THE KUROSAKIC RADICAL

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サーバー廃業により、当面、ブログで密を愛することにしました。

都密ホラー小説『桜の鬼』2

2017-04-21 07:26:22 | 小説
夕闇も密も、都筑だけを残して消えてしまった。
夜の闇の中で、都筑は喉も裂けよとばかりに密の名を呼んだ。
「密ぁ、密ぁ!!!」
折り重なる桜の枝の天蓋から、月明りが仄かに洩り来る。
その月明りが満開の桜たちを照らし出して、幻想的な眺めを生み出していた。
都筑はその白く浮かび上がる桜の明かりを頼りに、桜の木々の合間を縫って飛んだ。
「どこに居るんだ、密――――!」
声が枯れるほど叫び続けているのに、応えはない。
進んでも進んでも果てのない桜の森に、都筑は眩暈を覚えた。
都筑は大きく息を吸い込むと、何度目かの召喚呪文を唱えた。
「大気の刃、真空の鋼、白銀の牙に宿れ!出でよ、白虎!!」
虚しく声が響くだけで、何の反応もない。
「やっぱりこの森の所為かっ」
都筑は舌打ちした。
この森では、式を一切召喚できない。
恐らく、この森に何らかの力が働いていて、この空間を特殊なものにしている所為だろう。もし本当にいるのならば、ここに棲むという人喰い鬼の力が働いているのかもしれない――――。
そう思い至ると、都筑は胸が張り裂けそうなくらい不安になって、大声で叫んだ。
「邑輝もだけど、これじゃ、その人喰い鬼って奴もやばいじゃないか!密ぁ――――!!」
都筑は何度も何度も密を呼び、この広い桜の森のどこかにいる密を探し回った。
月明りを浴びた桜の所為で僅かに視界が利くものの、けれども暗闇であることに変わりはない。
(密は暗闇が苦手なのに)
胸にズキッと痛みが走る。
あの時は、北海道のあの夜は、強がってはいたけれど、やっぱり随分怖がっていた。
それにあの時はすぐ傍に居たから、密に手を差し伸べることができたけれど。
今は密は一人ぼっちで。 それに密は、昼間の桜は平気でも、夜桜が大の苦手なのに。
辛いことを思い出すから、密は口には出さないけれど。
「だから、こんな夜の桜の森なんて、こんなの、密は絶対に駄目なのにっ!」
それなのに、こんな所に一人で居させているのかと思うと、密に申し訳なくて、かわいそうで堪らない。
都筑は密が心配で心配でどうしようもなくなって、掠れた悲鳴を上げた。
「密ぁ―――!どこに居るんだっ!!」
ぼろっと涙を零す。
(ほんの一瞬でも、目を離すんじゃなかった!!)
その後悔に都筑は涙を流して、ぐっと唇を噛み締めた。
「密!密!密ぁ――――!!!」
泣き叫んで、都筑は何度も密を呼び続けた。
するとどこからか、女性の甲高い悲鳴が上がった。
「何っ!?」
都筑はハッとしてその声の方に飛んでいった。

「急々如律令勅逐怪破邪符!」
都筑はその女性に襲い掛かっていた邑輝を認めて、ビシッと呪符を投げつけた。
邑輝がサッとそれをかわすと、その隙に乗じて女性はなりふり構わず逃げて行った。
「お前、ここで何やってるんだよ!」
都筑は荒い息のまま邑輝に怒鳴った。
「嬉しいですね、嫉妬してくれるとは」
逃げる女性の背にクスっと笑ってから、邑輝は都筑に向き直った。
「会いたかったですよ、都筑さん」
微笑みを浮かべながら、散った桜の花を踏んで、邑輝は都筑に近づいた。
「なな何言ってんだよっ!お前、こんなとこで何してるんだ!?何でお前がここにいるんだっ!?これはお前の所為なのか!?密をどこにやったんだ!!!」
泣き喚く都筑に微笑むと、邑輝はそっと都筑の右手首を時計の上から掴んだ。
「待ってたんですよ、都筑さん。こんなに優しいヒントを出したのに、どうしてすぐに会いに来てくれないんですか?」
邑輝はそう言うと、都筑の時計にキスをした。
「もっと早く来てくれれば、死なずに済んだ子も居たのに。ねぇ、都筑さん?」
都筑はびくっとして、邑輝を見上げて震えた声で言った。
「この事件、お前が」
「腕時計、素敵な小道具でしょう?そう思いませんか?」
邑輝は都筑の時計を、その下の傷を意識させるようにゆっくりと撫でた。
「あなたに早く見つけてもらう為に、わざわざ死体から腕時計を外して、そこに貴方の名前を刻んで、この森の入り口に捨てたんですよ。見慣れない、この村の者のではない腕時計が落ちていたら、そしてそれがこの桜の森に捨てられた死体の物だと分かったら、そしてそこに死神の貴方の名前が刻まれていたら。
こんな分かりやすいヒント、今までになかったはずですよ?」
「まさか、お前があの行方不明者、全員を」
都筑はカラカラになった声で言った。
「行方不明者?まだ死体を見つけてないんですか?そういうことでしたら、わざわざ撒いた腕時計とこの事件を関連付けることも難しかったでしょう」
失笑する邑輝に都筑は声を荒げた。
「違う、そうじゃない!密が言ってた!
この森には、人喰い鬼が棲んでいるという言い伝えがあって、昔はここに生贄を捧げていたんだ。今は捧げていなくても、その代わりに、この桜の森に入ってくる余所者を生贄の代わりにしてるんだ。
今日だって、ここの村の人達は、俺たちがこの桜の森に入ってその鬼の生贄になるのを望んでたんだ。
そんな村だから、一度ここに入った、しかも余所者の人間だなんて、探し出すはずはないっ!だってそれは、自分達は犠牲にならない、丁度いい生贄なんだから!」
「成程。私が攫って来たあの子たちは、余所者だからと探さずに生贄にしてしまった、と。
証拠である死体を消されては、あなたに会うのが遅くなったのも、無理はないですね」
フッと邑輝が苦笑を洩らして、都筑の腕を引き寄せた。
「そいつをどうするつもりだ?」
不意に、都筑のものでも邑輝のものでもない声が響いた。
「密!!!」
密は桜の木に背を預けて、腕を組んで邑輝を睨んでいた。 
「良かった、密!無事だったんだな!!」
都筑は邑輝の手を振り解くと、顔を輝かせて、捜し求めていた密に走り寄った。
「心配してくれて嬉しい、都筑」
「え?」
密の言葉に、都筑は足を止めた。そんな言葉が密の口から出るとは、思ってもいなかった。
「あいにくとデート中なんです」
邑輝が舌打ちすると同時、大きな銃声が響き、背中から心臓を撃ち抜かれて、都筑がその場に倒れた。
硝煙を上げる拳銃を構えた邑輝と、どくどくと血溜りを作り出す都筑に、密は棘を含んだ声で言った。
「そいつを殺してどうすんだよ」
「生き返る前に、坊やを動けなくしてあげるんですよ」
にっこりと笑って、邑輝は密に近づいた。
すると、密が邑輝に掌を向け、霊力の塊を邑輝に放った。
「そうはいかない」
邑輝はそれを結界で防き、衝突した霊力がバチバチと火花を散らした。
「私を襲うなんて、百年早いですよ、坊や」
「襲う?今のは単なる挨拶だ。呪詛の返礼をしないとな」
密は自身の胸に手を当てて、邑輝を睨み据えた。
「この呪詛、倍にして返してやる!」
カッと閃光が迸る。
「ぐわああああぁぁっ!?」
次の瞬間、邑輝は膝を折って倒れ、その絶叫が夜の闇にこだました。
「ぎゃああああっ!」
呪詛を返され、自分がかけた呪いを自身の身に受け、邑輝は苦しみ出した。
「もっと苦しめないとな。この身の苦しみをたっぷり味わえ」
「はがっっ!あああっ!苦しっ!」
密は、呪詛の苦痛に歪む邑輝の顔を冷たく見下ろし、顔面に蹴りを入れた。
「ぐっ!や、めなさ、い」
邑輝は身体を苛む苦しみにもがきながら、呻き声を上げた。
「自分で施した呪詛が、お前を痛めつけ、苦しめているんだ」
呪詛の効力を確かめるように、密は邑輝を足蹴にする。
「グウッ!ゲフッ!ゴフッ!」
あまりの苦しみに、邑輝がのたうちながら血を吐いた。
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