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ヘルシンキ アルカディア・インターナショナル書店

『世界の夢の本屋さん3』より ヘルシンキ/コペンハーゲン/オスロ

ヘルシンキの繁華街から少し離れ、静かな坂道をのぼっていくと、小さな立て看板がある、北国の首都に世界中から集まってきたすべての人を温かく迎え入れてくれる目印だ。

1階は、通りに面した大きなガラス窓から光が入る明るいスペース、コーヒーマシーンの隣には常連の名札が付いたマグが並び、いつ訪れても、店員と楽しそうにおしゃべりするお客さんの姿がある、オーナーのイアン・ブルジョーさんは、知らないお客さんが入ってくるたびに/この店は初めてですか? 地下もありますから、ぜひゆっくりして行ってくださいね」と丁寧に声をかけている。

3人の子育てを終えた頃に妻を亡くし、生活を変えるために本屋を開くことを決めた子本屋をビジネスとしてやるなら、専門を設けるか、古本屋ならネット通販に絞るべきだったかもしれない」と振り返る。しかし、リスクを冒してでも理想を貫くべきだという「人生の決断」を下した結果、すべてのテーマを扱い、言語の壁も取り払った古本屋を開いた丿良い本はより良い読者に」という考えから、当時自分が持っていた本はすべて商品にしたという(とはいえ、その後イアンさんが再び家に本棚を設けるのに時間はかからなかった)。

戦中は防空壕だったという地下に降りると、奥へ奥へと3つの部屋が続いている。ビリアード台やテーブルサッカー、そして長テーブルが置かれたプレイルームは、壁際に「誰かがある日連れてきた」ヘビを飼う水槽がある。その奥には、書庫を兼ねた読書室、そして、ワインとろうそくを置いた「チャペル」と呼ばれる休憩室があり、軍隊払い下げの毛布を備えて読書をしながらのうたた寝も歓迎している。

壁いっぱいの本棚に並ぶのは古本。最も多い英語の本のほか、フィンランド語、ドイツ語、フランス語、スペイン語、イタリア語、ロシア語、スウェーデン語、その他の言語の本もある。古本はすべてヘルシンキで買いつける。「どの本も、だれかの手でこの国に運ばれてきたもの。そして、ここからどこかへ旅立っていく。ロマンチックですね」とイアンさんは言う。

開店して間もない頃、バイオリニストが演奏会をしたいと申し入れたことがきっかけでイベントを開き始め、思いがけず好評を呼び、店は2012年に拡大移転。イベントを開きたいという人の提案はすべて受け入れ、今では月に20件あまりに達する。これまで行われた催しは、出版記念の講演会や展覧会、ジャズやクラシックのコンサートのほか、タンゴ教室やファッションショーから、政治家を招いての政治討論子無限」とは何かをめぐる数学教室、生物学者によるアリの生態の研究発表までと幅広い。会場費も入場料も無料だが、入場者には3ユーロの寄付を募る。入場者はほぼ全員寄付をするので、店の維持に役立っている。

スタッフには、失業者や、ザンビア人や中国人などでフィンランド語のできない若者も研修生として受け入れている。

客の半数はフィンランド人で地元に密着した本屋だが、年齢は10代から100歳近くまで、国籍もさまざまな人が世界中から集うのが店の自慢。客どうしの問にも交流が生まれる。対立する民族の人たちがここで出会って友達になるケースもあるそうだ。

この店で出会って結ばれたカップルは、6組にのぼる。オーナー夫妻もその一例だ。

オーナー・店長 イアン・ブルジョー

 フィンランド人は、外国の人や文化をすんなり受け入れる国民性です。日本の国会議員になった弦念丸呈さんの例もありますね。多言語・多文化の書店になったのは、ヘルシンキでは自然な選択でした。

 本屋が消えてなくなるのは想像しにくい。50年前は当たり前だったボタン屋とか仕立屋などの商店は、すっかりなくなった訳ですが、少なくとも「本屋に似たもの」は存在し続けるでしょう。本が並んだ棚には、あらがいがたい魅力がありますから。

 今の時代、故郷を離れて何度も引っ越す人や、本棚のないアパートに暮らす人が増え、蔵書をたくさん持ち続けることは難しくなりました。ここは、そんな人たちのための「船のような本屋」です。不確かで困難な世界という海に、世界のどこかから流れ着いた本を載せて浮かんでいます。そして、世界を漂流する人々にとっては、ここは「本棚のある家」に代わる避難ボートなのです。本がある場所だからこそ居心地がよく、数学の講座なんていう難しそうなイベントでも、ちょっと出かけてみようかという気になるのです。

 「カルチャーセンターのような本屋」と言われますが、実際には、いろいろな人の力で自然に物事が起きる店です。以前、私は何かを「オーガナイズ」したことは人生で一度もなく、やってみたいとも思いませんでした。最初はとても緊張しましたよ。でもおかげで世界を広げることができ、今の妻にも出会えました。
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