『夜間飛行』

また靴を履いて出かけるのは何故だろう
未開の地なんて、もう何処にもないのに

『湖中の女』 レイモンド・チャンドラー

2008-11-20 | Books(本):愛すべき活字

『湖中の女』
レイモンド・チャンドラー(米:1888-1959)
清水俊二訳

"The Lady In The Lake" by Raymond Chandler(1943)
1986年・ハヤカワ文庫


++++

フロントグラスの右下のすみの裏がわに大きな白いカードが貼りつけられ、大きな文字で次のように書かれてあった。

有権者諸君に告ぐ!

ジム・パットンを警官の職にとどめよ。


他の仕事を見つけるには年をとりすぎている。


++++


チャンドラーの長編推理小説7本の4作目。

短篇の『ベイ・シティ・ブルース』(38年)と『湖中の女』(39年)をつなぎ合わせて書かれている。

台詞までほとんど一緒。

短篇の時の主人公はどちらもジョン・ダルマス。

この長作ではフィリップ・マーロウ。


数年経って、過去の短篇2つをくっつけて長編小説を書くのはどんな気分なんだろう。

長編に取り組む地位を与えられ、過去に手探りで書いた短篇を再構築して、ドッシリとした作品にしたい気持ちは理解できる。


ミュージシャンが同じことをやると、たいてい初期の輝きが失われた蛇足の、そのまたウンチのようなトラックができあがるが、チャンドラーの場合、この本が過去の長編4作で最も売れたそうなので、ひとまず成功なんだろう。


でも、どういうわけか、俺は短篇の『湖中の女』が好き。

あれは瑞々しいよ。

リトル・フォーン湖の保安官、ティンチフィールド(本作ではジム・パットン)に魅力があってね。


■チャンドラー 自己中心派
(1)長編
『長いお別れ』 (1976年・ハヤカワ文庫)
『さらば愛しき女よ』 (1976年・ハヤカワ文庫) 
『湖中の女』 (1986年・ハヤカワ文庫) 
『高い窓』 (1988年・ハヤカワ文庫) 
『リトル・シスター』 (2010年・早川書房)  
(2)短篇
『ヌーン街で拾ったもの』 (1961年・ハヤカワミステリ) 
『赤い風』 (1963年・創元推理文庫) 
『チャンドラー短篇全集』 (2007年・ハヤカワ文庫) 
(3)トリビュート/アンソロジー
『プードル・スプリングス物語』 (1997年・ハヤカワ文庫)
『フィリップ・マーロウの事件』 (2007年・ハヤカワ文庫) 
(4)チャンドラー研究
『レイモンド・チャンドラー読本』 (1988年・早川書房)
(5)映画でチャンドラー
『三つ数えろ』 "The Big Sleep"(1946年) 
『ロング・グッドバイ』 "The Long Goodbye"(1973年) 
『さらば愛しき女よ』 "Farewell My Lovely"(1975年) 
(6)ドラマでチャンドラー
『ロング・グッドバイ』 (2013年・NHK・浅野忠信主演) 


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湖中の女 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
清水 俊二
早川書房

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