THE KUROSAKIC RADICAL

こちらは『闇の末裔』の密を幸せにするサイトでしたが、
サーバー廃業により、当面、ブログで密を愛することにしました。

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都密ホラー小説『桜の鬼』1

2017-04-21 07:22:42 | 小説
 都筑と密は、調査の為に大桜森村へと降り立った。
 事務局によれば、ここ数日の内に、この小さな村で行方不明者が続出しているという。いずれも村外から来たという以外、行方不明者に共通点はない。
 「ほとんど何も分からないってことなら、聞き込みから始めるしかないか」
 密が都筑を振り仰ぐと、都筑は近くの桜の森に見入っていた。
 「きれいだな」
 都筑の視線の先は、満開の桜が奥深くまで続く、大きな森だった。
 「花見に来たんじゃねぇんだよ、バカ」
 「痛いっ!」
 密は溜息混じりに、都筑に拳を振り上げた。
 「でも、すごくきれいだと思わないか?」
 「観光名所にならないのが不思議だな」
 尚も桜を見つめる都筑に頷いたものの、密は村の中へと歩き出した。
 「ごめん、密、待ってくれ」
 都筑は慌てて密の背を追いかけた。
 
 村人に聞き込みをしたところ、行方不明者は全員、あの桜の森に入っていったという事だった。
 他に手がかりもないので、とにかく桜の森に向かうことにする。
 途中、都筑は密の顔が青ざめていることに気が付いた。
 「密、具合が悪いんじゃないか?」
 屈んで密を顔を見つめてから、都筑はあたりをきょろきょろと見回した。
 休めそうなところというと、桜の森の手前が少し開けていた。
 「よっと」
 「バカッ」
 密をお姫様抱っこすると、密が小さく抗議したが、その声に元気はなかった。それどころか、密の震えが伝わってくる。
 「村の人に接して、シンクロして気分が悪いんじゃないのか?」
 精神感応能力が何かを感じ取ったのだろうと、都筑は、密のムッとして口を噤んだ顔を覗き込む。
 都筑はコートを脱いで草の上に敷くと、そこに密を横たえた。
 「少し休めよ」
 都筑はスーツのジャケットを脱ぐと、密に被せた。都筑もコートの上に座ると、密に寄り添ってその頭を持ち上げて、自分の膝の上に乗せた。
 「ッ!」
 密は都筑を睨み上げたが、反論はせずに素直に都筑の膝を枕にした。
 「あのさ、都筑。この桜の森の中、人喰い鬼がいるぜ」
 密はけだるそうに言葉を吐き出した。 一秒でも自分の胸に留めておきたくない勢いで、密は村人達から感じ取ったことを話した。
 「長いこと、もう何十年、下手すると何百年も前から、この森には人喰い鬼が住んで居るんだ。そして昔からこの村は、その人喰い鬼に生贄を捧げていたんだ。今じゃ、生贄を捧げてはいねぇけど」
 密は目で桜の森を示した。
 都筑は目を丸くして、言葉を失った。
 「けど、ほら、この桜綺麗だろう?何にも知らない村の外から来る者は、ついつられて中に入っちまう。今じゃ、それを生贄の代わりとしてるんだよ。
 村人達が言ってた、誰かがあの森に入っていったなんてのは、嘘なんだ。その行方不明者を追って、俺達があの森の中に入って、新たな生贄になるのを期待したんだよ。ひでぇ話だろ?」
 「ああ、そうだな。怖かったろう」
 そんな殺意さえも含んだあからさまな意識を受けて、密が可哀相に思えて、都筑は背を丸めて密を抱きしめた。
 密は何も言わずに少し身体を起こすと、都筑の腰に腕を回してぎゅっと抱きしめた。
 その身体はまだ震えていた。
 都筑はしがみつく密を大事そうに抱きしめて、震える密の背を何度も何度も撫でた。
 そうして密が少し落ち着いた頃に都筑が言った。
 「眠るといいんだよね。傍についてるから、少し寝たら?何かあったら起こすからさ」
 「悪ぃな」
 力ない声で謝る密に、都筑はぽふぽふと密の頭を撫でた。
 「いいんだよ」
 そんな都筑の優しい感情を聴きながら、いつの間にか密は眠りに落ちた。
 都筑の腰に回されていた腕が力をなくしてだらんと落ちる。
都筑はにこにこしながら、無心に寝息を立てる密の顔を覗き込んで囁いた。
「無理するなよ」
都筑が密を休ませながら、ひらりひらりと風に舞う桜の花びらを眺めていると、草の上に何か光るものを見つけた。
「?」
 不審に思い、ゆっくりと密の頭をコートの上に置いて、立ち上がった。
 光るものは、どこにでもあるような腕時計だった。それがいくつも落ちている。
 一つを拾って見てみると、ベルトも金具も傷んでいない。
 何かの拍子に落としたとは考えにくかった。
 裏返してみると、都筑はそこに刻まれた文字にぎょっとした。
 “ASATO TSUZUKI"
 ローマ字で自分の名が刻まれていた。
 死神である自分の名を知っている者は。そして事件を起こす可能性のある者は。
 「まさか!」
 都筑は思わず叫び声を上げた。
 いくつもの腕時計には全て、自分の名が彫られている。
 「邑輝・・・?」
 そう呟くと、都筑はぶるっと肩を震わせた。
 (密に何て言おう)
 都筑は掌の腕時計を見つめながら思い悩んだ。
 気持ちも言葉も整理するのに、少し時間が欲しかった。
 出来ることならこのまま密を閻魔庁に帰してしまいたい。
 あの邑輝と会わせて、密を傷つけたくないから。思い出すだけでも、随分辛そうにしていたから。
 だから、もう、少しでも辛い目や、苦しい目になんかに、密を遭わせたくない。
 そして、恨みや憎しみに染まる密も見たくはなかった。
 そんな感情は、ない方がずっといいから。
 全ての苦しみから、密を遠ざけたかった。
 もうこれ以上、密を傷つけたくはなかった。
 (このまま、体調不良に託けてとりあえず帰ってしまおうか)
 その思いつきに縋って、都筑は振り返って密の許に駆け寄る。
 密の元へ向かいながら、都筑は何度も目を擦った。
 夕闇が降りてきて、視界が悪い所為だろうか、密の姿が見えない。
 嫌な予感に苛まれながら、都筑は走り出した。
 「密!!!」
 不安になって大声で都筑はその名を呼んだ。
 バンっと密が居たはずの草の上を手で叩く。
 自分のコートとジャケットだけがそこにあった。
 密が、居なかった。
 「密っ!どこ行ったんだ!!」
 コートにもジャケットにもまだ密のぬくもりが残っていた。
 ここを離れて、そう時間は経っていないはずだ。
 都筑はスマホを取り出して、密にかけた。
 けれど、繋がらなかった。
 圏外か電源が入っていないためと、冷たい機械音声が流れる。
 「密っ!どこ行ったんだよっ!!」
 涙を滲ませて都筑はスマホに叫ぶと、懐から呪符を取り出して、使い魔を喚んだ。
 尾の長い幻鳥に密の行方を追ってもらうよう頼むと、ばさっと羽を羽ばたかせて、使い魔は桜の森の方へ向かっていった。
 「何っ!?」
 その使い魔が桜の森に入った途端、鳥の姿が消えて、元の呪符に戻ってしまった。
 都筑は慌てて駆け寄って、その呪符を拾い上げると、桜の森を睨みつけた。
 「この中に居るんだなっ!」
 そう言って都筑は人喰い鬼が棲むと云う桜の森に足を踏み入れた。
 「密!!どこだっ!!!」
 不安に押し潰されそうになりながら、密の名前を何度も何度も呼んで、都筑は森の奥へと翔けていった。
 (まさか、邑輝に攫われただなんて、そんなことないよな!?密っ!!!)
 最悪のケースを想像して、都筑は金切り声で密の名を呼んだ。
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