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プーチン体制安定の理由は何か

『宗教・地政学から読むロシア』より ウクライナ問題の未来

このような内外双方の危機にもかかわらず、プーチン体制が安定している理由は何か。ロシア人の大多数の生活にとって、外貨や金融は無縁だし、ましてやロシア人の旅券所有率は28パーセント、ごくエリートを除けば外国生活はほとんど経験していない、という事情だ。ジャーナリストのボフトによれば約90パーセントのロシア市民は銀行預金すらしてはいない。つまり、欧米の制裁や、その結果ロシア経済の後退が起こったとしても、それは大多数の市民の生活と直接にはあまり関係がないことになる。もちろんインフレや年金の目減り、何よりエネルギー収入の減退などは大問題であるが、ロシア人はそれの耐える力や知恵がないわけでない。

プーチン大統領や政府の信頼がクリミア併合で150パーセント上昇し、他方、プーチンは指導者としてふさわしくないと思うものは12パーセントから4パーセントに低下した。1990年代の市場改革をリードしたリペラル知識人たちは、その経済的結果から見て信用されていない。この合意体制がどこまで制裁や経済危機に奏功するかが問われている。

こうしたこともあって、制裁が強まれば強まるほどプーチン支持率は上昇、体制は長期的制裁レジームであっても、その効果が限定的になると理解している。今のところ、プーチン大統領の8割を超える支持率は堅調で、「プーチン・コンセンサス」ともよばれている。

こうして第一に、欧米の経済制裁によるレジーム・チェンジが効果を持つことはほとんどない。このことは、オバマ政権が2014年12月のキューバ承認によって制裁解除したことによっても図らずも証明したかたちとなった。歴史的にみても、イランや北朝鮮もまた経済制裁でも変化しなかったし、中国の天安門事件では、鄧小平はむしろ国内経済の自由化で対応した(南巡講話)。

プーチンは潜在的脅威だりえたオリガルヒを取り込み、かれらの海外資産を罰することなく国内に戻す活動に着手した。プーチンは政敵であったユーコス社のホドルコフスキーを釈放、その政治活動を許容した。2015年12月19日にはその主なもの40名ほどをクレムリンに招いたが、そのなかには2014年に醜聞で一時逮捕されたエフトシェンコフも含まれている。メドベージェフ内閣の支持率や中央銀行の支持も低迷しているが、それが大統領にまで及ぶことはない。そして10年間の統治のもとで安定をプーチンが提唱している以上、国民の大多数はそれを支持する。

これら一連の変化が、クリミア併合、輸入代替、そして国防力の強化といった変化をもたらそう。しかし、それらが軍需産業を含めた動員型経済の強化となるかは単純にはいえない。英国の軍事経済専門家ジュリアン・クーパーによれば、2010年に始まる軍事近代化はそれまで現代兵器の比重が15%程度であったものを2015年に30%、20年には70%まで持っていくという野心的なものであった。しかし、ウクライナ危機と欧米政府の制裁でこのテンポは遅れ、達成は2025年にずれ込むという。それでもソ連崩壊以来はじめて兵器の現代化が進捗していると評価する。

他方で、経済自由化を重んじた政策に転換する可能性もありうるが、このことは大統領教書演説での中小企業奨励など一定の改革路線にも示されている。もっとも、まだ人事の行方も含め確定的とはいえまい。このことがプーチン政治の保守化、権威主義化となるか、それともクドリンらが提言した信頼強化をめざすかはまだ不透明である。

何よりこの間、欧米経済の中で進展しはじめている「第四次産業革命」の進展にロシア指導部の関心が高まっている。とりわけ、資源セクターの強かった極東シベリアなどで、人工頭脳やIoT、ロボット化などへの関心が高まっている。とくに極東は人口問題に悩むだけにこの問題への関心が意外に高いことを、2016年4月にサハ共和国のニコラエフ元大統領らと語って実感した。
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