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公立図書館の経営

『図書館制度/経営論』より 公共機関・施設の経営方法と図書館経営

経営の理念と運営

 図書館法第2条は、図書館の目的を「図書、記録その他必要な資料を収集し、整理し、保存して一般公衆の利用に供し、その教養、調査研究、レクリエーション等に資すること」と規定している。このことから、公立図書館の基本的な機能は、利用者が求める資料・情報を的確かつ迅速に提供することにあると理解することができる。

 公立図書館は、住民一人ひとりが必要な資料・情報を手軽に入手することで、よりよく、より豊かに生きるために存在するのである。だとすれば、資料・情報をできるだけ豊富に揃え、利用者・住民に提供するのが、公立図書館の使命といえよう。読み物や趣味・娯楽に役立つ資料、教養を身につけるため、あるいは生活に必要な資料・情報を住民の当然の権利として、無料で手に入れることができるのが公立図書館である。そして、そのための環境整備を進めることが、公立図書館経営の基本となる。

 「公立図書館の経営は、図書館計画に基づき職員、経費、施設の適切な措置の上で、継続的・安定的になされる必要があ」り、その運営にあたっては、「不断に計画・評価を組み込んで、地域住民の要求に応える体制を維持しなければならない」とされている。そして、以下のような解説が付加されている。

 「公立図書館は非営利の行政組織であり、その役割は地域住民の求める資料・燧報の十分な提供にある。図書館事業は、長期的な図書館計画に基づき継続的・安定的に運営されることで、住民の要求に応え、信頼を得てその目的を果たすことができる。図書館計画は、公共図書館としての共通的基盤整備と、それぞれの地域特性に応じた個別的計画とにより立案される必要がある。公jZ図書館の経営の基本には。図書館計画に基づいた朧員、経費、施設の計画的かつ適切な措置が求められる。」

NPMの手法導入の妥当性

 公立図書館の経営については、第2節で概観したとおり、NPMの手法を導入することが基本的な潮流になっている。行政コスト削減による効率化、民営化・アウトソーシングの推進、住民を顧客として位置づける、図書館評価の実施、説明責任の明確化、市民との協働の推進などがあげられる。ここでは、行政コスト削減による効率化と住民を顧客として位置づけることの2つに絞ってNPMの手法を検証したい。

 まず、行政コスト削減による効率化をどうとらえるかが、公立図書館経営の分水嶺となる。図書館経営の視点から「効率」を考えた場合、二通りの方法があり得る。「効率」を求める行財政改革が要求するのは、まずコスト削減であろう。ただし、コスト削減だけが「効率」ではない。図書館経営における「効率」とは、むしろ納税者から託された公費の有効な活用にあるのではないだろうか。つまり、いたずらにコスト削減だけを追求するのではなく、限られた予算を図書館の使命達成のために活用することが必要なのである。その結果として、みずから考え、判断し、行動する自立した住民が増えることになれば、公費が有効に活用され、図書館経営が効率的におこなわれていることになる。図書館経営における本来の「効率」とは、図書館サービスの効率的な提供にあるといえるのではないだろうか。図書館法にもとづく公立図書館の整備・充実が、日本国憲法が掲げる国民の諸権利を保障することにつながること、また、公立図書館が教育機関であることを考え合わせれば、コスト削減に汲々としている現状は異様とさえいえよう。

 つぎに、住民を顧客として位置づけることについて、その功罪を考えてみたい。たしかに、図書館にとっての中心的な顧客は住民である。住民のなかには、図書館利用者もいるし、図書館をまったく利用しない者もいる。また、図書館の顧客は、住民だけではない。庁内貸出しや庁内レファレンスの利用者である自治体職員や議員も顧客である。協力貸出・レファレンスや相互利用を想定すれば、ほかの自治体の図書館職員や利用者、大学図書館職員も顧客であり、学校支援を例にとれば、学校の教員や司書教諭、学校司書、児童・生徒も顧客である。

 それはともかく、住民を顧客=お客様として位置づけることは、地方自治の精神からみると、果たして妥当であろうか。納税者である住民は、たしかに顧客という側面もあるが、もう1つの側面では、地方自治の担い手でもある。つまり、行政サービスを享受するだけでなく、地方自治を築き上げる主体でもある。だから、住民を一方的にお客様扱いすることは、地方自治の本旨にそぐわない。地方自治体が、住民本位の行政サービスをおこなうことは当然であるが、それは住民をお客様扱いすることではない。住民自治を文字どおり根づかせようとするなら、住民を自治の担い手として位置づけることが必要となる。「市民との協働」は、住民をお客様扱いすることでは成り立たないはずである。

 だとすれば、公立図書館においても同じことがいえよう。図書館利用者は、図書館サービスの受け手であるばかりでなく、図書館経営・運営の主体的な担い手でもある。図書館サービスを享受するだけの存在から、図書館のあり方について考えていく存在への変革が求められる。図書館経営・運営に住民参加がなければ、住民の意向を反映した図書館の実現は困難になり、図書館の発展は望むべくもないであろう。

マーケティング

 公益社団法人日本マーケティング協会は、マーケティングを「企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動である」と定義している。その定義に「他の組織」か含まれているのは、マーケティングの基本的な概念が、営利を追求する企業のための活動だけでなく、地方自治体やNP0などの非営利組織にも適用できるからである。

 非営利組織のマーケティングを提唱したフィリップ・コトラー(Philp Kotler、1931-)は、「顧客中心志向」という表現を用いて次のように述べている。

  高度化されたマーケティング組織では、マーケティング分析と計画はすべて、顧客から始まり、顧客に終わる。顧客中心志/句の組織は、つねにつぎのことを片荷している。

  ・われわれは、誰のためにマーケット行動を計画しているのか

  ・かれらは、どこにいて、どのようなかたちであるか

  ・かれらの現在の知見ニーズそして欲求はいかなるものか

  ・われわれの戦略が実行される将来の時点で、かれらの知覚ニーズ、欲求はどのように違っているか

  ・顧客は、われわれの提供物にどの程度満足しているか

 コトラーのマーケティング理論の特徴は、顧客の要求を最優先すること、すなわち顧客志向にある。これは、日本の公立図書館が掲げてきた利用者の要求を最優先に考えることと一致する。しかし、近年のマーケティング理論は、「関係づくりマーケティング」という概念を生み出した。

 「(前略)非営利組織は、本来、対象者(受益者、顧客、夕-ゲットetc)と共に、社会的(あるいは公共的)価値を創造し、増進し、あるいば再配分するために構想されるものであろう。それは、供給サイドと需要サイド、与え手と受け手、主体と対象とが、双方向的な関係づくりを通じて、影響し合い、そのプr7セスで新しい問題が発見され、新しいニーズや需要が発生し、たえず関係がっくり直される継続的活動であろう。だからこそ、より有効な非営利組織活動のために、いままさに関係ダイナミクスの発想にもとづいた、新しい『知と方法jが求められているときなのである。」

 この「関係づくりマーケティング」の概念は、前々巨雄が図書選択について述べている理論と近似しているように思える。すなわち、「利用者の要求は図書館の蔵書によって変化する」「これにはまた、図書館の蔵書は利用者の要求によってその内容を変えるという方向が表裏の関係で存在する」「この方法は、図書館の運営における市民の要求と図書館がたてる運営方針との関係、さらに自治体運営における市民の要求と自治体の施政方針にも通用する」という部分である。
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