今日の一言

日々の生活の中で見つけた「なぜ・なに」について書いています。

医学と進化について

2017-06-10 15:09:57 | Weblog
 これは今年初めに私が医師会の会誌に寄稿した文章です。

 2年前に飼い犬を病気で亡くした事が、私に人間に限らない医学を考えさせるきっかけを与えてくれました。動物は人間と違って話す事がありません。また苦しい時にも苦悶の表情を示しません。言葉や表情に頼らない検査だけの医学の限界を、愛犬の闘病中に痛いほど知らされました。初めはそのような事を文章にまとめようと思っていました。ところが、文章を書けば書くほどに悲しくなりました。そこで少し視点を変えてこのような文章にまとめました。少し難しい内容もありますが、ぜひご一読下さい。

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 医師になるために医学を学び、医師になって医術を磨き、一息ついた頃にふと気になる事がありました。それは生物がどのように進化してきたかという事です。解剖学の講義では、骨、筋肉、臓器、神経や血管といった膨大な内容を勉強しました。しかし思い返せば人間の体がなぜそのような形になっているのか、言い換えると生物の進化の中でどのような過程を経て人間という形態が出来上がったのかという事を習う機会はあまりありませんでした。

アメリカのNIHに留学して喉頭学の研究に携わっていた時に、犬を使った声帯の吹鳴実験を見学する機会がありました。犬の喉頭はヒトの喉頭と構造が似ているため、実験対象に用いられる事が多いのです。しかしここで素朴な疑問がわきました。犬以外の動物の喉頭はどのようになっているのだろう。加えて動物の喉頭はどのように進化してきたのかという事も知りたくなりました。

ヒトの起源を原人レベルまで遡った時に、喉頭の位置が高い種族と低い種族があったそうです。喉頭が高い位置にある種族は声帯からの音を共鳴させる空間が小さいため、声を変化させる事に限界がありました。一方で喉頭が低い位置にある種族は共鳴腔を自在に変化させる事ができたため、様々な声を出すことが可能でした。このため声を多様に変化させる事ができた後者の種族は前者の種族に比べて、仲間を統制する時や危険に晒された時に互いのコミュニケーションをとる事が可能になり、結果として長く種族を絶やすことなく後世に生き延びていく事ができたと言われているそうです。

ある動物はなぜか声帯が萎縮してしまい、喉頭で声を出せなくなってしまいました。そんな不運な動物がウサギです。しかしウサギの鳴き声を聞いた事があると思いますが、あれは声帯ではなくノドの別の場所を震わせて鳴いているそうです。本来動物は声を使ってコミュニケーションを取りながら生きているものが多いとされています。しかしウサギは声帯を使う事を放棄したにもかかわらず、現在に至るまで種族を絶やす事はありません。これは大変不思議で興味深い事です。

高校生の頃から愛読している講談社のブルーバックスからは、生物の進化と医学を重ねた書籍が出版されています。少しずつこのような本を読んで、人間に限らないもっと広義の医学を学んでみたいと思う今日この頃です。


武田耳鼻咽喉科
武田直也

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