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EU分裂はさらに進むのか

『EU分裂と世界経済危機』より EU分裂はさらに進むのか

ドミノ離脱を予感させる材料

 本章では、英国のEU離脱がEUに及ぼす影響を、英国に続くEU離脱やユーロ離脱が起きる可能性も含めて考えた。

 ここまで見てきたとおり、離脱のドミノを予感させる材料には事欠かない。単一通貨を導入した国々の間では格差が固定化しているからだ。

 EUは、南欧の国々に対しては「経済的な繁栄」という暗黙の約束を果たすことができず、失業の高止まり、貧困の増大を許している。また、2010年以降にたびたびユーロを揺さぶったギリシャ政府の過剰債務問題も、解決とは程遠い状況だ。

 逆に、ドイツ、オランダ、北欧など、経済パフォーマンスが相対的に良い国には、債務危機国の支援負担、移民や難民の増大、ECBの長期にわたる超金融緩和策への不満が募っている。

 そしてEUは、経済の長期停滞を許しているばかりでなく、テロ・難民危機という新たな脅威に対しても、有効な対策を打てていない。米国の調査会社「ピューリサーチセンター」が、16年4~5月に英国を含む10のEU加盟国で行った調査では、経済政策以上に難民問題への取り組みに対して強い不満が示された。最も高いギリシャでは94%、それに次ぐスウェーデンでは88%が、EUの難民対策に不満と答えている。EUの難民対策、とりわけ難民受け入れを加盟国で分担する対策は、中東欧の反対を押し切ってドイツ主導で決定した経緯があり、束西の亀裂にもつながった。

 17年春に総選挙を控えるオランダでは、15年秋以降、難民への国境封鎖やEU離脱を掲げる自由党(PVV)の支持率が、マルク・ルッテ首相率いる自由民主国民党(VVD)を抑えて1位に躍進した。この現象も、より効果的な対策を求める民意の表れだろう。

 中道右派や中道左派など主流派への支持離れ、反移民・反EUや反緊縮を掲げる政治勢力への支持拡大に加えて、加盟国がEUを巡って国民投票を行う傾向も続きそうだ。

 15年7月にはギリシャでEUの支援条件への賛否が、16年4月にはオランダでEUとウクライナが調印した政治・経済面の関係を強化する「連合協定」への賛否が問われている。そして、16年6月には英国がEU残留か離脱かを問う国民投票を行った。

 これらは、EU条約の改正などのために必要とされる国民投票ではなく、法的拘束力もない諮問的な意昧合いのものだ。しかし、いずれも結果はEUに対してノーを突きっけるものだった。本稿執筆時点では結果が判明していないが、16年10月2日にハンガリーで予定されるEUの難民受け入れ枠の是非を問う国民投票も、ノーという結果に終わりそうだ。

 英国の調査会社「イプソスモリ」が、英国の国民投票前の16年5月にEU加盟国8ヶ国で行った世論調査では、「自国もEU残留か離脱かを問う国民投票を実施すべき」と答えた割合は、イタリアやフランスで過半を超え、その他の6ケ国でも4割前後に達した。ただ、「今、国民投票が実施された場合、離脱支持に票を投じる」と答えた割合は、最も高いイタリアでも48%、それに続くフランスが41%、スウェーデンが39%と過半を超えた国はない。最も低いのはポーランドの22%、スペインが26%、ベルギーが29%だ。

 つまり、EUに対する意見を表明する機会は持ちたいという意欲が高まってはいるか、離脱への意欲が強いとまでは言えないようだ。

 EUは、加盟国に政治的には民主主義、法の支配、人権の尊重という条件を満たすことを求める。だが皮肉にも、そのEUが民主的正当性を問われ、民主主義に揺さぶられているのが現状だ。

EU分裂は不可避なのか

 以上のように、離脱のドミノを予感させる材料には事欠かない。とはいえ、筆者は、英国に続いて離脱の道を歩み始める国が、近い将来に現れることはないと考えている。

 第一章で明らかにしたとおり、英国は「離脱に最も近いEU加盟国」だった。経済面だけでなく、政治・軍事・外交面でも大国だ。また、独自の中央銀行制度を維持し、実際にイングランド銀行(BOE)は離脱ショックの緩和に役割を果たした。

 欧州が世界の中で一定のプレゼンスを維持するためには、単一市場が必要だ。EU圏内の中小国にとっては、EUの単一市場を離れて関税や非関税障壁を設けることで、近隣諸国に比べて優位性が低下することのリスクは大きい。

 また、単一通貨ユーロを導入し、より深く統合に組み込まれた国々にとっては、イタリアのリスクで触れたとおり、離脱のハードルは極めて高く、コストも大きい。とはいえ、このまま域内格差の拡大、失業や貧困の問題を解決できないままでは、離脱に追いやられる国も出てきかねない。EUはユーロの制度を改善しなければならないだろう。

 ただ、その道のりは平坦ではない。ギリシャの過剰債務問題でも、債務の肩代わりを禁じるEU条約への抵触、何よりも支援国側の民意に配慮すれば、元本削減などの抜本的な負担軽減が図れない。場当たり的との批判は免れないだろうが、その時々にできる範囲で調整していくほかない。

 第一章で見たとおり、EU予算は、英国の国民投票キャンペーンで離脱のインセンティブのひとつとなっていた。しかし、残留のインセンティブとして働く国もある。北欧や西欧の国々は、英国と同じく拠出金が受け取る補助金を上回るが、中東欧の加盟国では補助金の受け取り超過となっている。

 その規模は、最も大きいブルガリアで国民総所得(GNI、居住者が国内外から1年間に得た所得の合計)比5・3%、第2位はハンガリーの同4・4%と続いている。

 ハンガリーのオルバン政権は、EUの基本的な価値観とは相いれない政策を採り、EUとしばしば対立してきた。ポーランドでも2015年11月に右派政権が誕生している。しかし、この両国は、EUから補助金が受け取り超過になっていることに加えて、単一市場へのアクセス確保の重要性から、EUを離脱する意図はないと思われる。世論調査によると、難民対策にこそ不満を持っているものの、国民のEUに対する見方は好意的だ。

EU離脱は万能薬ではない

 また、安全保障の面から、欧州統合への深い関与を望む国もある。

 北欧では、ノルウェーはEU未加盟、スウェーデンはEU加盟国だがユーロ導入は見送り、デンマークは英国と同じくユーロ未導入の権利を保持しており、唯一、フィンランドがユーロを導入している。一方、中東欧では、ポーランドやチェコなどは導入に慎重な構えだが、バルト三国がユーロを積極的に導入した。

 北欧や中東欧に見られるこうした選択の違いは、経済規模が小さいということだけではなく、ロシアに隣接し、支配されてきた歴史と関わっている。つまり、フィンランドやバルト三国は、安全保障の観点からもEUへのより深い統合を望んでいるのだ。

 さらに、創設メンバーの国々はEUの制度設計に深く関わり、そこから得ているベネフィットも大きい。たとえばフランスは、EU予算の最大の支出項目である農業関連の補助金を最も受け取る国だ。また、ユーロ危機対策が独仏主導の形をとって進められたように、意思決定においても、大国は人口を基準に決まる閣僚理事会の投票権が示す以上の影響力を行使する。

 このように、EU加盟国はそれぞれに個別の目的や利益があってEUに加わっている。

 選挙や国民投票の機会に、有権者がEUの政策にノーを突きつけることはこれからもあるだろう。主流派離れという政治の流れも、しばらくは止まりそうにない。

 特に政治情勢がそもそも不安定で、経済・雇用情勢が厳しく、銀行システムにも問題を抱えるイタリアは心配だ。EUの中核・フランスの経済が振るわないことにも不安を感じる。EUの中で英国と似たような立ち位置をとってきた北欧の国々では、英国の離脱に続こうという機運が高まりやすいように感じられる。

 それでもEU離脱、ユーロ離脱は万能薬ではない。離脱すれば新たに対処せねばならない問題も生じる。テロや難民危機も、一国で対処するより、圏内で協力体制を探る方が効果的だろう。そう考えると、英国以外の国が、離脱へと一気に突き進むことは考えにくい。
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