THE KUROSAKIC RADICAL

こちらは『闇の末裔』の密を幸せにするサイトでしたが、
サーバー廃業により、当面、ブログで密を愛することにしました。

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18禁閻密小説『in Dei Patris』4

2017-04-21 09:13:04 | 小説
密はその日一日中、召喚課の机の上で腕の傷を気にしていた。
 朝の内はシャツの上から触るだけで激痛が走ったのに、時間が経つにつれ痛みが薄らいでいく。
 痛みで愛されたことを確かめていたのに、それがなくなっていくと、不安になる一方で昨夜の記憶も薄れていった。
 (自分が誰かに愛されたなんて、嘘だったのかもしれない)
 何の痛みも感じなくなると、昨夜のことが信じられなくなって、ぼんやりと夕暮れの空を眺めながら密はそんなことを思った。
  
 近衛の直通の電話に内線が入ったのは、終業時刻間際のことだった。
 受話器を取ると、近衛の耳に閻魔の笑いを含んだ声が響いた。
 『新しい玩具を持て参れ』
 嘲笑う閻魔の声に近衛は戦慄を覚え、しかし畏怖の念に逆らって声を押し出した。
 「・・・玩具とは」
 『黒崎密じゃ』
 予想通りの返答に、近衛は湧いた怒りを封じ込めた。
 閻魔にとって、この冥府にあるものは全て、自身の所有物なのだ。人間も例外でなく。
 所有物なのだから、人間も物として扱う。
 そして黒崎密という人間に冠せられた名が、玩具。
 それに今更怒ったところでどうしようもないが、これ以上密を傷つけるのは避けたかった。
 「・・・できません。黒崎君はまだ子供です。あのようなことをなさるのは」
 『子供だから良いのだ。幼ければ幼いほど、すばらしく鮮やかに私の色に染め変わってくれよう?』
 愉悦に満ちた声を聞いて、近衛は同じ言葉が通用しないことを改めて思い知った。
 使い勝手が良いか悪いかでしか、閻魔は判断を下さない。人間の意志や都合を構う神ではないのだ。
 『申したであろう?あの死神の使い道を思いついたのだ。突出した能力がない代わりに、その忠誠を買ってやるのだ。忠実な奴隷に仕立ててな』
 言葉を返さずにいる近衛を見透かすように閻魔が続ける。
 『今宵連れて参らぬと申すなら、それで構わぬぞ?明日の夜に二夜分の躾をすれば足りることだ。それが密にどれほどの負担を強いるか、見るのも興あること』
 その言葉に近衛は背筋をぞっとさせた。
 命令に逆らえば密に跳ね返ると、そう閻魔は言うのだ。
 『しばらくは密を夜の楽しみとしてやろう』
 閻魔は近衛にそう言い置いて通話を切った。
 近衛は閻魔の言葉を噛み締めて、深い苦悩の溜息をついた。
 
 「黒崎君」
 虚ろな瞳を窓の外に向けていた密は、近衛の声にハッと振り返った。
 ついて来るようにと目顔で言い、近衛が背を向ける。
 重苦しい近衛の感情を不思議に思い、密は席を立って近衛に続いた。
 「黒崎君、本当に申し訳ない」
 廊下に出ると、近衛が人目を憚って小さな声で言った。
 「今まで大王様の目に留まらぬようにしてきたつもりじゃった。幸い、大王様の面接試験を免除して死神になったのじゃ。そして都筑のパートナーにつけば、都筑の存在に隠れて黒崎君には目は行かぬと思ったのじゃ。唯一の懸念は、あの雪貴の孫に呪殺されたことで、大王様の興味を惹かないかどうかだった。
 ・・・死しても残る呪詛とは思いも寄らなかったからの」
 周囲を気にしながら、近衛が囁くように口早に言う。
 「大王様の興味を惹けば、後についてくるのは屈辱だけじゃ。自分の意思も捩じ伏せられて、果てしない服従を強いられる。死神をそんな目に遭わせるのはもう沢山と、思い定めておったのじゃ。それなのに、守れなくてすまなかった、黒崎君」
 辛そうに謝罪の言葉を口にした近衛に、密は慌てて口を挟んだ。
 「ちょっと待って下さい。課長が謝るようなことは別に何も。俺が悪かっただけですし」
 「いや、大王様の目に留まれば最後と分かっておったのじゃ。それを止められずに、本当に申し訳ない。
 黒崎君、すまんが今日も大王様がお呼びじゃ」
 苦痛を露にして近衛が言い、密を促して歩み始めた。
 密は歩き出した近衛を追いかけて、混乱する頭を抱えながら疑問を口にした。
 「あの、昨日のことは」
 屈辱だったんですか、そう訊こうとして、密は喉の奥で言葉を引き留めた。
 (直接確かめた方がいい)
 愛されたなんて嘘かもしれないけど、本当かもしれない。
 もしかしたら、愛されたのかもしれない。
 そんな曖昧で真実味の薄い認識でも、しがみつくには充分だった。
 そんな錯覚すら、覚えたことなんて今までに一度もない。
 まだ、もう少しだけ、引きずっていたい。
 密はそう強く思って、左腕を握り締めた。愛情を確かめていたはずの痛みは、もうどこにもない。
 「黒崎君?」
 近衛が密を心配しながら、その言葉の先を促した。
 「いえ・・・」
 それ以上喋ると不安が悲鳴になりそうで、密は慌てて口元を押さえた。
 もしかしたら愛されたのかもしれないと思うと、急に不安が大きくなる。
 何故って、自分が世界の誰かから愛されるなんて、あり得ない。
 疑う余地のない確かな過去が、空想に似た期待など簡単に吹き飛ばしてしまう。
 「すまない」
 いつの間にか震えていた密の肩を、近衛が慰めるようにさすった。
 酷い目に遭わせてすまないと、心配と後悔と謝罪の念が近衛から密に流れ込む。
 これから自分は酷い目に遭って、愛情とは無縁の屈辱を受けるのだ、近衛の感情は密にそう教えていた。
 これから愛されることなどあり得ないと。
 「触らないで下さい!」
 今一番見たくないものを見せつけられて、密は思わず声を上げた。
 「悪かった」
 エンパスを相手に不用意なことをしたと、近衛は密に謝った。
 「っう」
 密は喉の奥を引き攣らせて、目の端に涙を滲ませた。
 罪悪感と憐憫の情を向ける近衛の視線が痛い。
 愛されたなんて、嘘だ。
 愛されるわけなんてない。
 他に真実はどこにも見当たらない。
 愛された真実など、どこにも見当たらない。
 あるのは、自分に都合の良すぎる幻だけだ。
 そんな現実しかないように思えて、密は両手で口を覆うと、嗚咽を必死にこらえた。
 声を押し殺して泣き出した密を、近衛が心配そうに見つめる。
 「黒崎君・・・」
 涙の意味を誤解している近衛に、密は首を横に振った。
 呼ばれたのが嫌なんじゃない、愛されないのが嫌なんだと、説明しようにも声にできなかった。
 涙に息を詰まらせる密に何も言えなくなり、到着するまでの間、近衛は無言のまま密を見守るばかりだった。
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