Sleeping in the fields of gold

小麦畑で眠りたい

さまよえるダンサー

2017-07-26 | Arts




『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』という映画を見てきた。

残念ながら、彼のダンスを生で見たことはない。
英国ロイヤルバレエで最年少でプリンシパルを踊った天才だが、その全盛期に彼は20代前半という若さで退団した。

最近はバレエもあまりに高額なので、観に行けていない。
2万円払ってまで観たいと思うダンサーもいなくなったからかもしれない。

つい最近までアテクシはこのダンサーのことも知らず、ネットでHozierの"Take me to Church"に合わせて踊った動画が彼を見たのが初めてであった。
一目でわかる、確かな才能と技術。




ただ、クラシックバレエのダンサーでこれだけの刺青を入れているというのは、どういうことだ?と。
邪魔である。刺青が。
刺青の意匠というのはどうしても引きが強いので、そこに「なにがしかの意図」が生まれる。
それが様々な役をこなさねばならないダンサーの身体にとっては「邪魔」だ。

確かに上手いが、なんだろうかなぁと思っていた。

そこで今回、このドキュメンタリーフィルムを見た。
なるほど、なかなかの葛藤を彼も内に抱えていたのだねということが、分かった。

貧しいウクライナの村の出身。
ポルーニンは最初は体操をやっていた。体操かバレエかという選択を迫られた時、母親が生まれもっての体の柔かさから「バレエが向いている」と選択した。貧しいウクライナの田舎町から、一流の人間になるために。
彼自身も大変な努力をしたが、家族も多大な犠牲を払った。

キエフのバレエ学校の授業料を工面するために、父はポルトガルへ出稼ぎに行き、祖母はギリシャで介護の仕事をした。その後、バレエ学校で優秀な成績を修め、英国ロイヤルバレエへの入学を許可される。この留学費用の工面のためにも家族は奔走したろう。結果、彼が留学中に両親は離婚することになる。

ポルーニンは踊ることは元来好きであったろうが、多大なプレッシャーを感じながら踊るようになっていた。自分の為に家族は離散し、お金を工面してくれた。彼がロイヤルバレエ・スクールで、誰よりも才能がありながらも夜遅くまで人の何倍も努力し続けたのは、自分が成功することで再び家族を幸せにすることができると信じていたからだろう。

その目的な失われた時、最年少でプリンシパルの地位を得て、類まれな才能で成功を収めても。
踊れば踊るほど彼は孤独で、踊る意味を見失ってしまった。
コカインにも手を出し、鬱病にもなる。

アテクシは、あの刺青はバレエ団を辞めてから入れたものかと思っていたが、彼は現役時代から入れていたのね。それを化粧を塗って隠して舞台に立っていた。

なんだかなぁ…。
隠すくらいなら入れなきゃ良かろうに。
厳格なロイヤルバレエ団でそれを許していたことが信じがたいが、それでも繋ぎ止めたいほどの才能だったのだろうな。

アテクシ自身は、それほど彼のダンスに惚れる感じではないの。
だが、確かに上手いと思うし、正確な技術を身に着けている。
もっと観客を煽るような、ボルテージを上げるような振り付けも、自分で付け加えることもできるんだろうと思うのに、(たとえば熊川哲也なんかがそういうのお上手だけど(笑))彼はそれをしない。
割と淡々と、基本に忠実に踊っている感じ。
そこがロシア系の仕込みだなぁと(笑)。

ジャンプの時の回転軸とかがね、ブレないね。
これはすごい。何気なくやっているけれど、非常に見事だと思う。

この映画を観て、確かに重いプレッシャーを感じて、10代の子ども時代さえろくにない状態で、ひたすらバレエだけを踊ってきた彼が、精神的に「限界」に来ていたのだろうなということは分かる。

ただねぇ…。
ダンサーが「ベスト」の状態で踊れる時間なんて、せいぜいが20代までだろう。
30代になったら、やはり体力の衰えが出てきてしまう。
その短いダンサー人生で、これほどの才能があり努力もしてきたのに、こんなにも脆く精神的に壊れてしまうことが、実に惜しいなぁと感じた。

彼ほどの才能を、どれほど無名のダンサーたちがほしがっていたことだろうと。
ロイヤル・バレエでソリストにさえなれないで、そのダンサー人生を終えていく人だってたくさんいる。
これほどに肉体的な素質に恵まれながら、家族の愛に飢えていたという理由で、そのすべてを捨ててしまうことが正直アテクシには腹立たしかったね。
いらないなら、くれよ!その身体(笑)。

アテクシがバレエを好きになったのは高校生の頃だから、もはやバレエに出会うのが「遅すぎた」。こればかりはどうにもならない。特に女子はせいぜい7-8歳くらいまでに始めていなければ、プロになるのは無理である。まぁ、アテクシの足の甲はとても固いし、到底バレエダンサー向きの体型でも筋肉でもないから、たとえ幼いころから始めていたとしてもプロにはなれなかったろう。それでも「もし、幼い時から習えていたらな」という思いが募るのがバレエである。

アテクシの中で一番のダンサーはジョルジュ・ドンで、なにしろ出逢いが彼のボレロだからしょうがない。「愛と哀しみのボレロ」という長い映画のなかで偶然に目にしたのが出逢いだった。それから大人になってからバレエを習い、一時期はトゥシューズをどうにか履けるところまでいったのだが、それからブランクもかなりあったり肥ってしまったりで。もうトゥシューズは履けないけれど、今また、入門のバレエを習っているところ。(ストレッチ教室の先生が一時お休みになってしまって、そのまま入門バレエになっちまったのよ(笑))

そんなアテクシから見ると、こんなに恵まれた体を持っていてさーと、思っちゃうよ(笑)。
アテクシだったら。
彼のこのダンスの才能と技量が手に入るなら。
家族も何も、すべて犠牲にするよ。喜んで~~。
悪魔に魂を売ってもいいサ。

だって、これだけのものを手に入れるならば。
普通に人並みに幸せな人生なんて、手に入るはずがないだろう?

ポルーニンよ、その若さゆえか、君はあまりに欲深い。
年を取ったら、いかに自分が「ベスト」の時を粗末に扱ってしまったのか後悔するだろう。
そんな風に踊れるのは「あの時」だけだったのに、と。

まぁ、それでも。
それが分からないのが人というものだし。
彼には彼の苦悩があったことも想像はつく。

少し自分の気持ちにも整理が一通りついたようであるし。
これからは「義務」としてではなく、「心の喜び」として君のためにダンスを踊ってほしいな。

それほどの技量があるのであれば。
もっと「ほとばしるような魂の踊り」を踊れるのではないかと、アテクシは期待しているョ。

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