁に阻まれて、はらりと地に落ちた。
 効力を失った呪符を拾い、密が都筑を詰る。
 「こんなもの投げて、もし俺が避け切れなかったら、どうすんだ?密が大事なんじゃなかったのかよ」
 ひっと都筑は息を飲んで怯えた。
 「なっ!ひ、人質取ったって、そういうつもりかっ!」
 都筑が金切り声を上げる。
 「察しがいいな」
 血に濡れて、ほのかに光る唇で、あっさりと密が言う。
 泣きながら、都筑は密の中の人喰い鬼に叫んだ。
 「ふ、ふざけるな!密を返せっ!!!」
 (ごめんな、密)
 都筑は唇を噛むと、口の中で小さく呟いた。
 そして都筑は印を結び、呪文の詠唱を始める。
 それを耳にした密は、邑輝の右手から口を離し、都筑を見据えて告げた。
 「その呪文、霊縛だな?あの時は、悪魔に憑かれたお前がどんな状態か分かってたんだが、今回はどうなんだ?」
 密の言葉に、都筑は目を見開いた。
 「ど、どうって」
 「密はエンパスだから、お前が悪魔から逃れたがってると、分かったんだ」
 それに都筑はぎくっとつまった。
 「な、何が言いたいんだっ!?」
 密の冷たい緑の瞳が、都筑を射抜く。
 「効力が強すぎて、精神に負担がかかるんだろう?無防備な状態で精神に負担がかかったら、どうなるんだ?」
 びくっと都筑は震えた。
 「そ、そんな・・・」
 無防備な状態の精神に負荷をかけたら、そんなの、赤子の手を捻るようなもので。
 そんなの、簡単に。いとも簡単に。
 精神が壊れてしまう。
 くっと都筑は奥歯を噛み締めた。
 「さっき、密は深い眠りの中にいると言ったよな。信じる信じないはお前の勝手だが」
 もし、本当に、そんな無防備な状態だったら・・・。
 都筑は結びかけていた印を解いて、ぐっと拳を握った。
 その拳でドンと地面を殴る。
 「密を返せ!!」
 「ああ。邑輝を食い殺したら返してやるさ」
 そう言って密は邑輝の右手に視線を移し、バキッと手の甲の骨を噛み砕く。
 「ぎゃあっ」
 飛び散った血を舐め、邑輝にじわじわと苦痛を与えながら、密は邑輝の右手をすっかり食べた。
先の無くなった手首の太い血管に歯を立てて、生き血を飲み込む。
 「うっ、ひっ、い、や」
 邑輝の右腕を食む密と、邑輝の苦しそうな顔を見て、都筑は息を飲み、ゾクッと背筋を震わせた。
 「ひ、密・・・・・」
 都筑の眼から、ぽろぽろと涙が零れ落ちる。
ぴちゃっと、密が苦しむ邑輝の血を啜る音がする。その生皮に歯を立てて、肉を噛み千切ると、邑輝の掠れた悲鳴がした。
 「苦しいか?」
 さらに傷口に歯を立てて、密はその血肉を喰らった。
 「グウウッ!」
 邑輝は苦しみを紛らわそうというのか、この期に及んで逃げようというのか、身じろいだ。その邑輝の身体を、四肢に巻きついた桜の枝が、ぎりりと締め付ける。
 振り解こうとしても、びくともしない。
 「ギャッ!」
 密は邑輝の右腕に顔を埋めるようにして噛み付くと、溢れる血を吸い込みながら、蠢く肉を舌であやしながら、食い千切る。
 掠れた邑輝の悲鳴が、月夜の桜の森に響く。
 「密・・・・」
 (いやだ、こんな密、見たくない。見ていたくない)
 邑輝の血肉を咀嚼しながら、苦痛を堪えるその邑輝の顔を見ながら、密はその苦しむ様を楽しんでいるようだった。
 「苦しいだろう」
 身を苛まれながら、邑輝は呻いて身体を痙攣させる。
 「ヒイィ!ヒイィ!」
 涙をいっぱいに溜めては零して、都筑は、邑輝の悲鳴を聞きながら、邑輝を生きたまま食べ続ける密を見る他なかった。
 「・・・さん、つ、づき、さ」
 苦しそうな微かな邑輝の声に、都筑はぎくっとした。
 「た、す、け、て」
 ドクンと心臓が撥ねる。
 「だ、誰がっ!そ、そんな、自業自得じゃないかっ!お前は、密を苦しめたんだからっ!」
 怯えに怯えて都筑は叫んだ。
 「み、すてる、んで・・・か?」
 都筑は涙をぼろぼろ流した。 
 「だ、だ、誰がっ!」
 お前なんか、誰が助けるものかっ!
 その言葉が掠れて空を切る。
 「その通りだ、都筑。この邑輝は、お前の大切な密を苦しめて殺したんだ。
 呪術に明るいお前なら、呪詛がどれほど苦しいか、想像つくだろう?その苦しみを可愛い密に味わわせたのが、この邑輝だ。
 だから、何も、後ろめたさを感じることはない」
 邑輝の生き血で喉を潤しながら、涙する都筑に密が囁く。
 「ずっと聞いていたんだ。密を心配するお前の声を。密を捜し求めて泣き叫ぶお前の声を。
 それほど密が大事なんだろう?
 だったら、こんな絶好の復讐の機会を無にしたら、後で密に怒られるんじゃないか?」
 「・・・でも、密は、こんなこと、喜ぶのか?」
 頼りなげな瞳で、都筑は邑輝の右腕を喰らう密を見上げた。
 「気分のすくのは間違いないな」
 密の、いや、人喰い鬼の言うことは、正しいのだろう。
 「つ、都筑、さん、助け、て」
 助けを求める邑輝の声から、都筑は耳を塞いだ。
 「だって、お前は、邑輝は、密を苦しめたんじゃないかっ!殺したんじゃないかっ!」
 目も閉じて、都筑は苦し紛れに叫んだ。
 「それに今までだって、沢山の人を苦しめて、殺してきて!そんな人間、誰が助けるかよ!!」
 言い訳がましい声音を交えずに言えるような人間だったら、楽だったのに。
 どうして、酷いことを言っている気になってしまうのだろう。
 耳を塞いでも、悲鳴が聞こえてくる。悲鳴に混じって、自分に助けを求める言葉も聞こえる。それは否定しても否定しても、耳について回る。
 聞きたくない。
 都筑は項垂れて、膝を抱えて、顔を覆った。
 そうして、また、自分は逃げるんだ。
 守れなくて、助けられなくて、見捨てるしかなくて。
 だから守りたくて、助けたくて、死神になったのに。
 そんな過去までが思い出されて、辛くなる。
 血まみれの、死にかけの人間に過去を呼び覚まされて。
 心も混乱してくる。
 馴染んだ、昔に馴染んだ空間。
 そこは、狂気に満ちた心の闇の中だった。
 
 
 
 月光は、満開の桜に遮られて、都筑の心には届かない。
 密は、生きたままの邑輝の血肉にかぶりつく。右腕、左手の指に腕。右足の指、足、左足の指、足。
 その骨までも砕いて飲み込む。右の脛、太腿、左の脛、太腿。
 邑輝の四肢を縛めていた桜の枝は、四肢がなくなったことにより役目を終えて、するすると後退していく。まるで祝福するように、密の上に桜の花びらをはらはらと舞わせて。
 邑輝の腹の生皮を剥いで、咀嚼する。心臓と肺以外の臓物を一つ一つ取り出して。
 満開の桜を謳うように、邑輝の叫び声が音楽のようにこだまする。
 殺してしまわないよう気をつけながら、密は味わう。頭蓋骨をかち割って、脳みそを。
 最後に心臓を食べ終えて、密は邑輝を喰い殺した。
 夜明けとともに、邑輝の悲鳴も絶えて、桜の森に光と静寂が訪れる。
 
 
 
 都筑は背を丸めて蹲り、正気を無くしたままだった。
 密は、都筑の頬に手を添えて上向かせると、都筑の狂気に染まった紫の瞳を覗きこんだ。
 「おいで、都筑」
 朝日を受けた桜の花びらが、きらきらと輝きながら、都筑に降り注ぐ。
 そして清浄な朝の光を、都筑の胸の内にも導く。
 「こっちへ帰って来いよ。密が待ってる」
 闇の中で泣いている都筑を照らし、都筑に手を差し伸べる。
 (ひそか、そうだ、密は!?)
 都筑はその手を取ると、ハッと正気に戻った。
 「密!?」
 密はすぐ隣で、規則正しい寝息を立てていた。
 『もう憑依は解いた』
 どこからか声がする。
 『せいぜい大切にしてやれ。また攫われないようにな』
 「・・・ああ。密は、俺の最後の、最愛のパートナーだから」
 どこかへ消えてしまった人喰い鬼に、都筑は誓いを込めて告げた。
 
 そして、自分の腕の中に戻って来た密を強く抱き締めて、その存在を感じた。
 「ん・・・」
 「密?」
 抱擁に目を覚ました密に、都筑はとびきりの笑顔を向けた。
 寝惚けまなこの密は、一つ欠伸を噛み殺した。
 密のこんな小さな仕種まで、可愛らしく思える。
 「バカ」
 都筑の思考を読むと、密は呟く。
 いつも通りの密の一言が、都筑の脳裡に幸せに響く。
 「気分、良いみたいだな」
 「ああ、よく寝たから」
 その言葉に、密が何も覚えていないのを感じ取り、笑みを深くして、都筑は心の底から安堵した。
 
 
 完
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