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スピノサウルスの半水生適応(1)

スピノサウルスの半水生適応(1)

これはスピノサウルス・ショックともいうべき大事件だろう。スピノサウルスが水中を泳いでいたと聞いても驚かないが、復元された体型の変化は劇的で、恐竜業界には多大な影響があるはずである。全身が見つかっていない種類の復元イメージが、いかに危ういものであるかが示された例となった。なまじジュラシックパーク3などで有名になっただけに、復元画、復元模型、CG映像など、おびただしい資料が改訂を余儀なくされる可能性がある。(逆にいうと需要があるということで、今後、新復元のフィギュアなどが続々と製作されるだろう。)スピノサウルスの模型を買ってもらったばかりの子供が、泣き出しても不思議はないくらいのできごとである。

新しい骨格復元図は、ワニというかファンタジー世界を飛行するドラゴンのようになっている。私の感想は、スピノサウルスは2つの点で獣脚類の基本から逸脱した、特殊な種類となったなあということである。1つは二足歩行できないこと、もう1つは四肢の長骨が中空でないことである。いずれも三畳紀以来の伝統、あるいはそれによる進化的制約を、軽々と突破している。

恐竜に詳しい方は全員ご存知のように、スピノサウルスは長年「謎の恐竜」であり続けた。エジプト産のシュトローマーのホロタイプ標本は戦時中の空爆で完全に失われており、その後70年間にモロッコのケムケム層やアルジェリアの地層から、かなり多数の分離した骨の化石が発見されたが、いずれもこの恐竜の正確な大きさや体形を明らかにするには不十分なものであった。今回の研究でIbrahim et al. (2014) は、白亜紀後期セノマニアン(9700万年前)のケムケムから、スピノサウルスのネオタイプとなった亜成体の部分骨格の発見を報告している。これは、2008年にモロッコの化石コレクターにより発見され、2013年に米国やイタリアを含む国際チームによる発掘で、多くの追加標本が発見された。
 このネオタイプは、部分的な頭骨、脊椎、前肢、腰帯、後肢の骨からなる。頭骨は断片的で、部分的な鱗状骨、方形頬骨、方形骨などを含む。前肢も手の第2指の第1指骨(II-1)のみである(supplementary material 中ではなぜか「第2指の第2指骨(II-2)と第3指骨の基部」と書いてある)。しかし脊椎はいくつかの頸椎、胴椎、仙椎、尾椎があり、頸肋骨、肋骨、血道弓の一部もある。そして、腰帯と後肢はよく保存されていた(腸骨、恥骨、座骨、大腿骨、脛骨、腓骨、趾骨)。足根部はないが、ほとんど完全な足が保存されていたという。
 著者らはネオタイプの骨と、その他スピノサウルスと同定される分離した骨をすべてCTスキャンで取り込んだ。いくつかの骨はシュトローマーの標本と重複していたので、大きさを合わせて合成することができた。こうして今回のネオタイプ、シュトローマーの標本、分離した骨、他のスピノサウルス類(スコミムス、バリオニクス、イリタトル、イクチオヴェナトル)からの推定などを総動員して、コンピューター上に全身のデジタルモデルを作製した。その結果、成体の大きさに合わせたデジタルモデルの全長は15m以上に達したという。結局、同一個体で脊椎骨と共に保存の良い腰帯と後肢が見つかったこと、さらにシュトローマーの標本と重複する骨があったことがポイントなのだろう。

吻の先端部表面には多数の神経血管孔が集中しており、これらはワニにみられる、水流を感知する圧覚受容器を収納する孔に似ている。歯の形状と並び方も魚を捕らえるのに適している。また他の獣脚類と異なり、外鼻孔が後方に移動していることも、半水生生活に適していると考えられる。これらは今回のネオタイプではなく、分離した完全な吻部の標本からわかったことであるが、今回スピノサウルスの半水生に適応した形質をまとめて記述している。特に、ディプロドクスなどでは頭骨の外鼻孔が後方にあっても、生体の外鼻孔(肉質の)はもっと前方にあったという研究があるが、スピノサウルスの場合はnarial fossa(外鼻孔の周囲の凹み)の形状から、生体の外鼻孔もかなり後方にあったということを強調している。

大部分の頸椎と胴椎は、仙椎に比べて前後に長い。その結果、スピノサウルスでは相対的に首と胴が長かった。最も前方の胴椎は前後に短く横幅が広いが、これは首と頭を上下に動かすことに適している。
 後方2/3の尾椎では、椎体が比較的短く、関節突起が小さく、神経棘も前後に短い。これらの特徴は尾を左右に曲げて泳ぐのに適している。
 スピノサウルスでは、腰帯と後肢がかなり縮小している。腸骨の表面積は、他の多くの獣脚類に比べて1/2ほどである。後肢の長さ/体長(ここでは体長とは頭胴長)の比率は、スピノサウルス27%、スコミムス40%、アロサウルス62%、アクロカントサウルス48%、ティラノサウルス52%となっている。

他の大型獣脚類とは異なり、スピノサウルスの大腿骨は脛骨よりもかなり短い。一般に小型の二足歩行恐竜では、大腿骨が短く脛骨が長いことは速く走行することを示すが、スピノサウルスの場合は明らかに走れる体形ではないので、これはあてはまらない。スピノサウルスの大腿骨には、尾部大腿筋の付着部が非常によく発達しており、大腿骨幹の1/3近くにわたっている。このことから後肢を力強く後方に引くことができたと考えられる。一方、脚を垂直に支えるための膝関節の構造は発達がよくない。これらの特徴は、後肢で水をかいて推進する、原始的なクジラ類や現生の半水生の哺乳類と似ているという。アンブロケトゥスとかラッコとかであろう。
 スピノサウルスでは足の第1趾が非常に太く長い。スピノサウルスでは第1趾の第1趾骨が足の中で最も長い趾骨であり、地面に着いていたかもしれないという。足の末節骨は、大きく長く丈が低く、底面が平らである。これは他の大型獣脚類の丈が高く曲がった末節骨とは大きく異なる。スピノサウルスの末節骨は、水辺の鳥の平らな末節骨と似ている。水辺の鳥は足の指に肉ひだlobe や水かきwebbingを備えている。第1趾が長いことや末節骨が平らなことは、スピノサウルスが泥の上を渡ったり、後肢で水をかいて泳いだりするのに適していたことを示唆する。(補足資料のfig. S1には足の復元図がある。ここでデジタル画像は完全であるが、実物標本の写真では第1趾がないようにみえるのが疑問である。重要な特徴なら、実物の写真を示すのが普通ではないだろうか。第1趾の第1趾骨は保存が悪いのだろうか。)

つづく
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
Unknown (猛勉之瑛)
2014-09-20 16:03:24
今回のスピノの発見でますます謎が深まったように思えます。僕が気になるのは、あの背びれの役割と、ワニとの生存競争に敗れて絶滅したという説は真実か、ということです。所先生は、ワニほどの遊泳力はなかったといっておいででしたが、復元骨格図を見ると、いかにもスピノに限っては「水陸両用」に見えます。ただし、獲物に忍び寄るときには背びれが目立ってはいけませんし、ほかの仲間にはちゃんとカギづめを備えた短めの腕がついている…スピノだけが特殊だったということでしょうか?
 
 
 
そうですね。 (theropod)
2014-09-22 17:09:01
背中の帆については、謎ですね。論文では、体が水面下に沈んでいる際にも帆が目立つことで、ディスプレイに役立ったのではとあります。しかし、とくに論拠がなく、あまり説得力はないと思ったので紹介していないわけです。
 帆自体がけっこう重いということなので、泳ぐにも歩くにも邪魔になるような気がしますね。魚の群れに近づいただけで、「影」ができやすいような気も。。。
 
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