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石油の富は民主主義を阻害するのか?

『石油の呪い』より 石油の富は民主主義を阻害するのか?

石油の富は、民主主義国家をより民主的ではないものに変えてしまうのだろうか。一瞥する限りでは、こうしたモデルは正しくないようだ。もしも石油が現行の政府を支える機能を有するなら、民主主義体制も権威主義体制も、どちらの政府も強化されるはずだ。またいくっかの統計分析が明らかにするところによれば、石油収入は民主主義諸国が民主的であり続けることを助ける。

しかしより詳細に分析すると、答えは込み入ったものになる。このモデルによれば、権威主義だろうと民主主義だろうと、石油は現職者に力を与える。そうであれば、力を得た独裁者は、独裁体制が維持されれば自身が権力の座に居続けることになるので、自国が独裁国家であり続けることを望む、という筋書きを想定できる。しかしながら、民主主義国家で石油によって力を得た現職者は、かならずしも自国が民主主義国家であり続けることを望むとは限らない。事実、民主主義国であっても自国をより独裁的な国家にしてしまえば、現職者はより長期にわたって権力の座に留まることが可能となるからだ。

すべての民主主義国家が一様にこうした危機にさらされると疑ってかかる必要はない。経済的に豊かな民主主義国家は、執政府に対してより実効的な制限を課している。これは議会と法廷が強い影響力を有しているためだ。しかしさほど豊かではない民主主義国家は、通常、立法府や法廷の権限が弱く、執政府に対する制限も弱い。経済的に豊かな民主主義的な産油国においては、現職者が大き過ぎる権力を獲得することを防ぐ抑制と均衡の仕組みが機能し、石油が現職者にもたらす力を抑制する。だが貧しい、あるいは中程度の経済水準にある民主主義国家においては、石油の富はその国が民主主義的であり続けるために必要な抑制と均衡の仕組みを破壊するのに十分な力を現職者に与えてしまう。

このことは、石油の富が低所得民主主義国を民主的ではないものに変えてしまう効果を持っということを意味する。低所得あるいは中所得の産油国の数があまりにも少ないので、十分な信頼性をもってこうした仮説を検証することは難しいかもしれない。そうではあるものの、表3.6が示すように、この仮説が正しいことを示す証拠が、それほどはっきりしないが存在する。この表は、1960年から2008年までのすべての国家を対象に、1年間で民主主義国家が失敗する割合、つまり1年の間に民主主義国家が独裁国家に移行する可能性を示している。全体的な傾向として、産油国で民主主義が失敗する傾向は一般的ではないという結果が得られるが、これは統計的には有意ではない(第1行)。対象国を経済的な豊かさで分けても(第2行、第3行)、産油国と非産油国の間で民主主義の失敗には有意な違いは認められない。

では、時間を考慮すればどうだろうか。我々が以前に確認したところでは、1970年代の転換点以降に石油が強固に反民主主義効果を持つことが明らかとなった。第4行と第5行が示すのは、1960年から1979年の産油国において、民主主義の失敗は極端に減少するということだ。そして1980年以降は、産油国でわずかに頻度が高くなるが、この違いはやはり統計的には有意ではない。

では、こうした二つの要素を組み合わせて見るとどうなるだろう。1980年以降の低収入民主主義国家(第6行)を見てみると、産油国の中で民主主義の失敗の頻度が顕著に高くなる。しかしながら、ここで現れる差異は片側t検定の結果では統計的な有意差を確認できない。本章補遺の分析では、交絡変数を制御することで、とくに1980年以降の低所得国について石油と民主主義の失敗が統計的に有意であることが明らかとなる。

経済的に豊かな工業国を除いて、民主主義的な産油国は少なく、こうした相関関係に意味があることを示すことは難しい。しかし事例研究のレベルにおいては、民主的に選出された現職者の権限を石油が強化し、またこうした現職者が民主政治の制約を後退させるという現象が、石油によって可能となることが示される。

もっとも驚くべき事例が提示されるのはアメリカだ。アメリカの石油産業の大半は各州の規制を受けており、連邦政府の管轄下にはない。つまり州政府が石油収入を得ている。このため、もしも石油と天然ガスの富がアメリカの政治家に力を与えるのならば、それは州政府レベルでもっとも顕著に確認できるだろう。エリス・ゴールドバーグとエリック・ウィブルズ、そしてエリック・ムヴキイェヘの研究、およびジャスティン・ウォルファーズの研究は、大きな石油収入を得ている州では、現職の知事が再選される可能性が高く、対立候補に大差で勝利する場合が多いことを明らかにした。

非常に極端な事例が1920年代初頭のルイジアナで発生している。そこでは州知事のヒューイ・ロングが石油ポピュリズムと呼び得る政策を通じて、かってないほどの政治的影響力を獲得した。石油企業への税率を引き上げると、そこから獲得した収入を使って新しい道路や病院の建設、児童生徒への教科書の無償配付を実施し、また自身を支持する州議会議員や地方議会議員を優遇した。州からもたらされる気前の良い金銭によって、ロングは絶大な人気と絶大な権力を獲得し、彼に同調しない新聞社を検閲し、州内部の地方政府で彼に対立する者を財政的に締め上げ、州職員の採用と解雇を、副保安官から学校の教員にいたるまで、個人的に決定した。ルイジアナの石油収入のおかげで、ロングと彼の後継者となった親族は、「他のアメリカの州知事に比べて、南アメリカの独裁者というにふさわしかった」。

1920年代と30年代のルイジアナ州における民主主義の崩壊は、近年の低所得民主主義諸国における民主主義の後退を予言していた。2000年8月に発生した石油価格の高騰によって、多くの産油国で選出された指導者が自身の権力に対して課せられていた制限を撤廃することが可能となった。

 ・アゼルバイジャンでは、イルハム・アリーエフ大統領が2009年3月に大統領の任期制限に関する憲法の改正を提案した。反対派は投票をボイコットしたが、政府の発表では投票者の90%が賛成票を投じたとされる。

 ・ナイジェリアの2007年の選挙では、大統領選挙においても上院と下院の議会選挙においても、与党のPDP(人民民主党)に大勝利がもたらされた。国内外のメディアはともにPDPを支援する賄賂が横行していることを報道した。インターナショナル・クライシス・グループによれば、このときの選挙はナイジェリア始まって以来の不正選挙となったという。

 ・2009年6月にイランで行われたマフムード・アフマドネジャードの大統領再選選挙は、国内外のメディアからは、不正投票が横行する欠陥の多いものと見られていた。アフマドネジャード政権はデモの鎮圧に際して革命防衛隊に多くを依存していた。政府は革命防衛隊が所有する企業と業務契約を交わし、その中には何十億ドルにも達する石油契約が入札なしに提供されたものもあった。

 ・最近の数十年間、ベネズエラのチャペス大統領は、低所得層や軍といった彼の支持母体内部での自身の人気を高めるために、高騰する石油収入からいくっかのプロジェクトに資金を投入した。彼は自分への支持を頼みに、自分の権力をチェックする独立した組織を排除しようとした。例えば、最高裁判事で自身に敵対的な者を交代させたり、メディアに新しい制限を設けたりした。2009年2月には、チャペスは公務員の任期を撤廃する憲法改正を行い、永久にその職に就くことを可能にした。
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