『夜間飛行』

また靴を履いて出かけるのは何故だろう
未開の地なんて、もう何処にもないのに

『荒野へ』 ジョン・クラカワー

2009-08-25 | Books(本):愛すべき活字

『荒野へ』
ジョン・クラカワー(米:1954-)
佐宗鈴夫訳
"Into The Wild"(1996) by Jon Krakauer
1997年・集英社
2007年・集英社文庫

++++

SOS。

助けてほしい。


怪我をしている。

重症で、ひどく弱っており、ここから脱出できないでいる。


ぼくは独りぼっちです。

これは悪ふざけではない。

お願いだから、どうか待っていて、ぼくを助けてください。


すぐ近くへベリーを採りに出かけていて、夕方にはもどってきます。

よろしく。


クリス・マッカンドレス。

八月?

++++

アレグザンダー・スーパートランプ。

ある時は、自称、美の旅人。

本名、クリス・マッカンドレス。


東海岸の裕福な家庭に育った若者は、1990年にエモリー大学を優等で卒業した後、忽然と姿を消す。

1992年の4月、ヒッチハイクでアラスカに現れた彼は、マッキンレー山の北の荒野へ単身分け入って行った。

4ヵ月後、腐乱死体が発見されたのはスーシャナ川近くの廃棄されたバスの中だった。

バスの後部ドアには、救援を求めるメモが貼られていた。

メモの主は衰弱で日付が分からなくなっており、メモの末尾は「8月?」で終わっていた。


本書は92年にアラスカで発見された若者の死体を巡って、ジャーナリストであり、登山家でもある筆者が、その若者の生い立ち、放浪の経緯を綿密に追跡調査してまとめたノン・フィクションである。

当時アメリカは、裕福な人生を捨てて荒野へ分け入っていった若者の行為を巡って、賛否(ほとんど非難)の論争が巻き起こったらしい。


まあ、いろんな幻想を取っ払ってくれる本だ。

これから荒野に分け入ろうという奇特な若者がいたら、まずコレを読んだ方がいい。

読み終えてもまだ行く気になら、相当な頭でっかちだ。


まず、不必要だからと金を焼いた(と、マッカンドレスの日記に書いてある)割りに、放浪の間、終始金に困ってる。

嗚呼、もう現代社会にお金から逃げられる場所なんてないんだなぁ。


そんで、マクドナルドにバイトに行くと(時給4ドル25セント)、他の店員に言われる訳です。

「臭すぎる、入浴した方がいい・・・」

当然、誇り高い美の旅人は、即日バイト辞めてますけど。


本書を読むと、あらゆるシーンで俺ならハートがポッキンしちゃう出来事が起こる。

せっかく仕留めたヘラジカに、すぐ蛆が湧いたりさぁ。


同じアラスカに憧れても、最初から

「フェアバンクスに住みたい」(※アラスカ第2の都市。人口3万人)

くらいに、しかもそれさえ発言するだけに留めている俺の謙虚さが光るっていうか。


ところで、筆者クラカワーは本書の第14章と15章で、マッカンドレスの動機に迫るために、自身の壮絶な登山体験を語っている。

これは相当手に汗握る読みモノになっており、実際これが語りたくてこの本を書いたんでは?ってくらいの迫真の出来。


■今夜が山田(読み物)
『星と嵐』 (1954年/ガストン・レビュファ)
『富士山頂』 (1974年/新田次郎)
『みんな山が大好きだった』 (1983年/山際淳司) 
『荒野へ』 (1996年/ジョン・クラカワー) 
『マウンテンタウン』 (2000年/ボニー&アーサー・ガイサート) 
『BRUTUS 650号 山特集』 (2008年)
『山の雑誌 まとめ!』 (2012年) 
『BRUTUS 753号 歩こう。』 (2013年) 
『アラスカへ行きたい』 (2014年/石塚元太郎、井出幸亮)
『BRUTUS 802号 キャンプしようよ』 (2015年)

 
■今夜が山田(映像)
『Mountain of Storms』 (1968年・米)
『イントゥ・ザ・ワイルド』 (2007年・米) 
『180° South』 (2009年・米) 
『グレートサミッツ アウヤンテプイ ~天空のロストワールド』 (2010年・日) 


<Amazon>

荒野へ (集英社文庫)
佐宗 鈴夫
集英社
荒野へ
佐宗 鈴夫
集英社

 


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