運転免許証を、更新した。新しい免許証の裏面には、臓器提供の意思表示欄があったので、すこし考えていたら、パソコンのニュース欄に、こんな記事が掲載されていたのを、思い出した。
科学ニュース「Science Alert」(3月8日付)が報じている。
■人が死んだ後に生きる謎の10分間
カナダ・ウェスタンオンタリオ大学の研究者によると、生命維持装置が取り除かれた4人の患者の心拍と脳波を測定したところ、うち1名に生理学的に説明できない現象が起こったという。その患者は生命維持装置が取り外され、心臓と血流が停止した後も“10分間”にわたり脳に活動が見られたというのだ。 この時測定された脳波は“深い眠り”についている時と同じデルタ波だった。カナダ・ウェスタンオンタリオ大学の集中治療室の医師らは、「通常では考えられない、説明不可能な事態」だとしている。
実際のところ、実験に協力した患者4名のうち3名は心臓が止まるより先に脳波が停止したそうだ。研究者らは、今回の結果を臨死体験と結びつけるのは時期尚早としつつも、「長時間の血流停止後の脳活動に生理学的な説明を与えることは困難」だと語っている。
さらに興味深いことに、実験に協力した4名の患者からはそれぞれ異なる脳波が死の直前に検出されたという。どうやら、死は千差万別のようだ。
死神のタロットカード。
また今回の研究は、医学的な死の定義である「死の3徴候(瞳孔反応停止、呼吸停止、心停止)」にも大きな疑問を投げかける結果となった。臓器移植においても、医学的に死んでいると判定された臓器提供者に脳波が残存している場合、その人から臓器を取り出すことが倫理的に大きな問題となる可能性もある。
■「臨死体験」「死後の生」は実在する
英紙「Daily Mail」(3月8日付)によると、死後の脳活動についてはこれまでにも多くの研究が報告されており、たとえば2013年に科学誌「Proceedings of the National Academy of Sciences」に投稿された論文によれば、ネズミの頭部を切り落とした1分後にも脳の活動が観測されたという。
ワシントン大学のピーター・ノーブル教授らの研究では、死後に活動を始める遺伝子が存在することが明らかになり、マックス・プランク研究所のアルネ・トラウルゼン博士らは「死はスイッチを押せばすぐに消える蛍光灯というよりも、時間をかけてシャットダウンするコンピュータに近い」と語っていた。
15世紀の画家、ヒエロニムス・ボスの油彩画。臨死体験を表現しているといわれている。
英・サウサンプトン大学の科学者たちは、英国、米国、オーストリアの15の病院で、心停止に陥った患者の事例2,060件を分析した結果、実に40%の患者に息を吹き返すまでの間にも“意識”のようなものがあったことが分かっている。57歳の心停止体験者に至っては、3分間の“死”の間に経験した看護士の動作や医療機器の音までも詳細に覚えていた。
脳の機能はまだまだ未解明な点が多い。我々の知らない力を秘めている可能性は十分にあるだろう。このことは脳科学者や医師だけでなく、物理学者も認めていることだ。
イギリスを代表する数理物理学者ロジャー・ペンローズ博士
は、死とは細胞中に見いだされる直径約 25 ナノミリメートルほどの「マイクロチューブル」が保持する量子情報が宇宙空間に放出されることだと主張している。量子情報は徐々に放出されるため、放出途中で量子情報が回収されれば意識を取り戻すという。この量子情報の回収にともなう現象が、いわゆる臨死体験を引き起こすそうだ。
脳科学の発展に伴い死を巡る探求は新たな岐路に差し掛かっていると言って良いだろう。もしかしたら我々は、臨死体験や死後の世界といったオカルトがサイエンス(知)になる瞬間を目撃することになるかもしれない。
「生死の境目というのがどこかにきちんとあると思われているかもしれません。そして医者ならばそれがわかるはずだと思われているかも知れません。しかし、この定義は非常に難しいのです。というのも、「生きている」という状態の定義が出来ないと、この境目も定義できません。嘘のように思われるかも知れませんが、その定義は実はきちんと出来ていない」養老孟司『死の壁』
今日は死ぬのにもってこいの日だ。生きているものすべてが、わたしと呼吸を合わせている。すべての声が、わたしの中で合唱している。すべての美が、わたしの目の中で休もうとしてやって来た。あらゆる悪い考えは、わたしから立ち去っていった。今日は死ぬのにもってこいの日だ...
アメリカ先住民族プエブロの古老
が語る言葉
死ぬのにもってこいの日
私は、新しい免許証の裏の臓器提供の意思表示欄に、サインペンを取り出して,三つある選択肢の一つに、丸印を付け、署名した。