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ヨーロッパの縁のトルコ

『新・100年予測』より ヨーロッパ人の生活 イスラムとドイツに挟まれた地中海ヨーロッパ

トルコの立場

 当然、トルコも無関係ではいられない。トルコ人とアルメニア人は、大虐殺の悲惨な記憶もあって、互いに強い敵意を抱いている。一方でトルコは、ロシアのエネルギーに依存してもいる。少なくとも代わりの供給源か見つかるまでは依存せざるを得ないだろう。おそらく代わりを見つげるのは難しいので、トルコはロシアと明確に敵対することはできない。ただ、ソ連崩壊後に独立した国々は、トルコにとっては、ロシアとの間の緩衝地帯となって好都合だった。緩衝地帯が消滅し、ロシアの影響範囲が拡大すると、冷戦時代と同じ状態に逆戻りしてしまう。それは困る。こうした事情から、トルコとロシアは、特にアゼルバイジャンをめぐって政治的に対立するようになった。

 トルコの立場は複雑だ。いずれは世界的な大国になるだろうが、まだそうなってはいない。現在は循環的な景気後退期に入っていて経済は好調とはいえず、内部には政治的緊張も抱えているが、どちらも長く続く問題ではないと思われる。トルコか世界的な大国となるのは、経済力が強いからだが、周囲の混乱状況もトルコの発展に大きく寄与すると考えられる。混乱によって、トルコには、投資と交易の機会か生じるからだ。もちろん、トルコ自身か紛争に巻き込まれてしまう危険性もある。トルコには黒海か重要で、そのため対岸のウクライナとは黒海をめぐって利害か対立しやすい。イラクやシリア、アラビア半島との間にも利害の対立はある。黒海の緊張が高まり、国の南も東も不安定で軍事衝突すら起きるような状況だとすれば、トルコの周辺でひとまず平穏なのはバルカン半島だけということになる。この何世紀もの歴史からわかるのは、バルカンの平穏は長くは続かないということである。ヨーロッパ大陸を除けば、トルコの周囲は紛争の火種ばかりというわけだ。

 トルコとヨーロッパ大陸との関係は、ヨーロッパと北アフリカという、より大きな関係の中で考える必要がある。これには二つの次元かある。一つは、北アフリカ、特にリビア、アルジェリアから南ヨーロッパヘのエネルギーの供給だ。この流れはヨーロッパにとって極めて重要なものである。供給されるエネルギー自体もそうだが、ロシアの代替となるという意味でも大切になる。だが、リビア、アルジェリア、特にリビアの状況は不安定になっている。リビアで内戦か発生した時には、フランスとイタリアが軍事介入に賛成した。フランスは空爆を開始したが、アメリカに対しては早期警戒管制機(AWACS)による戦闘管理を要請している。フランス単独では作戦行動を維持できないことか明らかになったわげだ。結局、指導的な役割を担ったのはアメリカだった。この軍事介入、特にその余波はアメリカにとって幸せな体験ではなかった。

 ヨーロッパは、エジプトで起きたような出来事に対処する際、アメリカに頼るのか常だった。ところか、アメリカの側は、以前に比べ、対応する態勢か整っていない。エジプトの問題は、これまでの経緯から見て今後も拡大する恐れがある。アメリカは、今のところ北アフリカに対し差し迫った利害を持たない。過激なイスラム運動には対処するか、それ以上のことをする気はない。たとえば、政権の交代を目論むようなことはあり得ない。ヨーロッパは違う。北アフリカからのエネルギー確保は、ヨーロッパにとってはどうしても必要なことである。

大量の移民

 二つ目は、北アフリカとトルコからヨーロッパヘの、移民の大量流入という次元だ。この移民流入は、元はといえば、安い労働力を求めたヨーロッパの側から誘導したものだ。にもかかわらず彼らの存在は、ヨーロッパ内部に強い緊張を生むことになった。この緊張か、EU加盟国間であれば、ほぼビザなしで出入国ができるという現在の体制を脅かすまでになっている。デンマークのように、イスラム教徒の入国を規制したいという意向を示す国も出てきている。またイスラム教徒の移民は制限すべきということで、EU全体の意見は二致しつっある。北アフリカ諸国にとってこれは重大な問題であり、ヨーロッパヘの強い反感も生じている。地中海を越えてのテロ行為や、北アフリカ諸国の政権への脅威にもつながり得る。ヨーロッパはその事態に否応なしに巻き込まれることになる。

 ヨーロッパ内部では、極右政党か勢力を拡大することも懸念される。金融危機や失業率の上昇などにより、既存の政党は信頼を失っているし、ヨーロッパ統合の理念を支持する人も減っている。ハンガリーやフランスなどで極右政党か支持を集めているのは必然とも言える。極右政党に共通するのは、EUへの敵意と、激しい反移民感情だ。自国の国益を優先し、ヨーロッパのエリートだちか掲げるような国境を越えた利益は二の次とする。彼らへの支持は、まだ政権を奪うのに十分なほどには高まっていない。しかし、連立政権の一部を構成するまでになった党もあり、得票を急速に伸ばした党もある。

 ライン渓谷、英仏海峡、その他、古くからあるヨーロッパの紛争の火種は、今のところ総じて静かだ。フランスとドイツの緊張は高まってはいるか、火種に火がつくょうな状態からは遠い。ただ水面下では、紛争の原因になりそうなロマンティックーナショナリズムに火がつきかけている。多国籍な組織に権限を移譲することの正当性に疑問か投げかけられているのだ。それにょって古くから存在する国家間の紛争か再燃する恐れがある。極右政党の存在はそんな水面下の動きのごく一部にすぎないが、それ自体も無視はできない。ともかく経済に関する主権を移譲してしまうことに対する不安が全体に高まっていることは間違いない。
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