意思による楽観のための読書日記

2020年マンション大崩壊 牧野智弘 ***

越後湯沢に林立するマンションが今は10万円で売りに出されていて、お気楽な定年男子が買っている、というテレビ番組があった。そこでの問題提起は、住民が少なくなって管理費や修繕積立金が足りないマンションで、はたしてすでに老朽化が進んだ建物・設備の修繕メンテナンスはできるのか、ということ。

基本知識として、コンクリートの平均的な寿命は約68年ということ。コンクリートの施工技術や品質によって上下し、施工後のメンテナンスによって寿命が短くなることもある。施工が完璧だとしても、施工後の劣化原因は外部からの塩分や水分侵入による鉄筋腐食、寒い地方では凍害、公害や温泉地などでの化学的腐食、地震後のひび割れなどがあり、定期的な修繕メンテナンスが重要になる。しっかりとした管理組合では13-15年に一度の大規模修繕が計画され実施される。そのためには修繕積立金が十分にあることが前提。マンション規模にもよるが、平米あたり月額170円程度の修繕積立金が必要、つまり、70平米の部屋なら月額12000円程度積み立てられているかどうかがポイントになる。

床面積あたりの外壁面積が大きい低層マンションや足場が組めないタワーマンションは外壁修繕も割高になる。足場が組めるのは高さ20-30m程度までと考えると、平米170円は7階から10階建てまでの目安だと考えたほうが良い。20階以上は平米月額206円、というのが国土交通省ガイドラインである。その他に高速エレベータ、給水ポンプ、非常用発電機、排水配管などの維持費は高層ではより高額になる。新規マンションでは、分譲会社が売値と初期費用を安く見せるために最初の10年の修繕積立金を安く抑え、10年毎に値上げするという計画を管理規約に組み込んでいる場合もあるので注意が必要。高層マンションは眺望が売りなので、高層階のほうが分譲価格が高い。修繕積立金も同じ面積でも高層階のほうが割高に設定する、ということも必要となるはずである。ところが外国人が投資のために高層階を買い占めているというケースも有り、中低層階に住む住民との間に所得や修繕に対する考え方に大きな相違がでてきて、管理組合の運営に支障をきたしているというケースも多い。

築後50年目の大規模修繕の頃になると、建て替えの議論が始まる。しかしその頃には住民の高齢化が進み、もうお金をかけてまで建て替えなどしたくないし、実際できない、という住民が増える。入居当初は一定水準の収入があるサラリーマン家庭がほとんどだったはずの住民の中にも年数が経つと入れ替わりが進み、様々な人達が住んでいることも多くなる。新規マンション建設費用の概算は70平米あたりで2200万円、加えて既存建物の解体費、引越し費用、移転期間中の家賃が加わる。同じ規模のマンションにしか建て替えられないのであればこれらは住民負担となる。問題は建ぺい率と容積率に余裕があるかどうか。容積率400%の地域のマンションで既存建物の容積率が200%であれば、建て替えで倍の床面積にすることができるので、余剰床分を新たな分譲マンションとして売り出せれば理論上の建設費用住民負担はゼロになる。実際には分譲デベロッパーは利益確保を目指して容積率目いっぱいのマンションを建てるケースも多く、建て替え時に容積率の余裕がないケースも多い。それどころか、建設後の条例改定で容積率が引き下げられた地区もあり、その場合には「既存不適格建物」として、同じ容積のマンションは建てられない。区分所有者(マンション所有者)の5分の4が必要な建て替え決議では、こうした現状が障壁となる。

定期借地権付マンションでは、50年の定期借地権の場合であれば、築後50年に近づくほど住民の修繕に対する関心が低下するのは必定。1992年に制定された定期借地権、2042年に期限を迎えるので、2022年以降に問題が徐々に表面化してくる。定期借地権であることを納得して購入した住民が代替わりしてその子が相続してはじめてこの問題を知ることになり、一気に問題になることもある。こうした事実から、将来定期借地権物件の価格暴落もありうる。

解決方法として筆者が提案するのが、BnBへの転用、介護施設やサービス付き高齢者住宅への転用、自治体によるマンション買取制度、区分所有権の一部制限、などである。いずれも法的根拠が必要でありハードルは低くはない。全国600万戸と言われるマンション、今後の住替えや建て替え、賃貸への転換など考えることは多い。ここまでが本書の内容。

今、日本全国で起きている空き家問題の一つがマンション建替え問題である。高齢化した親が老人施設に入居した途端、実家の相続問題が子供の面前に突きつけられ、初めてこうした問題を真剣に考え始めるが、空き家が一戸建てなら自分たちの問題であるが、上記のようなマンションでは、自分ひとりの決断だけでは解決できない。5分の4の議決権は、実際に管理組合総会を運営してみるとその困難さが実感できる。長年住んでいる管理組合でも、総会に出席してくれるのは1割程度で、殆どが委任状、ぎりぎり半数以上の議決権数を確保して運営しているのが実情である。駐車場の作り直しなど特別決議の4分の3以上の出席数が必要な場合には必死の出席依頼と委任状提出依頼が必要となる。私自身も三回目の大規模修繕を目の前にして、賃貸への転出もしくは住替えを真剣に考え始める必要に迫られている。

 


↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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