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OKYO図書館紀行

010.21『TOKYO図書館紀行』より

東京都北区立中央図書館

 赤レンガ図書館の愛称で親しまれている東京都北区立中央図書館は平成20年に完成したばかり。赤レンガ部分は1919年に建てられた東京砲兵工廠銃包製造所の建物がベースになっている。この場所では日露戦争の時代から太平洋戦争終結まで弾丸がつくられ、その後は米軍や自衛隊の倉庫などになっていた。図書館として生まれ変わることがなければ、たいていの人は足を踏み入れる機会はなかっただろう。

 施設は新築部分と赤レンガ倉庫が一体化した構造。倉庫という言葉からイメージするような圧迫感はまったくなく、開放的な雰囲気だ。その理由のひとつは屋根にある。I階カフエから天井を見上げると、屋根を支えるトラス構造三角形を組み合わせた形)の鉄骨が見える。この天井と頑丈な壁面のおかげで柱が少なく開放的だ。ちなみにこの鉄骨は、日本初の官営製鉄所・八幡製鉄所で製造されたもの。建物を楽しみたいという人は、壁にも注目してみよう。ここのレンガは北区内の窯で焼かれたものもあり、それぞれ製造場所を示す刻印が押されている。コツは壁の根元をチェックすること。基礎とのつなぎ目で上部が露出しているレンガを眺めていけば、100年前に押された貴重な印を見つけることができる。

 ユニバーサルデザインの館内には段差がなく、通路もゆったり。書架も車椅子で本が取れる高さになっている。椅子はデンマークの老舗家具メーカー、フリッツ・ハンセンのものなど。さりげない贅沢は、長時間滞在してもらえるように、という工夫。うれしいことに、中庭テラスで読書をすることもできる。

千代田区立日比谷図書文化館

 2011年11月に開館した「千代田区立日比谷図書文化館」は、それまで長く都民に親しまれてきた都立日比谷図書館の正三角形の建物を改修したもの。都立から区立への移行に伴い、四番町歴史民俗資料館の機能が加わり、さらに蔵書も一部変更されている。また指定管理者として「日比谷ルネッサンスグループ」(小学館集英社プロダクション、大日本印刷、図書館流通センター、シェアードービジョン、大星ビル管理)という、民間企業の共同事業体が管理運営を手がけるようになった。

 入館するとそこには受付とコンシェルジュ。ホテルのフロントのような落ち着いた雰囲気だ。I階は大半がミュージアムで、おもに千代田区の歴史を見ることができる。その奥にあるカフェと地下のレストランでは図書フロアの本を持ち込むことができ、読みながらの飲食がOKだ。またカフェで「館内で飲みます」と伝えれば、閲覧室に持ち込めるようフタ付きでのテイクアウトも可能。慣れないと尻込みしてしまうが、温かいコーヒーや抹茶ラテ片手に図書館を利用できるのは大きな魅力。このカフェと併設されたショップでは、ステーショナリーとともに新刊書も売られている。「図書館で本を買う」とはなんとも不思議な感じだが、考えてみれば、本はもともと商品でもある。これまでの枠にとらわれない「図書館」としての新たな試みだ。

 図書フロアは2階、3階。こちらにも新しい図書館を創造しようという意欲が感じられる。話題のテーマを掲げた棚があちこちにつくられており、図書館がチョイスした関連書籍が並ぶ。そこには明治・大正期に発行された大変貴重な古書も少なくない。書庫では眠っていた資料が、こうして書架に並ぶと 1本」として息を吹き返すから不思議。もうひとつの目玉は「日比谷カレッジ」。地下ホールや4階の会議室を使い、本にまつわるさまざまなテーマの講座、ワークショップ、イベントを積極的に行っている。

 こうした意欲的な試みを通じて、これからの図書館はどのように進化していくのか。そのひとつの形が具体的に集約されているのが4階の「特別研究室」。書架(内田嘉吉文庫、旧一橋図書館蔵書など昭和初期以前発行の貴重な和書・洋書約2万冊を実際に手に取れるよう開架にしている)と、有料32席の個人ブース閲覧席(無線・有線LAN・電源完備)で構成されるこの空間。ここではただ本を検索して読むだけでなく、「こんな本があった」「この本の新しい価値に気づいた」という利用者同士が発表・議論をする「私の発掘本」などのセミナーを定期的に開催している。長い間書庫で眠っていた本が、陽の目を浴び、手に取られ、語られることで、また新たな発見や創造を生み出している。

まち塾@まちライブラリー

 まち塾@まちライブラリーは「館」のない図書館。現在、東京・横浜に10ケ所、大阪にBケ所設置されているすべての本棚が「まちライブラリー」だ。本棚はカフェ、ゲスト(ウス、シェアオフイス、お寺、薬局、居酒屋、雑貨店、時計店、古本屋、私設図書館などに設置され、蔵書の内容も冊数もさまざまだ。それでもれっきとしたライブラリーである。管理しているお店でお願いをすれば、本を借りることができる。会員登録(無料)し、昔懐かしい「貸出カード」を記人する。返却日は本棚によって異なる。必須ではないが、返すときに「感想カード」を記入したり、自分で推薦したい本を寄託することもできる。

 まち塾@まちライブラリーの提唱者・礒井純充さんは六本木ヒルズ・森タワー上層階にある「アカデミーヒルズ」の創設・運営に携わってきた人物。アカデミーヒルズは六本木ライブラリー平平河町ラィブリーといった会員制ライブラリーを通じて、ビジネスに直結した都市型の学びを提供する場として大きな成功をおさめてきた。しかしその一方で、礒井さんは組織や巨人施設にできることには限界があると感じたという。そこで注目したのが、魅力的な「個人」だ。不況や閉塞感が叫ばれる世の中でも、肩書きや地位に関係なく、自分の足で立ち、前に進む人たちはたくさん存在する。こうした人とコミュニケーションをとる場があれば、社会に活気がでるのではないか。そして始まったのが、個人目線でのミクロな文化活動「まち塾」だ。「まちライブラリー」はその実践のひとつとして2011年にはじまった。

 まちラチビフジーが注目するのは、参加する「人」である。「この本借りたいんです」と声をかけたり、感想カードを書くのはちょっとした手問だ。しかしその手間はコミュニケーションのきっかけになる。本棚をみて「あの本を置いたらいいかも」と寄託するのも同じだ。礒井さんにとっての「本」は「大阪のおばちゃんがくれるアメ」であり、相手との距離を縮めるためのツールなのだという。こうして本を介してつながった人々が一堂に会したのが、2011年11月23日に日比谷図書文化館を貸し切っておこなわれた、まちライブラリー初の大規模イベント「人〃のライブ(ウス」である。

 このプロジェクトではPR活動をほとんどしていない。しかし「1人からやれるまちの文化活動」の輪は、人の縁を通じて、少しずつ、しかし着実に全岡に拡がっている。
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