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コミュニティカフェに集まる意味

『場所でつながる/場所とつながる』より 人はなぜ場所に集まるのか--都市空間とコミュニティカフェ-- コミュニティか、集まりの場か コミュニティカフェは「コミュニティ」を再生しているのか

「協働的コワーキングスペース」と「別世界との接触空間」という場所の意味づけの詳細を明らかにするために、分析を進めてみたい。具体的には、どういった要因が作用すると、「協働的コワーキングスペース」や「別世界との接触空間」といった意味づけが高まるのか、あるいは、どういった人たちにそうした傾向が見られるのか、検討してみたい。

「協働的コワーキングスペース」

 分析の結果、地域イベントに参加した経験が多い人、あるいはボランティアやNPO活動に参加した経験が多い人ほど、コミュニティカフェを「協働的コワーキングスペース」のように意味づける傾向が見られた。つまり、地域内外でさまざまな活動を活発にしている人ほど、コミュニティカフェという場を、活動上の刺激を与え合ったり、コラボレーションが生まれたりする場所として捉える傾向が強いのである。

 近年、とりわけ都市部の「まちづくり」系のコミュニティカフェに見られる傾向であるが、専業主婦を対象とした趣味起業、ビジネス関係の講座やイベントが開催されるケースが増加している。また、コミュニティカフェが、コミュニティ・ビジネスや地域のNPO活動に関心がある人びとの交流拠点や情報交換拠点になるケースも少なくない。

 たとえば、横浜市港北区大倉山のコミュニティカフエ「街カフエ大倉山ミエル」は、まちづくり、趣味起業、地域活動やコミュニティ・ビジネスに関心のある人たちの人的、情報的なネットワーク拠点として機能している。もともとミエルでは、子育て中の母親を主な対象としたワークショップ「大倉山つながりJAM」を起点として、地域の七夕祭り、ハロウィン、収穫祭など、さまざまなまちづくりイベントが企画・開催されてきた。また、自宅サロンやSOHOなど、地域でスモールビジネスや起業を目指す人のためのワークショップ「つながるサロン」も定期的に開催されている。サロンではフラワーアレンジメント、アロマ、ギャラリー、カメラ撮影など、さまざまな分野の専門家を毎回ゲスト招き、トークイベントを行っている。

 実際、利用者のなかにはミエルのイベント参加や人的ネットワークがきっかけとなって、花文字画教室や飾り巻き寿司教室、ハーブ・アロマテラピーの講師など、趣味起業につながっている人も少なくない。こうした利用者にとって、ミエルは自らの夢を実現するきっかけや刺激を与えてくれる場でもあり、自分の活動やビジネスを展開していくうえでの人的・情報的なリソースの地域拠点ともなっている。

 このように、都市部のコミュニティカフエでは、多様な関心や趣味をもつ人びと、さまざまな職業の人びとが出会い、ビジネスや地域活動の刺激を与え合うという、コワーキングスペース的な意味合いが生まれている。こうした意味づけにおいては、コミュニティカフエという場は、従来のような共同体的な相互扶助を確認しあう場のイメージとは切り離されている。むしろ、大都市部において異なる職種、業種の人びとによる創発的な関係形成の場となっているコワーキングスペースの、「地域活動版」のような位置づけを与えられつつあるといえよう。

「別世界との接触空間」

 別世界との接触空間」という意味づけに関しては、先行研究でもこれまでほとんど報告されてこなかった。このような意味づけを行っているのは、主にイベント参加者たちである。さらに重要なことは、カフェから遠方に住んでいる人ほどその傾向が高まるという点である。つまり、遠方から長時間移動して来客するイベント参加者に、こうした意味づけを行う傾向がある。逆に、飲食利用者には、こうした「別世界との接触空間」という意味づけはしないという強い傾向が見られる。これらのデータから、目的意識をもって遠方からイベント参加している人ほど、カフェ空間を「別世界との接触空間」として捉える傾向にあると考えられる。

 「別世界との接触空間」という意味づけは、具体的には「ふだん出会えないような多様な人びとに出会える場」、「多様な考え方や価値観に出会うことができる場」、「アイディア、機会、人脈をシェアすることができる場」、「自己実現のために必要な情報や人脈、スキルを得ることができる場」などの受けとめ方からなる。こうした特徴から、現状から別の仕事や経験へ飛躍する際の“ステップ”や“手掛かり”をもたらしてくれる「媒介的な空間」として意義づけられていることが分かる。

 たとえば、横浜市都筑区にシェアリーカフェというコミュニティカフェがある。このカフェではイベントが頻繁に開催されており、イベント目的で利用する人が多い。開催されているイベントには、スムージー講座、アロマ講座、ドライフラワー講座、ビーズジュエリー教室など、趣味系の講座や教室が多い。また駐車場を備えているため、遠方から来店する人も多く、都筑区の外部から来る人が45%、都筑区内ではあるが、カフェ周辺以外から来る人が34%もいる。つまり、特定の講座を目的に、遠方からわざわざ長時間移動して、コミュニティカフェという場に参加する利用客が少なくないということである。

 筆者が行った利用者インタビューによると、多くの利用者がこうしたイベント参加を通じて、日常とは異なる世界を体験している様子がうかがえた。たとえば、ふだんは中学校教師をしているある利用者(女性・40代)は、「コミュニティカフェでさまざまな講座に参加することは、普段の自分の仕事とは全く異なる世界が体験できて、とても刺激がある」と述べている。また、別の複数の利用者(ともに女性・30代)は、以前は専業主婦や会社勤務だったが、コミュニティカフェで開催される講座やワークショップに参加することで、自分の周りにはいないタイプの人たちや世界に触れることができ、それがきっかけとなって、後に趣味起業やスモールビジネスの展開につながる土台ができたと語っている。

 こうした日常とは異なる別世界を体験できるのは、わざわざイベントに参加しなくても可能である。すでに第2節で述べたように、4割を超えるコミュニティカフェ利用者がカフェ内部に置かれた地域イベントなどに関する各種のチラシを頻繁に閲覧している。それは、文化芸術イベントから、スキルアップ講座、料理教室やものづくり系の教室のものまで多彩である。実際、筆者はさまざまなコミュニティカフェでこうしたチラシコーナーに佇む利用者を何度も観察してきた。

 こうしたチラシコーナーは、それ自体、“チラシ”というメディアを介して「別世界」を垣間見せてくれる場となっている。それは、たとえば自宅と買物先や勤め先の往復ルートではなかなか触れることのできないような世界を、マスメディアとは異なり“リアル”な手触りで感知させてくれるのである。

媒介的な空間として

 本章では、近年、コミュニティカフェをはじめ、ショッピングモール、公共広場など、さまざまなパブリックな場所、セミパブリックな場所に人びとが集まるようになっている現象を、主にコミュニティカフェの分析を手掛かりに探ってきた。一般的には、場所に集まって交流することは、コミュニティ形成の手段と見なされがちである。しかし本章では、必ずしも人びとは誰かと知り合ったり、相互扶助的な関係を作るために、場所に集まるわけではないことを確認した。

 そのうえで、これまでの研究ではあまり指摘されてこなかった側面が明らかになった。それは、「別世界との接触空間」と「協働的コワーキングスペース」とでも呼べるような場所観が見られることであった。一方で、少なからぬ人びとは、いまの境遇から別の新たな経験や仕事へと飛躍する志向があるとき、その「媒介的な空間」として場所を意義づける傾向かある。それは、自分の日常的な環境では出会うことのないような世界に接触できる空間ということである。

 他方で、コミュニティカフェを、異なる職種や業種、あるいは新しいアイディアや情報に出会って刺激を受けたり、コラボレーションに発展したりする場として受けとめる傾向も見られた。こうした場所観とは、次の第7章で扱うコワーキングスペースの性格ともかなり重なるものである。第7章では、創造性やイノベーションを生み出す、場所を触媒とした身体的共在に焦点を当て、議論をさらに深めていきたい。
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