明日につなぎたい

老いのときめき

風の群像

2017-06-16 14:10:39 | 日記

 歴史小説の作家、杉本苑子さん(91歳)が5月31日に亡くなった。6月14日の毎日新聞夕刊に、末国善己氏(文芸評論家)の追悼文が出ている。表題は「権力の暴力性暴く史観」。そうだ!全く躊躇うことなく共感した。私が読んだ杉本さんの作品は「風の群像ー足利尊氏」(講談社文庫・上下)という長編小説である。私と杉本さんは同年代。少年、少女のときは皇国史観一色、足利尊氏は逆賊の総大将だと教えこまれている。戦後、真実を学んだ杉本さんは、これをひっくり返した。「風の群像」で。

 杉本さんは「誤った歴史を書かないように徹底的に史料を調べ・・・日本が誤った道を進まないようにするため、歴史の中から教訓を掘り起こし物語を紡いだ」(前記・追悼文)。皇国史観からの脱出だった。「風の群像」は、南北どちらが正統かを争った南北朝対立時代(1300年代)の人間を描いている。要するに、戦後まで信じこまされていた、皇国日本に都合良く持ち上げた人物の虚構を剥がしたのである。後醍醐天皇は名君ではなく暗愚の帝王だった。足利尊氏は優れた武将だが、冷酷な逆賊ではない。妻子、部下を想う一人の人間だった。

 南北朝対立の結末がどうだったか、この小説の解説にある。室町から戦国時代にかけて、一般には北朝正統論が信じられていたそうだが、江戸時代の水戸光圀の『大日本史』、頼山陽の『日本外史』などで南朝が正統化され、楠木正成ら南朝の忠臣が賛美される。幕末討幕運動の旗印にもされた。明治天皇は南朝正統を勅裁した。以来、大正、昭和と受け継がれる。小学生だった杉本さんも私も南朝正統を信じこまされていた。尊氏顕彰論を唱えた商工大臣は、乱心賊子として罷免された。以後、日本は一路、侵略戦争に突き進んだ。

 「風の群像」の解説者が杉本さんのモチーフに触れる。「いままた、この国には奇妙な風が吹き始めている。ためにする歴史教育のおそろしさは身にしみている・・・まげられ歪められてきた歴史の負債は自分の手で返さねば」。杉本さんは、この使命感をもって歴史小説を書いた。惜しみなく敬意を表したい。昨日、共謀罪が自公維の賛成で成立した。歴史の逆行だ。自由を求める群像が反撃の風を起こすに違いない。老いたる私も、この群像の中の一人である。

 

 

 

 

 

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