蓬莱の島通信ブログ別館

「すでに起こったことは、明らかに可能なことがらである」
在台日本語教師の東アジア時事論評あるいはカサンドラの眼差し

メディア暴力を考える2:メディアが作る「風評被害」(後)

2014年07月07日 | 20110311東北関東大震災と政治
(写真:成長の限界の概念
1.私企業の情報を妄信する国民の白痴性
 日本の社会的衰退の原因の大きな部分は、メディアの情報を妄信する国民の知的衰弱に求められる。今年のSTAP細胞謀略事件を見て、そう判断せざるを得ない。メディアの側の質が低下していく内に、国民の側も能力や知力が連動して低下していく。これも、まさに知の負のスパイラルだろう。
 メディア「暴力」を考える1:記者・編集者の「見識」「方法」の基本的欠如
 メディア「暴力」を考える2:メディアが作る「風評被害」(前)
 今のメディアは関係者を次々に殺害してもまったく反省の色もない以下の犯人によく似ている。言論か行動での暴力かという違いはあっても、基本にその行為の基本にあるのは、”自分は絶對者で、正しいのは自分だけ”という恐怖の傲慢さだけである。

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福岡・従業員殺害、「骨を機械で砕いて捨てた」
読売新聞 6月19日(木)11時25分配信
 福岡県筑後市のリサイクルショップ経営の夫婦が従業員の日高崇(たかし)さん(当時22歳)に対する殺人容疑で逮捕された事件で、夫の中尾伸也被告(47)(窃盗罪で起訴)が同県警の調べに対し、日高さんの遺体について「(筑後市内の)実家の庭に埋めて1年以上たってから掘り返し、骨を機械で砕いて捨てた」と具体的な供述をしていることがわかった。
 県警は事件が発覚しないよう、入念に証拠隠滅を図ったとみて慎重に調べを進めている。
 伸也容疑者と妻の知佐被告(45)(窃盗罪で起訴)は2004年5月上旬頃から、筑後市内の自宅アパートで、日高さんに殴る蹴るの暴行を加え、同年6月下旬頃に殺害した疑いが持たれている。
 捜査関係者によると、伸也容疑者は「日高さんが死亡してまもなく、自分の車を使って遺体を実家に運んだ」と供述し、「1年以上経過した遺体を、機械で砕いて近くの川に捨てた」と遺棄に至る経緯について説明しているという。
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 犯罪者は身体的暴力を摘発されるが、メディアの言論暴力や宣伝暴力はほとんど摘発されない。日本最悪の犯罪者は、こうしたメディアとそれに結託した広告会社である。現在の研究では、メディアが国民に対してメディアの希望する「現実」を捏造り出していることが知られている。以下の研究は、”少年犯罪激増”という実際には存在しない「現実」をメディアが”報道”で捏造している事例である。
 メディアが創り出す「現実」―少年犯罪をめぐる新聞報道を手がかりにして―
 こうした事実はまさに「メディア暴力」「メディア犯罪」と言えよう。

 今年のSTAP細胞弾圧事件は、メディアのこうした下等で品性下劣な言論暴力をいかんなく国民の前に晒している。「捏造」を報道している側の情報が実は「捏造」で成り立っているのであり、その報道者の知能程度も”エリート大学を出ました”というのが学歴詐称ではないかと思えるほどの、自己矛盾にすら気が付かない先進国の人間にあるまじき水準に低下している。
 STAP細胞問題の暗黒4:「専門家」「専門用語」というメディアの手品(まやかし)
 最近のニュースを読んでいると、その偽善的な澄まし顔から「バカ」や「白痴」が病原菌としてこっちに感染してきそうな汚穢性と汚物性を感じる。品性のかけらもない。”汚らわしい”、そんな言い方でしかもはや表現できないほど、その傲慢さと無能さは許容範囲をすでに超えている。「汚物」や「病原」に近づくとどんなに気を付けていても汚染される、現在のメディアの情報は基本的にそうした性質を持っており、遠ざけるのが一番適切な対応である。
 すでに「魔女扱い」という表現がネットでは出ているが、以下の対応はまさに「宗教裁判」そのものと言える。

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小保方さんが「魔術」使うことを危惧? STAP検証実験に「監視カメラ」3台
弁護士ドットコム 7月2日(水)19時2分配信
理化学研究所は7月2日、神戸市内で記者会見を開き、小保方晴子ユニットリーダーをSTAP細胞の「検証実験」へ参加させるための計画について説明した。
実験の総括責任者で、同研究所発生・再生科学研究センター(理研CDB)の相澤慎一特別顧問は、理研の改革推進本部の指示で、小保方リーダーの実験に監視カメラを導入することを説明。その理由について、「世の中にはそこまでやらないと、彼女が魔術を使って不正を持ち込むのではないかという危惧があるのではないか」と述べた。
小保方リーダーはこの日、神戸市にある理研CDBに出勤した。実験への参加が発表されてから初めてのことだ。相澤顧問は小保方リーダーの様子について、「使い物になる状況では・・・」と口にしたものの、すぐに「まったく不適当なので取り消させてください」と発言を撤回。「精神状態が落ち着くまでは、すぐに実験に入れる状況ではない」と説明した。
相澤顧問によると、7月は小保方リーダーの生活環境を整えることに注力する。そして、8月の1カ月間を、小保方リーダーが実験に慣れるための準備期間と位置づけている。その後、9月から11月末まで、本格的な検証実験をおこなう予定だという。
●実験室の入り口に監視カメラ、室内にも2台
小保方リーダーの実験には、透明性や信頼性を確保するためにいくつか条件をつけている。一つは、理研が指名した第三者の立ち会いのもとでおこなうこと。もう一つは、実験の様子を監視することだ。
小保方リーダーが使用する実験室は現在準備中だが、入り口にカメラを設置して、入室はカードキーで厳重に管理する。さらに、室内にも2台のカメラを設置して、培養などの実験の様子を監視するという。
さらに、テレビ局の女性記者から「入室の際に身体チェックをするのか」と質問されると、相澤顧問は「ボディチェックは考えていなかったが、必要だと判断されたら、女性の立会人にしてもらうことになると思う」と答えていた。
(弁護士ドットコム トピックス)
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 繁栄した旧大日本帝国を世界史上もっとも惨めな滅亡に導いたのは、テストの成績で選ばれ序列化され特権を貪る以外にまったく能のないエリート軍人官僚であったが、今、日本国を崩壊させようとしているのも同種の理研究所発生・再生科学研究センター(理研CDB)の相澤慎一特別顧問のような特権をむさぼる腐敗学歴エリート階層と言える。
 戦艦大和特攻作戦の全てに答える

 なぜ「日本国」は衰退するのか2ー1:奴隸制社会・日本から抜け出す道/地方の試行錯誤
 なぜ「日本国」は衰退するのか2ー2:奴隸制社会を支配する無能なキャリア
 奴隸制国家「日本国」の呪われた毎日2:「死地」に立つ市民
 日本的精神論の源流1:「死地」は「死地」ではない
 エリート階層が腐敗した国家が長く存続できた例は歴史には存在しない。メディアの腐敗も同じである。

2.メディアの「捏造」手法
 メディアは各種の情報操作の達人で、日本の場合は現代的ではないが効果的な情報操作=捏造方法を駆使している。STAP細胞謀略事件で使われているような、老人臭がする祕技(自社と経済的関係の強い証言者の発言を公平な第三者的権威者の証言に見せかけて提示し、客観性を僞裝する)は極めて前近代的で90年前の新聞にはすでにこうした引用の技法が見られる。ただ、インターネット時代にはすぐに身許が露見してこれはすでに有効ではない。
 その他の手段も種々利用されている。近年の技法のなかで一番よく用いられているのは、「フレーミング効果」であろう。

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フレーミング効果の課題
 いきなりですが、以下の問題を読んで、AかBの対策のうちどちらが良いか、選んで下さい。
問題  米国が600人を死亡させると予想される珍しいアジアの疾病の流行に対して、AとBの2つの対策が準備されています。AとBはそれぞれ次のような結果が予測されました。
・Aの対策…200人が救われる。
・Bの対策…3分の1の確率で600人が救われるのに対して、3分の2の確率で誰も救われない。
 さて、どちらの対策を選びますか?
 この問題文は、Tverskyらが1981年に行った研究で使用されたものです。研究に参加した回答者の7割が「A」の対策を選んだそうです。
 では、次のCとDの対策だったら、どちらを選びますか?
・Cの対策…400人が死亡する。
・Dの対策…3分の1の確率で誰も死亡しないのに対して、3分の2の確率で600人が死亡する。
 どうでしょうか?Tverskyらの研究では「D」を選んだ人が8割いたそうです。お気づきのことと思いますが、AとC、BとDは同じことを言っています。しかし、ちょっとした表現の違いで選択が変わってしまうのです。
ポジティブとネガティブの見せ方で変わる!
 こういった、言語表現の違いによって決定が変わってしまうことを心理学では、フレーミング効果と呼んでいます。なぜ、このようなことが起きるのでしょうか?
 一つには、人は利益(ポジティブ)になる問題か損失(ネガティブ)になる問題かを判断してから、選択を行っているという説明があります。Aは「救われる」(ポジティブ)と書かれ、Cは「死亡」(ネガティブ)と書かれています。この表現から利益か損失かを考え、判断を変えてしまうということです。
 日常生活でも、この効果を利用したものがあります。例えば、スーパーで、「肉:赤身75%」と「肉:脂身25%」とでは前者が選ばれやすいでしょう。また、手術の成果を「死亡率5%」と説明されるよりも、「生存率95%」と説明されるほうが助かる可能性が高いと思ってしまいます。
 つまり、ここまでのことをまとめてみると、「ネガティブなものは少ししかありませんよ」と説明されるよりも、「ポジティブなことの方が多いですよ!」と説明されたほうが選択肢として選ばれやすいということです。このように、言葉の表現一つで選択肢が決まってしまう。人間の心理というものは面白いものですね!

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 意思決定フレーミング効果の三類型

 これは個人的にはプラス思考かマイナス思考かというような日常的な判断の様式に関係している。個人的にはプラス思考のほうが行動に移しやすくなり、それだけ状況の変化に対応しやすくなると言えるが、大衆メディアや情報操作でこれをされると「洗脳」と同じ極めて重大な効果がある。メディアでは、こうした「洗脳的」フレーミング効果が常に使用されている。以下の記事で、フレーミング効果を探してみていただきたい。

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日本経済の船底に穴、忍び寄る経常赤字の影 悪化が続く経常収支。どんな弊害があるのか
2014年5月24日(土)08:00
(東洋経済オンライン)
貿易や投資で海外とやり取りした“国の決算”といえる経常収支の黒字縮小が止まらない。5月12日に財務省が発表した2013年度の経常黒字は7899億円、比較できる1985年度以降で過去最小となった。
原因は貿易赤字の拡大だ。輸出が伸び悩む一方、火力燃料の液化天然ガス(LNG)などの輸入が増え、貿易赤字は約11兆円と、前年度比で倍に膨らんだ。それを海外からの配当金など所得収支で埋め、黒字を維持した格好だ。
では、今後はどうか。「13年度後半は増税前の駆け込み消費で輸入が増加している。その特殊要因が消え、14年度以降は緩やかに経常黒字が拡大する」(みずほ総合研究所の高田創チーフエコノミスト)という見方が多い。
13年度の下期だけを取れば経常赤字で、これは国内需要を国内の供給力だけで賄えなかったことを意味する。金融緩和による株高や財政出動で需要を喚起したアベノミクスが、経常黒字の縮小を加速させた側面もある。
一方、経常黒字の縮小は構造的な問題で、予想以上に早く経常赤字に転落すると危惧する意見も多い。
たとえば、円安で現地価格を引き下げ、輸出数量が伸びることで貿易赤字が解消されるJカーブ効果。数量増の発現には一定の時間がかかるため「Jカーブ」と呼ばれるが、SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは「すでに00年代の円安局面の時もJカーブ効果は見られなかった」と語る。実際、現地通貨ベースの輸出物価は、00年代以降ほぼ横ばい。背景には日本企業の販売する製品が高付加価値型にシフトしたことなどが考えられる。輸出数量の伸び悩みは海外生産拡大の影響もある。日本企業がグローバル展開を進めたことで、現在は単純に円安効果を享受できる構造ではなくなった。
双子の赤字リスク
貿易赤字の要因であるLNGを見ると、13年度の輸入量は12年度比で1%しか増えておらず、円安による輸入価格上昇の影響が大きい。また、エネルギー以外でも国内消費は輸入品の依存度が高まっており、内需が回復すれば輸入が増えやすい構造にある。
日本総合研究所の山田久チーフエコノミストは「現在の産業構造を前提とすれば、早ければ数年以内に経常収支が構造的な赤字局面に入る可能性がある」と指摘する。
米国やカナダなど先進国でも経常赤字の国はある。しかし日本の場合、先進国の中で最悪の財政赤字だ。そうした中で経常赤字に陥り、海外からの資金調達が必要となった場合、財政リスクを懸念されて、国債消化が円滑に進まなくなる可能性もある。
いわゆる、財政赤字と経常赤字という双子の赤字のリスク。第一生命経済研究所の熊野英生主席エコノミストは、「船の底に二つの穴がある状態」と表現する。「これまでは一つの大きな穴(財政赤字)ばかり気にしていたが、思いのほか早く、もう一つの穴(経常赤字)が開き始めた」。
今後、財政健全化はもとより、国内投資や研究開発投資の拡大など、供給側を充実させ、潜在成長力を高める具体策が不可欠になる。
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 実は、以上の記事はほとんど全体がフレーミング効果で固められている。皆さんは、いくつ見抜けるだろうか?以下の色つきの部分は、いかがわしい部分である。

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日本経済の船底に穴忍び寄る経常赤字の影 悪化が続く経常収支。どんな弊害があるのか
2014年5月24日(土)08:00
(東洋経済オンライン)
 貿易や投資で海外とやり取りした“国の決算”といえる経常収支の黒字縮小が止まらない。5月12日に財務省が発表した2013年度の経常黒字は7899億円、比較できる1985年度以降で過去最小となった
原因は貿易赤字の拡大だ。輸出が伸び悩む一方、火力燃料の液化天然ガス(LNG)などの輸入が増え、貿易赤字は約11兆円と、前年度比で倍に膨らんだ。それを海外からの配当金など所得収支で埋め、黒字を維持した格好だ。
では、今後はどうか。「13年度後半は増税前の駆け込み消費で輸入が増加している。その特殊要因が消え、14年度以降は緩やかに経常黒字が拡大する」(みずほ総合研究所の高田創チーフエコノミスト)という見方が多い。
13年度の下期だけを取れば経常赤字で、これは国内需要を国内の供給力だけで賄えなかったことを意味する。金融緩和による株高や財政出動で需要を喚起したアベノミクスが、経常黒字の縮小を加速させた側面もある。
一方、経常黒字の縮小は構造的な問題で、予想以上に早く経常赤字に転落すると危惧する意見も多い。
たとえば、円安で現地価格を引き下げ、輸出数量が伸びることで貿易赤字が解消されるJカーブ効果。数量増の発現には一定の時間がかかるため「Jカーブ」と呼ばれるが、SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは「すでに00年代の円安局面の時もJカーブ効果は見られなかった」と語る。実際、現地通貨ベースの輸出物価は、00年代以降ほぼ横ばい。背景には日本企業の販売する製品が高付加価値型にシフトしたことなどが考えられる。輸出数量の伸び悩みは海外生産拡大の影響もある。日本企業がグローバル展開を進めたことで、現在は単純に円安効果を享受できる構造ではなくなった。
双子の赤字リスク
貿易赤字の要因であるLNGを見ると、13年度の輸入量は12年度比で1%しか増えておらず、円安による輸入価格上昇の影響が大きい。また、エネルギー以外でも国内消費は輸入品の依存度が高まっており、内需が回復すれば輸入が増えやすい構造にある。
日本総合研究所の山田久チーフエコノミストは「現在の産業構造を前提とすれば、早ければ数年以内に経常収支が構造的な赤字局面に入る可能性がある」と指摘する。
米国やカナダなど先進国でも経常赤字の国はある。しかし日本の場合、先進国の中で最悪の財政赤字だ。そうした中で経常赤字に陥り、海外からの資金調達が必要となった場合、財政リスクを懸念されて、国債消化が円滑に進まなくなる可能性もある。
いわゆる、財政赤字と経常赤字という双子の赤字のリスク。第一生命経済研究所の熊野英生主席エコノミストは、「船の底に二つの穴がある状態」と表現する。「これまでは一つの大きな穴(財政赤字)ばかり気にしていたが、思いのほか早く、もう一つの穴(経常赤字)が開き始めた」。

今後、財政健全化はもとより、国内投資や研究開発投資の拡大など、供給側を充実させ、潜在成長力を高める具体策が不可欠になる。
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(1)見出しの比喩
(a)「日本経済の船底に穴」:日本経済を船に喩えて、現在はその船底に穴があいていると述べている。果たして、船のモデルで経済を説明するのは妥当だろうか?移動していない船は容積分で除外した水の重さと自身の重さとの物理的バランスで浮力があれば位置を保っているだけの静止的存在で、経済のように複雑な条件で絶えず変化しているものの比喩としては適当ではない。誤ったイメージを与えてしまう。この記事の書き手「東洋経済オンライン」は、静止的に経済を捉える方向に読者を誤誘導するためにこうした比喩を使っている。事実にそぐわない悪意を秘めた比喩の用法と言える。
(B)「忍び寄る経常赤字の影」:これも比喩で「経常赤字」を生命体や人間に喩えてその動きを「忍び寄る」と喩え、「影」ができるものとして読者に提示している。「忍び寄る」「影」と聞くと多くの人は「悪人が」「犯罪者が」「怪物が」・・・など悪いものの接近を連想する傾向が強いであろう。この比喩では「経常赤字」=「悪人」「怪物」というイメージを読者に強制している。
 その延長で「悪化が続く経常収支」も悪い状態という強いすり込みを読者に与えている。
 
 現代社会の経済システムは貿易等が黒字なら国が豊かになるというような300年前の「重商主義」モデルなどではとうてい把握できないほど複雑化している。以上に述べた(a)(b)の比喩が依拠するのは基本的に300年も前の重商主義経済モデルで、いまどきこんな考察をするのはあまりにも不勉強であり、むしろ意図的に国民を白痴化しようとする悪意すら感じられる。江戸時代後期やフランス革命当時の経済システムが今でも続いている証拠がどこにある?書いた人物の知能と学歴を疑いたくなる。

(2)記事の邪悪な意図と間違った前提
 『東洋経済』は、「貿易や投資で海外とやり取りした“国の決算”といえる経常収支の黒字縮小が止まらない」とうそぶいているが、この部分も先に述べたような「“国の決算”」「黒字縮小が止まらない」という比喩の連続で、報道記事とはかけ離れた文体と言える。常に流動している現代経済に「“国の決算”」などありえない。実はこうした比喩表現使用の問題は、この記事の論者が悪意を持って読者を間違った方向に誘導しようとしている邪悪な意図から生まれている。邪悪な意図など、記事に対して無礼千万というようなご批判をお持ちの読者もいらしゃると思われるが、以下の説明をお読みいただきたい。一番大事なフレーミングは、読者に完全に間違った経済概念を強要するという点である。

 ずっと貿易黒字だったこの20年余りの日本社会や経済が衰退の一途たどる様子を真摯に受け止めれば、『東洋経済』の「重商主義」モデルでは説明が付かない現象が日本で起こっていることは直ぐに分かる。

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重商主義(じゅうしょうしゅぎ、マーカンティリズム(英: mercantilism))とは、貿易などを通じて貴金属や貨幣を蓄積することにより、国富を増大させることを目指す経済思想および経済政策の総称。(中略)日本においては江戸時代中期の政治家・田沼意次がその先駆者として挙げられている。
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 日本の貿易收支の変化を示す以下のグラフをご覧いただきたい。
 日本の貿易収支の推移
 日本の経常収支の推移
 以上のグラフを見ても分かるように、2010年まで、日本の貿易収支はずっと黒字だった。また、経常収支も常に黒字を保つか、むしろ国内経済実感が悪化して所得階層が完全に二分化された2000年以降は黒字が増大している。『東洋経済』の理論で言えば、貿易黒字=国民経済決算の黒字でなければならないはずだが、このグラフと以下の指数を比べて見れば分かるように、貿易黒字と国民経済の景況は100%まったく関係がない。巨額の貿易黒字がいくらあっても、また経常収支の黒字がいくらあっても国民経済にはそれだけではまったく関係していないことがわかる。
 日本の経済成長率の推移
 日本人の年収~平均値と中央値の違い
 比較に出した経済成長率(ほとんど成長していない)や年収(平均値も中央値も右下がり)と比べてみると分かるように、こうした国際収支指標と国民経済指標は21世紀の経済システムでは全然、直接の因果関係はないと見てもよい。黒字だからと言っても、国民経済の成長はほぼ完全に止まり、国民所得の中央値(大多数の人が分布している数値)は毎年下がり、地方ではシャッター通りばかりが増え、雇用は悪化し大半の国民が正規雇用を受けられなくなっているのは周知の事実である。
 『東洋経済』のように国際収支指標と国民経済指標の間に強い相関があるという議論を強制するのは狂気の沙汰であろう。貿易収支が黒字でも赤字でも、国民経済の発展には全然関係がない、それが21世紀の経済システムなのである。

 『東洋経済』のような記事は、約200年前の「江戸時代中期の政治家・田沼意次がその先駆者として挙げられている」ような重商主義=金本位経済=金を国内に蓄積する経済をモデルにして、21世紀の日本経済を論じるという狂気の沙汰を読者に平然と強要している。つまり、まったく証明されていない国際収支指標と国民経済指標の間に強い相関があるという前提で、実はニュースを主観で批評しているだけなのである。いわば家計感覚で「家庭の収入=貿易収支、経常収支」という前近代人レベルのアナロジーで、ただでたらめに国際収支指標と国民経済指標の間に強い相関があるかのように自己の主観を主張しているだけの捏造記事である。
 これは”事実を報道する”などとうそぶいて「最悪の推論の捏造」をしている報道の典型と言える。

 貿易収支や経常収支がどの程度国民経済に寄与するかは、現代では非常に見えにくい問題で、たとえば以下の論文のように、各種統計データを駆使し、推論を重ねて初めて、ある程度の答えが出るような、「迂遠」な関係でしかない。
 貿易収支赤字はなせ拡大しているのか?
 このレポートの論者は、出てきた結論は「推論」だと述べているように、現在の経済システムは非常に複雑多岐に渡っており、『東洋経済』のような記事の、約200年前の「江戸時代中期の政治家・田沼意次がその先駆者として挙げられている」ような重商主義などではまったく理解できない構造を持っている。その構造は、人間に自然界や宇宙の構想が推論の積み重ねで推理するしかないのと同様に、基本的にはすべて推論の産物である。

 推論する以外に理解できない構造に単純な断定をおこなうのは無謀である。『東洋経済』のような記事の「原因は貿易赤字の拡大だ。輸出が伸び悩む一方、火力燃料の液化天然ガス(LNG)などの輸入が増え、貿易赤字は約11兆円と、前年度比で倍に膨らんだ。それを海外からの配当金など所得収支で埋め、黒字を維持した格好だ」という「断定」「断言」とは正反対の性格を持った対象が現代の経済システムで、こうした断言にはまったく根拠がない。「断言」「断定」は、むしろナチス中国や韓国の指導者や支配階級のような「ないことをある」と言い、「間違った物を正しい」と主張するような、事実とは正反対の価値の世界で生きている”生物群”の行動に似ている。事実を重んじ、客観を重視する近代的価値に生きる市民を「人間」と呼ぶなら、その対極に位置する価値観(黒は白だ、白は黒だ・・・)で生きている存在は「人間擬き」とでも言うしかないだろう。

 これと類似のフレーミング効果のある表現を探していくと、次の行の1文も、全体がもともと根拠がまったくない「重商主義」的観点で現代経済を判断する根本的な誤りを読者に強要している。「しかし日本の場合、先進国の中で最悪の財政赤字だ。そうした中で経常赤字に陥り、海外からの資金調達が必要となった場合、財政リスクを懸念されて、国債消化が円滑に進まなくなる可能性もある。/いわゆる、財政赤字と経常赤字という双子の赤字のリスク。第一生命経済研究所の熊野英生主席エコノミストは、「船の底に二つの穴がある状態」と表現する。「これまでは一つの大きな穴(財政赤字)ばかり気にしていたが、思いのほか早く、もう一つの穴(経常赤字)が開き始めた」。」
 具体的データを検証すれば、赤字でも黒字でも国民経済への影響は基本的にはマイナス、それが実体で、実は貿易赤字や経常赤字が増えても減ってもまったく生活に関係はない。むしろ収支の黒字はこの20年間、マイナスの方向に影響していた。こうした説明は何の検証にもなっていない。こうした具体的数字は「証拠があるように見せかける」という一種の詐欺行為で、今までも本ブログでご紹介してきたように、加齢臭と死臭のする100年前に生まれた先輩記事伝授の「祕技(根拠の偽装)」という陳腐な方法である。
 出発点が間違っているので、これ以降の内容の全体が実は完全なまやかしである。沼地の上にビルは建てられず(21世紀の日本経済システム=江戸時代の田沼意次時代=昔も今も経済システムは重商主義という前提は成り立ちえない)、嘘を前提にした証明(21世紀の日本経済をもともと「家計の比喩」である重商主義で説明できる根拠は全くない)は後半の内容も全部嘘になる。

 こうした前近代的な内容の、まともな教育を受けた人間が書いているとは思えないレベルの記事を、公然と高額の講読料を取って流している記者の能力や雑誌社の見識を疑う。何も知らない学生が書いているレポート以下のような記事を『東洋経済』は商品として販売して、果たしてそれはメディアの良心とでも言うつもりなのか?メディアのこうしたフレーミングには、明らかに隠された悪意が感じられる。悪意の答えはご想像にお任せするが、悪意がなければ日本の高給取りの学歴エリートのレベルはここまで落ちぶれたたということになるし、悪意が有ればその震源地が問題になり、一種の謀略として国民を白痴化する情報戦の一端が焙り出されてくる。
 いずれにしてもメディアの記事をそのまま信じる現代社会の市民は、それだけで現代人の屈辱、近代市民社会の生き恥である。いやしくも20年近い教育を受けてきた以上、マスコミの主張する論点について自分の頭で道理を考えて現実を説明できているかどうか真剣に真摯に考えていただきたい。

3.腐敗した日本国のエリートが日本国衰退の原因
 先に挙げたメディアの記事が「無能・低能・魯鈍」によるものでなければ、こうした非道理な記事が書かれる意図は「悪意」以外にはありえないことになる。では、どんな悪意からこうした記事が出されているのであろうか。

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世界一トヨタ、5年間法人税を払っていなかった! どんなカラクリがあるのか、と怒りの声 
2014/5/27 13:58
 クルマの年間販売台数「世界一」のトヨタ自動車が法人税を納めていなかった。最近、巨額の利益を上げているはずなのに、なぜこんなことができるのか、とインターネットで怒りの声も出ている。
 トヨタの豊田章男社長は2014年3月期の決算会見で、09年3月期分から納めていなかった法人税を、14年3月期から支払えるようになったと語った。
「企業は税金を払って社会貢献するのが存続の一番の使命」??
 トヨタ自動車の2014年3月期連結決算によると、グループの世界販売台数が世界で初めて年間1000万台を突破。売上高は前期比16.4%増の25兆6919億円、営業利益は6年ぶりに過去最高を更新して、73.5%増の2兆2921億円。税引き前当期純利益は73.9%増の2兆4410億円の好決算だった。
 まさに、トヨタは「世界一」の自動車メーカーになった。
 この結果に、豊田章夫社長は「一番うれしいのは納税できること」と喜んだ。豊田氏が社長に就任したのが2009年6月。「社長になってから国内では税金を払っていなかった。企業は税金を払って社会貢献するのが存続の一番の使命」と語り、「納税できる会社として、スタートラインに立てたことが素直にうれしい」と話した。
 トヨタ自動車は、たしかに法人税を払っていなかった。そのことは広報部も「この5年間は払っていません」と認め、「13年度分を、この6月に納めます」と話している。
 こうした実態に疑問を呈する人も出ている。
 共産党の佐々木憲昭議員は自身のオフィシャルサイト(5月20日付)で、「トヨタは税金を払っていなかった!?」と取り上げた。しかも豊田社長の就任後の5年間、ずっと払っていないというのだから、「いったいどうなっているのか」との思いがあったのだろう。
 佐々木氏は「これまで、繰越欠損税制や連結納税制度などをフルに使って税逃れをしてきたということでしょう。税金も払わず『社会的貢献のできない会社』だったということを自分で認めたかたちです」と指摘。さらに、トヨタが新聞広告で4月からの消費税率の引き上げについて、「『節約はじつは生活を豊かにするのだと気がつけば、増税もまた楽しからずやだ』などと述べている。自分は、税金を払わないが、庶民が払うのは『楽しからずや』だなんて、庶民感情を逆撫でするものだと言わなければなりません」としている。
研究開発費や外国での納税… 法人税の「控除」は多岐にわたる
トヨタ自動車の豊田章夫社長の発言に、インターネットには、
「ホントに払ってないのか??」
「世界のトヨタが言うと嫌みにしか聞こえない。傲慢さが出てるね」
「1円も税金払っていないことを抜けぬけとトップが自慢げに言うとは。あくせく働いて税金を払っている一般国民を小ばかにしたような発言ではないか」
「クルマも売れて、戻し税のおかげもあってウハウハで、ついポロリと本音が出たのであろうか。この発言で点数下げたことは確か」
といったコメントが寄せられている。
とはいえ、基本的に利益があって、配当している上場企業は法人税を払っているはずだ。トヨタの2009年3月期の税引き前当期利益は5604億円の赤字だったので、このとき法人税が払えないのはわかる。しかし、10年3月期のそれは2914億円の黒字。以降、5632億円、4328億円、13年3月期には1兆4036億円もの黒字を計上してきた。法人税を納められないほど「体力」がないわけではない。
一方で、じつは法人税にはさまざまな「控除」項目がある。たとえば、欠損金の繰越控除額(期間7年、大手企業の場合は80%)。ただ、2010年以降利益を上げているので、これだけでは「ゼロ継続」の説明はつかない。
子会社からの配当や研究開発費、海外に進出している企業が海外で納めた税金分を、日本に納める法人税から控除することもできるし、地方税の部分については工場誘致などを理由に免除していることもある。
いろいろ優遇措置を使って、法人税を払わずに済んでいる企業は少なくない。おそらく、トヨタも税金を納めなくて済むよう、いろいろと「遣り繰り」したことは推測できる。
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 こうした記事を書かせているのは、まず、この記事のトヨタのような国の政策を適宜操作することで巨額の利益を上げられる大企業や、以下のような為替操作で巨額の利益をあげている銀行などの巨大資本であろう。Amazonなどの様々な多国籍企業もメディアを買收することぐらいいとも容易い。

 法人税を払わないアマゾンに比べて、日本の法人税は本当に高過ぎるのか?

 こうした大企業が税金をまったく払っていない分、先に見たような国民所得の減少(納税、賃金カット、非正規雇用化)がその肩代わりをしていることになる。基本的には、1990年代以降の資本主義は、こうした悪意ある邪悪な組織(悪意と言っても個人ではなく実は資本主義自体の法則、原理の自然的必然的展開)である。その中でいかに文明社会を維持するか、その課題は非常に困難である。

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格差拡大は避けられない
フランスのある新聞が「政治的、理論的ブルドーザー」と評したトマス・ピケッティの新刊書『21世紀の資本主義』は、貧富の格差が開くのは、自由市場資本主義の避けられない結果だとして、左派、右派両方の正説に真っ向から挑んでいる。
それだけでなく、パリ・スクール・オブ・エコノミクス教授のピケッティは、資本主義に内在するダイナミクス自体が、民主主義社会を脅かす強大な力を駆り立てると主張する。
ピケッティによると、資本主義は、近代国家および近代化しつつある国家の両方に、ジレンマを突きつけることになる。つまり起業家たちは、労働力しか持っていない者に対し、どんどん優勢になってゆくのだ。新興国は短期的にはこの論理を打ち破ることができるが、長期的には、「没収なみの課税率」が導入されない限り、「報酬を決める者が自分の報酬を設定するのだから、もう際限がない」とピケッティは見ている。
ピケッティの本は4カ月前にフランス語で出版され、3月に英語版が出る予定だ。この本の中でピケッティは、従来型の支出、課税および規制に関するリベラルな政府の政策では、格差の緩和を実現できないとしている。本のほかに、彼は一連の講義を行い、それをウェブ掲載し、自分の説をフランス語と英語で概説している。
図1:古代から2100年までの、世界における税引き後の収益率vs成長率(トマス・ピケッティ)
保守的な読者はピケッティの本を読んで、政府の介入による歪曲から解き放たれた自由市場が、「経済発展の成果をすべての人に分配する。これが、過去2世紀にわたり労働者の立場が大きく改善した秘密だ」という有名なミルトン・フリードマンの言葉に異議を唱えるものだと理解するだろう。
しかし、そうではない。ピケッティは、格差はまさに望ましい形で機能している市場を反映して拡大するものだと言っているのだ。これは、市場が不完全であることとは何の関係もない。資本市場が完全であればあるほど、資本収益率は経済の成長率より高くなる。そして、資本収益率が高いほど、格差も大きくなるというわけだ。
すでに議論を巻き起こしているジャーナル・オブ・エコノミック・リテラチャー誌の6月号では、世界銀行調査部門のエコノミストであるブランコ・ミラノヴィクが20ページにわたる書評で以下のように言明している。
「私は、トマス・ピケッティの新刊書『21世紀の資本主義』を、過去数十年に書かれた中でもっともも優れた経済書のひとつだと言うことを躊躇する。そうではないと考えているわけではないが、好意的な書評があまりにも多いこと、さらに、今を生きている人は往々にして最終的に何が大きな影響を与えるかを適切に判断できないものだということから、私は慎重なのだ。この2つの注意点を踏まえたうえで、今、経済の考え方を大きく変えるような本の1つが現れたと私は言いたい」。
過去30年で資本家に有利に変化した所得分配
ピケッティの本には、鍵となる議論がいくつかある。そのひとつは、第一次世界大戦開戦の頃からはじまり、1970年代初頭まで60年間にわたり西欧諸国で見られた格差縮小への流れは特異なものであり、再び起こる可能性は非常に少ないということだ。この期間は、格差拡大という、より根源的にあるパターンの例外的現象が見られのだとピケッティは言う。
ピケッティによると、繁栄を極めた過去60年間は、2つの世界大戦と世界大恐慌の結果なのだ。この間、富と所得のピラミッドの頂点に立つ資本家は、一連の壊滅的な打撃を受けた。この打撃には、市場が崩壊したことで失墜した信頼性と権威、第一次世界大戦、第二次世界大戦の両方がヨーロッパ中の資本にもたらした物理的破壊、戦争資金を調達するための、特に高額所得者を対象とした増税、債権者の資産価値を減退させた高いインフレ率、英国とフランス両国における主要産業の国営化、そして、元植民地の国々における産業と資産の収用などが含まれる。
同時に、世界大恐慌の結果、米国ではニューディール政策の協調体制が生まれ、それが反政府の労働運動を強化した。戦後は大きな成長と生産性の向上が見られ、労働組合運動と与党である民主党の強い支援をバックに、労働者たちはその恩恵を受けることになった。リベラルな社会政策、経済政策への支持があまりに強かったため、2度の選挙に楽勝した共和党大統領であるドワイト・D. アイゼンハワーでさえ、ニューディールを攻撃してもムダだとの認識をもっていた。「もし、社会保障制度や失業保険、労働法や農村プログラムの廃止などを試みる政党があったとしたら、政治史の中で、その政党の声をふたたび聞くことはないだろう」とアイゼンハワーは語っている。
1914年から1973年にかけての60年間は、経済成長率が税引き後の資本収益率を上回るため、過去、将来において突出した時期となっているとピケッティは指摘する。それ以後は、経済成長率が低下する一方で、資本収益率の方は第一次世界大戦前の水準にまで上昇している。
書評の中で、ミラノヴィクは以下のように述べている。
「ピケッティの説で鍵となっている格差の関係は、もし資本収益率が恒久的に経済成長率を上回ると、その結果、所得の分配機能は資本に有利なかたちに変わるというものだ。そして資本的収入の集中度が労働からの収入の集中度より高くなると(ほとんど議論の余地のない事実)、個人所得の配分格差は広がることになり、実際、これが過去30年間に起こってきたことなのだ」。
ピケッティは、この重要なポイントを示すために図1のグラフを作成している。
このプロセスを止める唯一の方法は、富に対してグローバルな累進課税をすることだと彼は主張する。そうした課税がない国に資産を移さないようにするため(そのほかの目的もあるが)、それはグローバルなものでなければならない。このスキームでは、グローバルな税金が富の集中を制限し、所得が資本に流れるのを抑制するわけだ。
ピケッティは、通常は売却されるまで課税されない株式や債券、不動産、そのほかの資産に対し、年間の累進税を課すことを提案している。収益配分の率や算出方法については言及していない。
保守派の政策と対立するピケッティの論説
ピケッティの診断は、近年、国民所得に占める労働からの収入の割合が低下し(図2を参照)、資本からの割合が上昇しているのを説明するうえで役立つも
のだ。
またピケッティの分析は、世界中で見られる失業者数の上昇の解明にも役立つ。国連機関であるILO(国際労働機関)は最近、2012年から2013年の間に失業者の数は500万人増加し、昨年末には約2億200万人に達したと報告している。さらにその数は、2018年までに2億1500万人に達すると予想されている。
ピケッティが提唱する富裕税による解決策は、トップ層の税率を下げ相続税を廃止するという、これと正反対の公共政策を唱える近年の米国保守派たちが標榜する原則と、真っ向から対立するものだ。これはまた、投資誘致の目的で意図的に低い税率を制定している諸国の利益にも反する。このようにグローバルな富裕税が実行不可能であるということ自体、格差拡大が不可避であるとするピケッティの議論を支持強化するものと言えよう。
リベラル派の中にも、同様にピケッティの説を歓迎しない者がいる。
図2:非農業事業セクター:労働比率(米国労働省)
経済政策研究センター(Center for Economic and Policy Research)の創立者の1人であるディーン・ベイカーは、私への電子メールの中で、ピケッティは「あまりにも悲観的過ぎる」と書いている。ベイカーは、格差を改善するうえで役立つと思われる、これよりはるかに穏健な措置はたくさんあると主張する。
「米国で、私が支持する金融取引税や、IMF(国際通貨基金)が提唱する金融活動税などといった金融関係の税金が導入されることは、本当にあり得ないことなのだろうか」。
ベイカーはさらに、われわれの資産の多くは知的資産に密着しており、特許法の改革によって薬品その他の特許の価値を制限し、同時に消費者コストを下げることが出来ると述べている。
経済政策研究所(Economic Policy Institute)所長のローレンス・ミシェルは、ピケッティに関する見解を尋ねる私の電子メールに対して、以下のように返答している。
「われわれは、この現象は賃金上昇の抑制と関係があるので、幅広い賃金上昇をもたらす政策が対処手段となるとの見解をもっている。そしてこうした政治経済下では、これらの税金を実施するための政治力を得るために、強固な労働運動など、一般市民や組織の力を動員することも必要となる」。
より中道派であるMITの経済学者ダロン・アジェムオールは、ピケッティがデータを慎重に入手していること、および彼が格差を形成する富の分配よりも経済の力と政治的確執を重視している点を評価している。アジェムオールは電子メールの中で、さらに以下のように続けている。
「彼の解釈には、賛同できない点もある。ピケッティは“資本家”経済には、本来、大きな格差を生む性向があり(私は資本家という言葉を好まない)、また、ある種の特殊な出来事(世界大戦、世界恐慌およびそれに対応する政策)が、一時的に格差を縮小させたと主張する。そして、収入格差および資本と労働の間の格差の両方が「正常な」水準に逆戻りつつある、としている。
私は、データに基づき、このような結論を導き出すことはできないと思う。そこに示されているのは単なる下降、上昇のパターンに過ぎず、世の中では、このほかにも様々なことが起こっている。それはピケッティが言っていることと辻褄が合うと同時に、格差の拡大を生んだある種の技術変化や不連続性(またはグローバリゼーション)とも一致するもので、それらは向こう数十年間に安定化される、または流れを逆行させるものなのかも知れない。さらに、それは政治的な力の変化の動向とも合致するもので、これが先進諸国で格差が拡大した主要な要因となっている。我々が目にしているのは、ピケッティがひとつだけ取り上げて特筆する、ショックの後に起こる平均を元に戻す動きではなく、むしろ、いくつかの異なる大きなショックが原因となる、いくつかの異なるトレンドの一部分なのかもしれない。
全員を資本家に変えるという格差への改善策
一方、ピケッティに拍手喝采を送るリベラル派も少なくない。
格差、労働組合、雇用パターンの専門家であるハーバードの経済学者リチャード・フリーマンは、私宛ての電子メールで以下のように書いている。「私は100%ピケッティに同意する。そして、労働に見られる格差の多くは、高所得者がストックオプションおよび資本の所有権を通して収入を得ていることに起因するという点を付け加えたい」。
フリーマンと、ラトガース大学の労働、管理関係学部教授のジョセフ・ブラシとダグラス・クルースは、2013年の共著『市民のシェア:所有権を再び民主主義へ(The Citizen’s Share: Putting Ownership Back into Democracy)』の中で、グローバルな富裕税の代替策があると主張する。彼らは、「改善の方法は、米国ビジネスの構造を、労働者が、かなりの資本所有権からの利益と意味のある資本的収入、および利潤分配で賃金を補えるような形態にするよう改革することだ」としている。
つまり、すべての人を資本家にしようと言うわけだ。
ピケッティは、労働者の所有権を解決策とは考えない。彼は、一般に小口の改革は、今世紀の残りの期間1~1.5%くらいに留まると見られる世界の経済成長に、わずかな効果しか生まないとして、それらを退けている。
ピケッティはほかの多くの学者とともに、グローバルな経済システムが、ロボット工学、労働市場の空洞化、アウトソーシング、グローバル競争などの現象にどのように対処するかに関して重要な疑問を投げかけている。
彼の診断は非常に暗いものだ。彼が政治的に非現実的だと認めるところのグローバル富裕税の導入が期待できない中、米国およびその他の先進諸国は、格差が、深刻な社会崩壊をもたらしかねない水準にまで達する道を辿っていると見ている。
ピケッティの説にある問題、および説自体に対する最終的判断は、時間とともに明らかになるだろう。なぜなら、もし彼が主張することが正しいなら、格差はさらに広がり、先制的措置をとることがさらに困難になるからだ。
(翻訳:松村保孝)
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 メディアを批判しているのになぜメディアの記事を使うという異論も出るだろうが、新しい論点や道理の有る論点なら誰が書いていても実はかまわない。以上のような記事はその点で非常に価値がある。だから紹介している。少なくとも化石化したマスコミを市民が信じている限り、状況が悪くなることはあってもよくなることは決してない、それだけは確かである。目覚めた人が増えること、希望はそこにのみある。


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