就任100日目の支持率は歴史的低さ任期中辞任のニクソンと共通点も

――歴史家としてこれまで多くの大統領を見てこられたと思いますが、これだけ多くの問題を抱えて大統領に就任した人はいたのでしょうか。

 もちろん、ノーです。これだけ多くの疑惑を抱え、暗雲が立ち込めるなかで、ホワイトハウス入りした大統領はいません。それはトランプ大統領の就任100日目の歴史的な支持率の低さにも現れています。 票の再集計などの問題を抱えて就任したジョージ・W・ブッシュ大統領でさえ、トランプ氏よりずっと高かったのです。

――だから、トランプ氏は他のどの大統領よりも弾劾される可能性が高いということですね。本のなかで、「ニクソン大統領と同様に、トランプ大統領は米国の法律、憲法、自由、民主主義の脅威である」と述べられています。

 すべてはわかりませんが、トランプ大統領の政策は国民の利益や幸福よりも自身の利益を優先しているように思われます。それは米国の民主主義や人々の生活と幸福にとって重大な脅威です。もし大統領が国民に対して嘘をついているなら、それは恐ろしい罪であり、私たちの生存を脅かしかねません。

 トランプ氏は以前、「大量破壊兵器について嘘をついてイラク戦争を始めたブッシュ大統領は、弾劾されるべきだった。当時のペローシ下院議長(民主党)がそうしなかったことにひどく落胆した」と述べました。しかし、トランプ大統領の気候変動に対する無策は人類に対する犯罪であり、はるかに危険なものです。

――ニクソン大統領とトランプ氏との共通点についても述べられています。2人とも非常に野心的で、目的のためには手段を選ばず、平然と法律違反をし、反メディア的でパラノイア(妄想性)の傾向があるということですね。

 2人とも強い政治的信念は持たず、何よりも自身の利益を優先する傾向があります。そしてメディアを敵とみなし、トランプ氏は「報道機関と戦争している」と、公言しています。

 さらにトランプ氏はメディアとの戦争をエスカレートさせ、名誉棄損法を改正してニューヨーク・タイムズ紙などの報道機関を訴えやすくしようと、脅しをかけています。なぜそのようなことをするのかといえば、メディアの報道をコントロールして、自身に対する批判を抑えたい思惑があるからでしょう。

――トランプ大統領がメディア攻撃を強めるなかで、ニューヨーク・タイムズ紙は最近、購読者が30万人余り増えたそうですが。

 皮肉なことにトランプ大統領がメディアを攻撃すればするほど、メディアの人気は高まっています。最近、MSNBCの視聴率も大幅に上がっているようです。

84年以降の大統領選全的中の予測法トランプでなくても共和党が勝っていた

――教授は昨年の大統領選で、ほとんどのメディアや専門家がクリントン候補の当選を予測するなか、トランプ候補の勝利を予測しました。それだけなく、1984年以降の大統領選の勝者をすべて的中させていますが、その選挙予測モデルについてお聞かせください。

 私は1860年から1980年までの大統領選の結果をすべて分析し、1981年に独自の選挙予測モデルを考案しました。最も重要なカギは、国民が現職大統領の与党にもう一期任せたいと思っているかどうかです。それを確かめるために与党の強さや実績などを経済・外交・国内政策を含めて入念にチェックし、大統領選の勝者を予測します。

 この場合、世論調査や専門家の分析、候補者の選挙活動の様子などは完全に無視します。その代わり、チェックリストを使って目を大きく開き、選挙の全体像を見るようにします。昨年の選挙では与党・民主党の弱点が多く見えました。その前の中間選挙で大きな敗北を喫し、現職大統領が出馬しない上に指名候補争いが終盤までもつれ、おまけにやっかいな第3党候補が出馬しました。

 また、オバマ政権は1期目にオバマケア(医療保険制度改革)を実現したが、2期目に国内政策であまり実績をあげることはできませんでした。外交面でも1期目にオサマ・ビンラディンの暗殺作戦を成功させたが、2期目は目立った実績はありませんでした。この全体像をよく見た上で、国民が与党にあと4年間任せたいと思っているか、それとも政権交代を望んでいるかを見極めるのです。

――つまり、共和党はトランプ氏でなくても、誰が候補になったとしても勝てたということですか。

 その通りです。共和党が勝利したのはトランプ候補だったから、というわけではありません。ところで、民主党はいまだに敗北の原因がよくわかっていないようです。FBIのコミー長官がメール問題の調査を再開したからだとか、ペンシルベニア州西部の選挙運動に力を入れなかったからではないかとか言っています。民主党は選挙運動のやり方に敗因があったと責めるのはやめて、党の基本的な問題に真っ向から取り組むべきです。彼らには、“早く目を覚ましなさい”と言いたいです。

――それでも、昨年10月前半にトランプ候補の卑猥な女性蔑視発言が収録された『アクセスハリウッド』のテープが暴露され、複数の女性が性的嫌がらせでトランプ氏を告発した後、クリントン候補は大きくリードを広げました。その後、FBIのメール問題の調査が再開され、リードが一気に縮まったわけですが、その調査がなかったとしても、トランプ候補は勝利したと思われますか。

 メール問題はまったく関係ないと思います。アクセスハリウッドのテープが暴露されてもセクハラで告発されても、私はトランプ氏勝利の予測を変えることはありませんでした。

「トランプは4年の任期を全うできない」FBI長官解任でその時期は早まった?

――そして今は、「トランプ大統領は4年の任期を全うできないだろう」と予測し、「弾劾の論拠」を示す本を出版されました。

 この弾劾予測は数学的モデルにもとづいたものではなく、過去の弾劾の歴史とプロセスに関する徹底的な研究や、トランプ大統領の就任前と就任後数ヵ月間の発言・行動などにもとづいたものです。正式な弾劾予測モデルではありませんが、歴史的研究と現代米国政治の分析を反映させています。

――最終章でトランプ大統領に「弾劾を避ける方法」を具体的に助言されています。それはつまり、弾劾を予測しながらも、心の底では大統領に良い仕事をしてほしいと願っているということですか。

 もちろんです。トランプ大統領には国民のために良い仕事をしてほしいと思っています。個人的にトランプ氏を嫌いとか好きとかではありませんから。そのためには利益相反問題を解決し、メディアとの戦争をやめ、ファクトチェッカーを使い、危険な補佐官のバノン氏を解任するべきです。

――トランプ大統領はあなたの本を読んだと思われますか。

 彼はあまり本を読まないのではないかと思います。もしかしたらスタッフか娘のイヴァンカさんが読んだかもしれませんが…。今のところ、トランプ大統領とホワイトハウスからは何の反応もありません。

◇リヒトマン教授にインタビューした直後の5月9日、トランプ大統領は突然、選挙戦中のトランプ陣営とロシア側の連携などについて捜査していたFBIのコミー長官を解任した。これに対して民主党から、「トランプ大統領がロシアをめぐる捜査に怯え、事実を隠すために解任したのではないか」との批判が出ただけでなく、身内の共和党からも「この時期の長官解任は疑問を投げかけることになる」との指摘が出ている。

 もしトランプ大統領が自身に対する捜査を妨害するために長官を解任したのであれば、それだけで「司法妨害」の罪に問われ、弾劾訴追の根拠となる。「トランプ大統領は弾劾される」という教授の予測は、意外と早く現実になるかもしれない。(聞き手/ジャーナリスト 矢部 武)