経営法務研究室2023

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銀行が拒絶する相続預金の払戻に対する対応について

2013-03-03 | (法律)

 被相続人が亡くなって、相続が開始した場合、銀行等金融機関にそれを(被相続人が亡くなったことを)連絡すると、預金はロックされ、出金が原則としてできなくなります。(実際の態様は、金融機関において、相談となるところはあります。とりわけ、入金については、従前の法律関係に基づく家賃収入などいきなり変更できないものもあるので、同じ要請の支出についても、全相続人の同意があれば出金できることもあります。)

 やっかいなことに、相続預金において、一般に、金融機関は通常相続人全員の同意がないと、預金の解約・払戻には応じません。

 しかし、必ずしも相続人全員で、そうした払戻し手続きを早期にできるかというと、実際には、相続をめぐってトラブルになっていることも珍しくなく、相続人全員の印鑑のある書類を作成できる状況にないことがあります。

 でも預金が拘束されるのは嫌です。相続問題が解決するまで、預金が一切使えないとすると、相続税の支払いなど困ってしまうこともありえます。

 そこで、何か方法はないかという話です。

 最近大手金融機関相手の訴訟が終了しました。大手金融機関の対応については、満足をしていない方もいらっしゃるかと思いますので、参考までに事案と解決手段を提供致します。

 預金債権は、金銭債権であり、相続開始により、当然分割となるという解釈がとられております。この考えは、最高裁判例等で、ほぼ認めら得ている考えです。
 そのため、遺言書がないことが前提となりますが、各相続人は、遺産分割協議をするまでもなく、預金債権だけは、取得していることになるのです(※合意で遺産分割協議の対象としてしまうダメになりますので注意を!!)。

 つまりは、銀行にある被相続人名義の預金は、本来、法定相続分に応じて、単独で、払戻し請求が認められなければならない状況であることを意味します。

 依頼者の方は、多額の相続税を支払必要もあり、預金の払戻しを希望しましたが、大手金融機関からは、ほかの相続人と一緒に手続きをしない限り応じないというとの返答でした。ほかの相続人とはいろいろ対立する主張があり、とても一緒に手続きはできない状況でした。こうした事情について、ある程度金融機関は、知ったようでした。
 本来であれば、金融機関の立場だと、ここで、支払わないとすれば、債権者不確知ということで、弁済供託をするべきです。しかしそれもせずに拒絶という対応でした。

 そこで、当然分割となった預金債権を支払えという訴訟を金融機関に対して起こしました。結論は、預金債権全額認容判決となりました(いろいろ主張はありましたが、この論点はとりあえず解決済みのものでもあるので、結論自体は珍しいものではありません。)


 ここでのメリットは、遅延利息の請求です。金融機関が支払に応じないときから支払の遅滞となりますので、年5分の割合による損害金を請求できます。

 預金の利息が0.0●%とかいう昨今ですから、5%は極めて大きいです。今回の依頼者の方も、何千万という預金でしたので、損害金もかなりの金額となりました。

 なお、金融機関から、訴訟費用(印紙代、郵便切手代)、そのほか必要書類取り寄せ代等も、訴訟費用の確定手続きをして、全額回収しました。


 依頼者の方は、相続税の支払いに困り、たまたま何とかできたからよかったものの、相続税の延滞税もばかになりません。金融機関のせいで、発生しても、それを支払ってくれないので、こうした金融機関に対して、厳しく望みたいものです。


 もっとも、単純に、5%の遅延利息だけを求めて、請求するのも必ずしも合理性があるとはいえないケースもあり、個別具体的な事情によって左右されることも皆無ではありません。


 具体的な対応を決める上では、弁護士に相談をしていただくのが望ましいです。



 最後に、弁護士に、相続預金について、金融機関へ請求する場合の若干の注意点を明記しておきます。

 ※ 請求手続きは早めにすること(請求時からの利息請求となります。)
 ※ 念の為内容証明で、請求に応じていただけない場合法的手続きをする旨を告知すること(請求時の証明に使います。)
 ※ ほかの相続人との間で遺産分割協議の話し合いをする際、預金対象としない(協議の対象となると預金請求はできません。)。


 なお、上記以外に、今後の課題は、5%遅延利息以外の損害賠償の成否です。

 とりわけ税金の延滞税など最初2月は7.3%ですが、それ以降は14.6%なので、結構大きいです。

 この点は、難しい問題であり、金銭債務の履行遅滞は、本来遅延利息のみです、そのため、別途、この点だけ、不法行為に基づく損害賠償請求をするというスタンスになるのですが、そうした請求ってあまり例がないのです。

 こうした請求するためには、金融機関に予見可能性があることも必要だと思われますので、できれば、前記内容証明の作成段階で、弁護士に相談して、交渉段階からかかわらせてほしいところです。