『ペット・サウンズ』
ジム・フジーリ(米・1953-)
村上春樹訳
"Pet Sounds" by Jim Fusilli (2005)
2008年・新潮社
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今の若い人に、
「ビーチ・ボーイズはかつて、ビートルズと同じくらい優れたバンドだったんだよ」
なんて言ったら、おそらく変な顔をされるのがおちだろう。
でもそれは嘘じゃない。
『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』は
ロック時代のベスト・アルバムだとよく言われる。
しかしそこには『ペット・サウンズ』がもっているような深い感情的、音楽的洗練性が果たして備わっているだろうか?
オールタイムのベスト・ロック・アルバムのトップ・テンには、『リボルヴァー』と『ラバー・ソウル』がほとんどいつもと言っていいくらい顔を出す。
しかし『ビーチ・ボーイズ・トゥデイ!』や『サマー・デイズ(アンド・サマー・ナイツ!!)』が姿を見せることはまずない。
でも、僕に言わせれば、それらは少なくとも同じ程度には優れている
(たぶんタイトルにつけられた無意味な感嘆符が減点の対象になっているのだろう)。
マイクとブルースとアルは、小切手さえ書けば、あなたの子供のプロム・パーティーに来て演奏をしてくれる。
いや、もちろん、人は誰しも生活のために働く権利を有しているわけだが、しかし、それにしても・・・・・・。
ビートルズはあなたの想像力の中で演奏する。
それはまさにうっとりするような音楽だ。
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これ、特に、ビートルズとの比較のところは、ビーチ・ボーイズのファンの心境をよく言い表していると思う。
ビートルズは、解散の仕方から、ジョンの最期(暗殺)も含め、あらゆる面でレジェンド。
小学生でも痺れるくらい、分かりやすい。
(俺も小学生でビートルズにはまり、中学の時には彼らに完全に狂った)
それに引替え、こいつらぁ・・・、って言う。
おじちゃんたち、2005年のフジロックでも元気に来日してたね。
劣等感に苦しみ続ける宿命、それがビーチ・ボーイズを愛するということ。
もう誰もビートルズとの上下関係なんか気にしてないのに、自分で持ち出して、自分で身悶えしちゃう。
はあ、はあ・・・。
まあ、この2バンドの差は、
美しいまま芸能界を去って思い出になったキャンディーズと、オバちゃんになって帰ってきたピンクレディーの違いみたいなもんか?
本書は、筆者ジム・フジーリの個人的思い入れがたっぷり詰まっている。
もっと正確に言えば、フジーリが幼年期に感じたブライアン・ウィルソンへの強烈なシンパシーが、そのまま文章になっている。
だから、あまりに個人的な思いに支えられた記述にぶつかって、違和感を覚える読者もいるだろう。
でも、俺は、結局、音楽のことなんて個人的な思い入れでしか書けないと思っている。
大好きな名盤を1曲1曲ひも解いていくってのは、
ジョー・ハーヴァード著の『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ もっとも嫌われもっとも影響力のあったアルバム』 と一緒のパターン。
これらの本を読むときは、「思い入れが強すぎて、ちょっとついていけないな」って感じの箇所は、頭の中で補正して読んでいけばいいんだと思う。
ちなみに、著者であるフジーリは、
『ビーチ・ボーイズ・トゥデイ!』 や 『サマー・デイズ(アンド・サマー・ナイツ!!)』 が、 『リボルヴァー』 や 『ラバー・ソウル』 と肩を並べると書いてるけど・・・、
まあ、ビーチ・ボーイズ贔屓の俺から見ても、そんなことは有り得ないよ。
個人的に、 『サマー・デイズ(アンド・サマー・ナイツ!!)』 は好きだけどね。
『ビーチ・ボーイズ・トゥデイ!』は、名盤ながら、昔からそんなにピンと来ない。
ちなみに、別格である『ペット・サウンズ』をのぞいて言えば、俺の中では『フレンズ』がオール・タイム・フェイバリット。
とかなんとか、本書の影響で、俺までグダグダと好きなアルバムの話を始めちゃいましたとさ。
音楽ってそういうもんだよね。
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