意志による楽観主義のための読書日記

面白きこともなき世を面白くするのは楽観力、意志に力を与えるのが良い本 *****必読****推奨**閑なれば*ムダ 

KAMIKAKUSHI 神隠し 長野慶太 ****

2017年06月15日 | 本の読後感

よくできたミステリーだと思う。日本の大学を出てアメリカでMBA取得して、アメリカ在住でコンサルタント、そういう作者だから書けるアメリカの問題点。タイトルからして日本舞台の小説だと思ったら、主人公はアメリカ人ジャーナリストのグレッグ、舞台はLA空港。空港で子供が行方不明になったとの知らせを受けたグレッグはLA空港に急行し、現場にいた東洋系女性のミッシェルにコンタクト、8歳の子供のケントがいなくなったが、チェックイン後で搭乗前、セキュリティチェックの間に見えなくなったという。

この後、ミッシェルの夫は二年前に亡くなっていて、その義父が登場、時々連絡を取り合う程度の間柄だが、仕送りをもらっているということを聞き取る。グレッグはこの事件を記事にするとして、ミッシェルと義父に取材を続ける。ミッシェルはグレッグに信頼を寄せ、銀行の口座確認のための委任状、クレジットカードの履歴照会委任状を提供する。履歴を確認すると、つつましい生活を送っていること、義父とは定期的に連絡を取り合う間柄であることがわかる。

チェックインをしているのに、飛行機には搭乗していない、つまり理論的にはケントはまだ空港内にいるはず、というある意味の密室状況。どうしてこの状況を突破できるのか。キーワードはミッシェルが元日本人で今はアメリカ市民権を持っていること、ケントは日本とアメリカの二重国籍を持っていること、離婚した日本人の元夫がいること。日本で取得したVISAカードはアメリカのVISAからは照会されないこと、ケントは日本人としての別名健人という日本名を持っていて、日本パスポートを取得できること、LA空港では8歳の子供なら大人の同乗者がいればチケットさえあれば搭乗できること、巨大空港では国内線と国際線の乗り換えもできること、などなどが組み合わさりパズルは解ける。ミッシェルと義父が仕組んだ狂言なのだが、結論はほろ苦い親子愛の物語である。

カリフォルニア州は財政赤字解消のための州を挙げての経費削減に取り組み、警察経費削減のため空港警備が手薄になっていると感じたグレッグは、そういう背景がないかを取材している。以前グレッグは、警察官による容疑者射殺が異常に多いことに疑問を呈した記事を書きジャーナリストとして表彰された経歴がある。司法取引が多発する問題、離婚訴訟問題、訴訟に伴う出費の多さの問題、賠償額の高騰問題などなど、作者の米国におけるコンサル活動で感じている問題意識をアメリカ社会の問題として提示している。日本人に向けては、アメリカの数多くの社会問題のいくつかを紹介できるのが本書のバリューだろう。もし、日本好きのアメリカ人が本書をよめば、「そうか、日本は違うんだ」と膝を打つこと間違いなしだがそうしたケースはまれに違いない。英語化してもアメリカ人にはまどろっこしくて受けないだろう。つまり、日本人向けの、アメリカに関心がある米在住経験者向けミステリー、と考えれば読者ターゲットは明確にできる。それ以外の日本人読者は、知日派の米国人ミステリー作家が日本名を名乗って書いた日本物ミステリー翻訳小説、と考えて読むとずっと心地よく読めるはず。

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