八幡鉄町教会

聖書のお話(説教)

キリストにある希望(説教:松谷曄介)

2011年09月17日 | 2007年度~2012年度
 「いかに美しいことか、山々を行き巡り、良い知らせを伝える者の足は。彼は平和を告げ、恵みの良い知らせを伝え、救いを告げ、あなたの神は王となられた、とシオンに向かって呼ばわる。…歓声をあげ、共に喜び歌え、エルサレムの廃墟よ。」(イザヤ書52章9節)
「なぜ、生きておられる方を死者の中に捜すのか。あの方は、ここにおられない。復活なさったのだ。」(ルカ福音書24章5節)


 3月11日に東北・関東で未曾有の大地震・津波がおき、多くの人命が失われ、町や村が瓦礫の山となりました。思わず「神よ、どこにおられるのですか。」と叫びたくなるほどの出来事です。
 様々な行事が自粛されています。そのような中でこのような時だからこそ、教会は希望の光を輝かせるために、そして「良き知らせ」を伝えるために、このイースターを祝います。

「良き知らせ?」この未曾有の災害は、全くもって良き知らせではありません。むしろ「悪い知らせ」でしかありません。廃墟のようになってしまった町や村を見るときに、どこに「良き知らせ」を見出せるというのでしょうか。

 神の民と言われたイスラエルの人々は、何度も民族の破滅と思われる出来事を経験してきました。聖書の中では「バビロン捕囚」と言われるものがあります。大帝国バビロンに、自分たちの愛する都エルサレムを破壊しつくされ、神殿も家も、またあるものは家族や友人を失いました。そして、大勢の人々が遠く離れたバビロンに連行されてしまうのです。数十年の後に、故郷のエルサレムに戻ることできましたが、破壊された城壁や焼け落ちた城門を見て、思わず泣き崩れた人もいたほどでした。

 預言者イザヤの書では「奮い立て、奮い立て」と人々を励まし、立ち上がらせようとする御言葉が記されています。廃墟の街エルサレムにあって、一番大きな問題となっているのは、生還して戻ってきた人たち、これからそこでなお生きていかなければならない人々のことでした。それは一言でいうならば、なお「希望」を持ち続けて生きられるかどうかということでした。

 人間は、希望を抱くことで生きていくことができる存在です。希望を失うとき、人間は生きていく力をも失ってしまいます。希望は、それを持ち続けることで、人に力を与えるのです。
 廃墟となったエルサレムに帰った人々に希望を与えたもの、それは「良き知らせ」です。それは「あなたの神は王となられた」という知らせです。もはや神はおられないと思ってしまえば、そこには希望はありません。しかし、今なお神は生きておられる、共におられる、と信じれるならば、それは生きる希望へとつながっていきます。

 神の御子、主イエス・キリストは、十字架の上で、私たちの罪の身代わりとなって、命を捧げられました。キリストの死は、主の弟子たちにとって、大きな絶望でした。もはや神はおられない、自分たちにはもう希望はないと思い、恐れと不安の中で三日間を過ごします。
 聖書は告げます。しかし、その主イエスは、死の闇の中から三日目に復活なさったと。すぐには信じがたい知らせでした。しかし、それは真の喜びの知らせだったのです。離散していた弟子たち、生きる希望や自信をなくしていた人々は、新たな力を得て歩み始めます。その後、主は天に昇られ、目には見えなくなりました。しかし、教会の歩みはそこから始まるのです。キリストが天に昇られたこと、それはキリストが王座に座られるためであり、キリストが今も生きておられ、教会を治め、導いてくださる、これが初代教会の生きる希望だったのです。キリストが真の王として、私たちと共におられる、このことの目に見えるしるしが、教会であり、教会で行われる説教・洗礼・聖餐・讃美・祈りといった「礼拝」です。困難や悲しみの多い人間の歴史の歩みの中で、教会の礼拝こそが、希望の光を輝かすところであり続けたのです。

 被災地にも教会があります。建物に被害が多くあった教会もありますが、しかし、それらの地域にあって、主は生きておられるという「希望の福音(良き知らせ)」を輝かし続けるために、教会は建ち続け、歩み続けることでしょう。
 私たちにできること、しなければならないことは多くあります。しかし、「教会」としてできる最善のこと、最大のことは、なおこの地にあって、この希望の光をともし続けることです。そのことは、被災地にある教会を祈り支えることにもなります。
人となられた主イエスは、私たち人間の苦しみも痛みをすべてご存知です。その主が、死の闇に打ち勝ち、私たちに新しい希望の光を注いで下さいます。この希望の光を世に輝かし続けるために、教会は今こそ朱の復活を心から覚えたいと願います。
(2011年3月13礼拝説教)


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