『夜間飛行』

また靴を履いて出かけるのは何故だろう
未開の地なんて、もう何処にもないのに

映画 『風立ちぬ』

2013-07-24 | Movie(映画):映画ってさ

『風立ちぬ』
原作・脚本・監督:宮崎駿
2013年・日

【注: ストーリーに触れます。気になる人は映画を観てから読んでね。責任取らないよーん】

【注: たぶん、お絹という女中のことばっかり書きますけど、本作の主役は二郎と菜穂子なんでヨロシク】


こうなることは初めから分かっていた。

映画館で、ひとりぼっちで。

おっさんが、くっすん大黒になることは。


だって、まだ軽井沢あたりでストーリーが幸せに展開される段階で、もうなんかグズってましたからね。

おかC、俺の涙腺。




絶対的 秘密情報 (注意 : こっから先を読んだら、おまえの目にレモン汁を絞るッ)


さっき、冒頭で、実は見栄をはりました。 

ここからは誰も読んでないはずなんで、言いますけど。


中盤の軽井沢どころか。

大正12年、関東大震災の列車事故現場から、二郎が、ヒロイン菜穂子と女中のお絹を助けるシーン。

序盤と言ってもいい段階ですが。


高台の神社で、お絹をおぶった家人(丁稚)が、名前も告げずに立ち去る恩人・二郎を見て、

「いい男じゃねえか・・・、なあ、お絹」

と言うシーンで、俺はすでに100%の力で泣いていました


いやー、あの段階でもうグズッてたのは、館内でさすがに俺だけだったね。


あのね。(ここから長い言い訳)


俺はあの時点で、お絹のその後の悲恋の全てを、千里眼のごとく見通せたわけ。

だって、あの事故の後、お絹(と菜穂子のコンビ)の中で、白馬に乗った王子様(二郎)の存在がどれくらい大きく膨れ上がっていくか。

だいたい想像つくよね。


お絹と菜穂子は、毎日毎日、飽きもせずに2人で二郎の話をしたはずだ。


二郎は生きているだろうか。

どこにいるだろう。

今、何をしているだろう。

恋人はいるのだろうか。


だって、あの日の二郎は、ほぼパーフェクトでしたから。

あれなら俺がお絹でもキュンとくるっちゅーに。


しかし、インターネットも無い時代。

まず、二郎のにぃにぃが名前さえ名乗らずに去ったから、見つけるのに一苦労。

2年ですからね、恩人を探し出すのに。


苦労の末、せっかく二郎を見つけても、お絹はわきまえた女なので。

あの、奥ゆかしいフェイド・アウト。

二郎はのんびり鯖の骨ながめてる場合じゃなかった。


そして、ここからが俺が言いたかった最大のポイントです。


お絹は自分の状況(2日後には××)を踏まえて、

「ここで二郎に会ってしまったら色々ややこしい」

と、抑制を効かせ、あんなに会いたかった二郎に会わずに帝大の校舎を去るわけですが。


でも、きっとそれは、ただ自重したってだけではない。


2年前の事故の日は、きっとお絹のなかで自分のピークだったのだと思う。


事故の後、お絹だって白馬の王子様との再会を夢見てだいぶ粘ったはずだ。

でも、2年も経つと


「お絹、そろそろあんたも・・・」

という周囲のプレッシャーは抗しがたいものになっていただろう。


当時の世情でいえば、そう言われて、もうさすがに断りきれない年齢だったのだと思う。

(実際は全然カワイかったはずだが、当時の社会的にはね・・・)


だから、お絹は自分の心に区切りを付けにきた。

届け物のシャツは、2年前のあの日の私をずっと覚えていてね、という二郎へのメッセージだ。


現に列車事故の2年後、大正14年にお絹が帝大を訪ねた時点では、二郎の心は完全にお絹に向かっていたことが描かれている。



でも、列車事故から10年後、昭和8年に軽井沢で菜穂子と再会を果たした二郎は

「ぼかぁ、最初(大正12年の帽子キャッチング)から菜穂子一本だった」

と言いますよね。


しかし、ここで二郎を責めても詮無きこと。

だって、これはお絹が去ったステージに、今は菜穂子が立っているというだけのことだから。


大正12年の列車事故時点では、菜穂子はまだ銀幕に憧れる練習生(子供)で、

隣で、女の魅力をいかんなく発揮していたのはお絹だった。


だから、事故のあの日、避難した高台の神社で、お絹と二郎が


「じゃあ、赤外線でメアド交換しよっかぁ、フフフ」

とか言っていたら、映画の主役は変わっていた。


しかし、10年後。

お絹が肝っ玉母さんになった頃、菜穂子は花のような美しさを携えていた。

ちょうど10年前のお絹のように。

それは自然の摂理だ。


この映画は本当に並じゃない。

だって、そのあと俺たちは、今度は菜穂子がステージを降りる姿まで見せられるんだから。


去り行く菜穂子に、黒川夫人(大竹しのぶ)が、

「美しいところだけ、好きな人に見てもらいたかったのね」

と、『シザーハンズ』のウィノナ・ライダー的解説を加えるシーンは、寂しくて涙がちょちょぎれる。


愛しい人を残し、一人、死ぬために山へ戻る。

その姿は気高く美しい。

そして、耐え難いほど寂しい。


だが、ここでぽっくんは声を大にして言いたい。

同じことをお絹だってやったんだと。

死ばかりが別れではないだろう。

これは菜穂子の物語であると同時に、お絹の物語でもあるんだと。


美しいまま二郎の前を去った、あの日のお絹の後ろ際を、ずっと傍にいた少女時代の菜穂子が忘れるはずもない。

だから、何年もあとで、病が、銀幕から去るべき時間をそっと早めたときに、


菜穂子は迷わなかった。



男はいいよね。

お外でドンパチやってりゃいいんだから。

大事なことに気付かぬか、または気づかぬふりでもして、まっすぐに生きられて。


こう見ると、女はあまりに背負ってるものが多い。

そのうえ、外套のポケットでは懐中時計までがチクタク音を立てている。

しかし、だからこそ、二人の女性の凛とした去り際が、強く胸を打つ。


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4 コメント

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こんばんは (uzu)
2013-07-25 02:07:10
夜も深い時間というのに、また声を立てて笑ってしまいましたよー。注意書きの多さと、内容に♪
『レモン果汁・点眼の刑』があるような、物騒なブログだったとは・・・知りませんでした!
『風立ちぬ』今週末観に行きます♪
号泣と言えば、『怪しい来客簿』をついさっき読み終えましたが、ほぼ全編、人目を憚らず落涙してしまい、私も涙腺がおかCことになってます。
ひっそりと不器用に生きた、脚光の当たり切らない人に着目して感じ入り、その人の胸中に思い巡らす色川さんの温かさにホロリとなって、ホント、たまらないですね。
読めて良かった。教えてくれて、ありがとうです!
今回の記事もですが、夜間飛行さんのブログも色川さんに通じるホロリを感じます・・・時どきですけど!
こんばんは (夜間飛行)
2013-07-26 04:14:47
時どきとは言え、ポロリを感じて頂いてありがとうございます。
夏場は薄着なので、どうしてもポロリしやすくなりますね。
Unknown (くるくる13)
2013-07-26 12:51:14
初めまして。

私もこの映画の要はお絹さんだと思っているのでこの記事には大いに共感させて戴きました。
(生まれて初めて宮崎駿キャラに欲情しました)
こんばんは (夜間飛行)
2013-07-31 02:14:15
くるくるさん>
二郎がなんの躊躇もなく菜穂子にいくシーンで、観てる人は、誰しも一瞬「あれっ?」と思うはずですよね。
宮崎駿はちゃんとそこも狙って作ってるんだと思います。

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