意思による楽観のための読書日記

日本史の一級資料 山本博文 ***

歴史はその再現フィルムなどはなく、インタビューして歴史上の人物に裏を取ることもできないため、現在書かれている歴史は、文書、遺跡、遺物など「史料」とよばれる歴史に残された証拠から憶測して成り立っているもの。つまり、歴史は新たな史料が発見されその発見史料に高い信ぴょう性があり今までの史料を上書きすることもあるということ。「一級史料」とはそうした歴史上重要で歴史を上書きできるほどに信ぴょう性の高い、もしくは偽文書であっても既存の歴史史料の間違いが裏打ちできるものなどを指す。「歴史認識」はこうした現存する歴史史料を自分としてどのように認識して理解評価するかという見解表明である。

「史料」は幅広い用語で、遺物や遺跡も含むが歴史学者よりも考古学者が扱う対象、「文書」はモンジョ、「古文書」は古い文書、「日記」は記録で史書、実録、覚書なども記録の一部。「伝承」でも史料といえる場合があるが、史料とはならない場合のほうが多い。「絵画」「建築」なども史料になる場合がある。史料は歴史上研究の材料になるものであり、資料は一般的な研究材料。

宮本武蔵に関する史料(対象に関して直接記述された文書など)は、小倉郊外にのこる石碑と五輪書だけといわれる。石碑には「小次郎が真剣勝負がしたいといった、武蔵は自分は木のほこでお相手すると答えた。小次郎の真剣は三尺あまり、武蔵は木刀の一撃で小次郎を仕留めた」と書かれこれを書いたのは武蔵の養子である伊織、顕彰碑に書かれた内容なので美化されている可能性はあるものの大きな嘘はないはず、というのが歴史的評価らしい。吉川栄治は長編宮本武蔵全8巻を書いたが、何をもとにそんな長編を書いたのか。

武蔵の没後約百年の1855年に肥後の豊田景英が書いた武蔵の伝記「二天記」、景英の先祖は武蔵の庇護者であり、小次郎のさや当ての逸話はこれによるもの。つまり景英が実際に見たり聞いたりしたものとは考えられないため、小説のようなものであり二次史料とも言えないとの評価。熊本藩の記録で武蔵が登場する「沼田家記」という書きものがある。これによれば双方とも弟子を連れてこないで仕合をしようと約束したのに武蔵は弟子を連れてきていて隠れていた。武蔵が小次郎に一撃を与えたのちに武蔵の弟子たちは蘇生した小次郎にとどめを刺した、とある。

五輪書は武蔵が書いたのかどうかの疑念があるとされ、武蔵の死後に書かれた「葉隠」を下敷きにした記述がみられ武蔵の自筆だというには無理があるとのこと。しかし史料にはこのようなケースは多く、五輪書も武蔵の弟子が書いた可能性が高いとも言われ、立派な史料としての価値があるという。そもそも武蔵が死んだ後にも五輪書や二天家記が書かれたこと自体が、武蔵の二天一流の流派の広まりや流派創始者の精神を広めていこうという弟子の思いが感じられる社会の様子が感じられるということ。史料としての扱いは、弟子によるものは美化されている、一部はねつ造されたものと理解しながら活用することだというのが筆者の考え。

歴史学者である筆者は歴史史料を探訪して地方を旅する。旧家にはまだまだ埋もれた史料が残っているケースもあるという。江戸時代の各藩には3種類の史料がある。一つは藩政史料で家老、江戸藩邸、町奉行、勘定所などの日記や裁判記録、会計帳簿などがある。二つ目は大名家の史料で、系図、将軍からの手紙、他大名からの書状など。三つめは藩史で後に編纂されたものとその材料となった文書など。明治21年に明治政府は江戸時代の旧大名島津、毛利、山内、水戸、伊達、池田、黒田、鍋島、細川に旧藩の歴史史書編纂を命じたため、その史料を集めた際の写本や家史の原稿などが残ったのだという。

その中でも一級史料といえるのが島津家史料、西南の役の際には重臣の東郷重持により大切な文書として避難させたという。島津家文書は秀吉や家康からの手紙や江戸時代の史料が多く含まれているために、この文書からだけでも江戸時代の歴史が書けるほどだという。筆者の修士論文はこの島津家文書、この本、歴史好きには参考になる著作である。

1467年の応仁の乱では京都の建物のほとんどが焼失、史料も多くは消失してしまったため、内藤湖南は応仁の乱以前の歴史はその後の歴史とは区別すべき、と述べたという。また古事記と日本書紀についても、編纂当時の政権者であった者たちによる歴史の書き換えがなされたという説があり、蘇我氏や聖徳太子の事跡の見直しも必要だとする説も多い。同様のことは現代であっても起こっていると考えたほうがいいだろう。事実や証拠と自分の理解、評価は分けて述べたうえで、検討や議論は進める必要があるということである。


読書日記 ブログランキングへ

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「読書」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事