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レコメンデーションとパーソナルアシスタント

『知の進化論』より 人工知能の進歩で知識への需要はどう変わるか? ⇒ ネット放送しか見ていない。コンテンツをバラバラにすると同時に、各自の意味を持たせる手法が進化している。乃木坂での実験は興味深い!

これまでの章で、インターネットがわれわれの情報環境を大きく変えたことを見てきました。いま、情報環境にもう1つの大きな変化が生じようとしています。それは、人工知能の進歩です。人工知能は、これまで人間が行なってきた知的作業の多くを代替するでしょう。それだけでなく、「知識を持つことの意味」そのものにも、本質的な影響を与えようとしています。

レコメンデーションとパーソナルアシスタント

 「レコメンデーション」と呼ばれるサービスがあります。これは、ユーザーが望んでいると考えられる情報を提供してくれるサービスです。コンピュータが、「あなたが知りたいことは、これでしょう」とか、「あなたが欲しいものは、これでしょう」というように、情報を提供してくれるわけです。

 ロングテール的なデジタルコンテンツ配信では、求めるものを探すための仕組みが必要になります。最もよく知られているのは、書籍などを販売するサイトであるアマゾンのレコメンデーションです。本を選ぶと、それに関連する書籍を紹介してくれるのです。アマゾンのレコメンデーションは、多くの新規需要を開拓していると思われます。

 このサービスは、「協調フィルタリング」と呼ばれる技術を用いたものです。これは、購買履歴が似ているユーザーを探し出し、片方が購入している商品をもう一方のユーザーに勧める、という仕組みです。

 協調フィルタリングは人工知能とは言えないかもしれませんが、最近では、人工知能を用いたレコメンデーションが開発されつつあります。これはコンテンツに関する様々なデータと個人データを突き合わせることによって、人々が望んでいる商品やコンテンツを紹介するサービスです。これは、「パーソナライゼーション」と呼ばれます。このサービスを提供するのには、ニューラルネットワークが使われています。

 ニューラルネットワークとは、人間の脳の働きをコンピュータのシミュレーションによって再現しようとする数学モデルです。人間の脳には、100億とも140億とも言われる膨大な数のニューロン(神経細胞)があります。各ニューロンは、他のニューロンから信号を受け取り、他のニューロンに信号を送っています。脳は、こうした信号の流れによって、様々な情報処理を行なっています。そして、様々な経験から学習することによって、処理の仕方を変化させていきます。この仕組みをコンピュータ内に実現しようとするのがニューラルネットワークです。

 また、動画コンテンツに関しては、アメリカの動画提供会社「Netflix」(ネットフリックス)が、人工知能を用いたレコメンデーションを開発しています。

 また、映画について、シナリオから興行成績を予測することも可能になってきています。さらに進んで、「どんなシナリオにすればヒットするか」というアドバイスも行なうようになっています。

 「パーソナルアシスタント」と呼ばれるサービスもあります。すでに「Google Now」(グーグルナウ)というサービスが、スマートフォンで利用可能です。

 これは、検索する前に、その人が必要とするであろう情報を先回りして教えてくれるサービスです。例えば通勤経路の道が渋滞しているとすれば、いつもより早く家を出た方が良いことを警告してくれます。この他、スケジュールを忘れないように警告を発したりしてくれます。

 また、「人工知能bot」というものもあります。これは、人間と知的な会話をすることができるロボットです。「会話ポット」とか「人工無脳」と呼ばれることもあります。

 マイクロソフトやフェイスブックに続き、グーグルも人工知能bot「Google Assistant」を発表しました。これは、グーグルナウなどで収集した膨大なデータで学習したAIで、音声やテキストでの質問や命令にユーザーのコンテキストに沿った応対をします。

 ユーザーがグーグルアカウント経由でグーグルに与えるスケジュールや連絡先、位置情報、検索履歴などに基づいて、ユーザーからの質問や命令の意味内容を解析し、適切な対応を試みます。

 例えばユーザーが「ミュージカルを見に行きたい」と言うと、いま人気があるミュージカルを紹介し、「座席を2つ予約しましょうか?」などと聞いてきます。また、ネット上のレビューを表示します。

 パーソナルアシスタントや人工知能botでは、その人の個人的な事情に合わせた情報を提供してくれるので、わざわざ情報を検索する必要もなくなってきたといえます。これまで、情報のプルとプッシュの区別がなされてきました。しかしこの区別も次第に曖昧になってきています。その意味では便利になったということができるでしょう。

人間は人間らしくなりうるが、知の退化の危険も

 人工知能を軸とする新しい情報技術は、素晴らしい未来を約束してくれます。しかし、それと同時に、多くの問題がもたらされる可能生かあります。

 では、こうした変化をどのように捉え、それに対してどう対応したらよいのでしょうか?人工知能は人間の敵なのでしょうか?それとも味方なのでしょうか?人工知能をうまく利用しコントロールすることによって、われわれの生活をさらに豊かにしてゆくことは可能なのでしょうか?

 産業革命の時代に機械が発明され、それまで人間が行なってきた肉体労働の多くが、機械によって代替されました。これによって、人間は苦痛を伴う肉体労働から解放され、より人間らしい活動に集中することが可能になりました。

 これと同じように、知的活動においても、コンピュータにできることはコンピュータに任せ、人間は人間にしかできない作業に、より多くの時間を使うことができるようになるでしょう。

 これまで述べてきたような新しい技術を活用して、知のフロンティアを拡大していくことは、十分に可能です。

 行動を決定したり、選択をしたりするための情報を探す手間は必要なくなります。人々は、それらの情報を吟味することに、より多くの時間を使えるようになるでしょう。あるいは、その時間を有効に使って新しい知識を得たり、自分の趣味に時間を使うこともできるでしょう。

 しかし、人工知能は、問題をもたらす可能性もあります。それらは、近い将来に起こる差し迫った問題です。ここでは、次の3つの問題を指摘したいと思います。

 第1は、本章でこれまで述べてきた技術革新によって、知の退化が起こる危険です。

 人々は、レコメンデーションによって操作され、主体的判断能力を失う危険があります。セマンティック検索により、苦労しなくとも情報が手に入るようになり、グーグルナウのようなアシスタントで必要な情報が手に入るようになるので、積極的に情報をプルしようとしなくなるかもしれません。

 さらに、提供される情報の内容が問題です。レコメンデーションなどによって、知らず知らずの問に人間の行動がコントロールされてしまうということがありえます。

 こうなると、人間は「コンピュータの言うままに選んでいるだけ」ということになりかねません。またコンピュータにやり直しを指示された作業者は、愉快な気持ちにはなれないでしょう。

 「知らぬうちにコントロールされてしまう」という問題は、実は、しばらく前から指摘されてきたものです。検索における「フィルターバブル」については、すでに第5章で見たとおりです。

 もっとも、これに対処することは不可能ではありません。われわれはすでに、筆算や暗算の能力をかなり失いました。しかし、それで支障が生じているわけではありません。むしろ、より多くの時間を考えることに充てることが可能になっています。
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