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農業〔ビジネス)支援の紫波町図書館

『この未来をこの手でつくる』より 町にふさわしい図書館を

図書館が入居するオガールプラザの建築計画が進行する一方、着任した手塚には、図書館の「中」をゼロからつくる仕事が課せられた。一流の図書館で経験を積んできた手塚にとっても、役場とともに進める開館準備には想像以上の苦労があった。

児童書コーナーや一般書のコーナー、事務室をどう配置するか。真っ自在A3用紙に描くことからスタートした設計に始まり、蔵書を管理するシステムの構築や備品の選定。公民連携室やアートディレクター、設計会社の担当者と何度も打ち合わせた。同時に運営方針や収集方針、コンセプトづくりにも着手。もともと、公民館や学校図書館にあった紫波町の蔵書6万冊の整理も選書作業と並行で進めた。山崎とともに徹夜で設計図に目を通し、図書館づくりに没頭した。

毎日、予想もしない問題が持ち上がった。たとえば、「紫波町図書館基本構想・基本計画」に基づいて、手塚たちが考えた図書館の運営柱は3つあった。ひとつは、O歳児から高校生までの子どもたちの読書支援。ひとつは、地域資料の充実。そして、もうひとつが、ビジネス支援だった。紫波町にとって、「ビジネス」とはいったい、何か?

紫波町は盛岡市のベッドタウンでありながらも、食料自給率が170パーセントという、農業を基盤とする町だ。しかし、1985年以降は年少人口の減少と老年人口の増加、つまりほかの地方同様に少子高齢化が進んでいた。2013年末の高齢化率は25・9パーセント。50代から60代の世代が多く、今後も高齢化に伴う生産人口のマイナスが続けば、紫波町にとって、財政的な危機につながりかねない。

オガールプロジェクトを進めるために策定された「公民連携基本計画」でも、そうした現状を指摘し、「農業生産の減少を克服するため、新たな価値の創造が、求められます」とある。そこで、新しい紫波町図書館が「ビジネス支援」として取り組むことになったのが、農業支援だった。

全国でも有名なビジネス支援図書館でキャリアを積んできた手塚だが、農業支援を図書館の軸のひとつにと言われた時、はたと悩んだ。通常であれば、企業で働くビジネスパーソンを対象に資料を揃え、専門家の相談会などを開催するのがいわゆる図書館によるビジネス支援だ。

しかし、農業支援ともなれば、相手は農家。しかも、その減少を克服するためには何が必要なのか。手塚たちは逡巡した。

ほかの自治体の取り組みを調べたところ、全国でも先進的な農業支援を行っているのが、栃木県の小山市立中央図書館だった。大きな成果を上げている図書館の事例をいきなり紫波町にあてはめることはできないと手塚は考えた。

「プロに聞くしかない」。そう考えた手塚は、思いつくところに片っぱしから訪ねていったり、電話をかけたりして、「農業支援サービスをやりたいです。まずは農業に関する講演会や相談会を開いてみたいのですが、どうしたらよいでしょうか?」と聞いて歩いた。

特に、役立ったのが県内のとある農業関係の部署に電話した時にもらったアドバイスだ。「町の農業政策と違う動きをするのはやめたほうがいい。講演会の講師の人選でも、町の政策と立場の違う人を呼べば、聞く人たちは混乱する」など、具体的な助言をしてくれた。

ほかにも、紫波町などを担当する「JAいわて中央」や、農業の専門書などを発行している「一般社団法人農山漁村文化協会」(農文協)にも相談しに行った。「最初は農業のことを知りたいと思い、あちこちに飛び込んでいったのですが、たいていのところは親身になって、熱心に応じてくださいました。それが二番の近道でした。やはり、図書館が独りよがりに農業支援のサービスをつくってはいけないと考えました」

悩みながらも、公民連携室のメンバーとともに、初めての企画書を作成した。

「今思えば、机上の空論でした」と手塚は笑う。手塚たちはその「絵に描いた餅」の企画書--理想の図書館像を大事に携えて、2012年8月、紫波町にとって初めての図書館となる「紫波町図書館」を開館させる。真新しいユニフォームは、19世紀フランスの農村をテーマにしたバルビソン派が描いた農婦の服装にヒントを得たリネンのワンピースだ。

そうして、紫波町図書館は農業支援を高く掲げてオープンした。

開館直後からオガールプロジェクトに対する町外からの関心は高く、視察が増加。同時に図書館を見学に来る人も増えていった。館長の工藤巧や手塚は、訪れた人に図書館が目指すあの「3本柱」を必ず説明した。

そして、図書館の奥にある、農業に関する資料を配架したコーナーヘ案内し、農業支援について語った。

しかし、サービス対象である紫波町の農家の人たちとのコミュニケーションまではすぐに到達できなかったのだ。農家の人たちへ直接アクセスするためには、町役場の花形部署である農林課の理解が必要だった。従来の常識では当然のことながら、農林課では自分だちと図書館に接点があるとはつゆほども考えていなかった。

勉強を重ねた手塚は、図書館が開館してから、満を持して町役場の農林課を訪れた。幸い、農林課長は本好きで、図書館の活動にも理解を示してくれた。手塚はその時に言われた言葉が心に残っている。

 「役所って、なんで役所というかわかるか? 役に立つところだからだ」

町民の役に立つよう、がんばれと、エールを送ってくれた。「農林課長には、協力できることがあったら協力すると言ってもらえました。この時、本当に少しずつ、動き始めた気がしました」

町役場の花形部署である農林課と、2012年に町長の藤原をトップに立ち上がった社団法人「紫波町農林公社」。紫波町における農業の重要な組織に図書館への理解を得て、手塚たちは背中を押された。

開館から8ヵ月。紫波町図書館は2013年4月、初めての試みとして、「しわの農を知る」という企画展を開いた。紫波町は、「フルーツの里」「産直のまち」ともいわれ、図書館と同じ建物内にある「紫波マルシエ」を含めて、町内10カ所で産直施設を展開している。

これら産直の組合長から農林課や紫波町農林公社、農協などを通じて農家を紹介してもらい、コンタクトを試みた。図書館にとって、農家とコミュニケーションを持つという、初めての機会だった。
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