てつりう美術随想録

美術に寄せる思いを随想で綴ります。「てつりう」は「テツ流」、ぼく自身の感受性に忠実に。

モダンなパリと心斎橋(1)

2005年09月13日 | 美術随想
 ややローカルな話になってしまうが、大阪の繁華街というのはどうも苦手だ。特にミナミは、ぼくの肌に最も合わない街であると思う。どちらかといえば無口で、大勢よりも独りでいることを好み、年齢のわりには保守的な傾向の持ち主であるぼくにとって(といいながら、これをブログなどという最新流行のツールを使って書いていたりするのだが)、けばけばしいネオンと騒音と、理解に苦しむような若者ファッションとがひしめくミナミの町は、とうてい長居できる場所ではない。

 キタもある意味で似たような街だが、ミナミの方がより“どぎつい”印象がある。なかでも心斎橋は、休日ともなると狭いアーケード街に人があふれかえり、地面が見えなくなるほどだ。しかしこの地には、ブロック塀のわずかな隙間から草が生えているような感じで、ぎゅうぎゅう詰めの商業施設のあいだを縫っていくつかの美術館や画廊が点在している。だからぼくもときどきは“仕方なく”心斎橋を訪れざるを得ない。

 2003年9月のことだったが、その日も何かの展覧会を観るために心斎橋に来ていた。腹もすいたし何か食べて帰ろうと外へ出ると、普段から人通りの多い心斎橋筋が、いつも以上にごった返している。しかもその人ごみが、申し合わせたように南の方角へ動いていく。何ごとかと思う間もなく、ぼくも人波に逆らえずそっちへ流されていったが、周りの人々の顔つきが普通の買い物客の表情とはちょっとちがうような気がする。思いつめたような、何だか必死なものが、彼らの全身からオーラのように立ちのぼっているのである。これはいったいどうしたというのだろう?

 ぼくは突然あることに気がつき、あわてて人ごみを離れた。彼らが大挙して向かっているのは、道頓堀ダイブで名高い戎橋の方角だったのだ。ぼくは空腹であることも忘れて、急いで京都へ引き返した。幸いなことに、阪神タイガースが18年ぶりの優勝を決めたのは翌日のことであったが、もしその日に優勝していたら、ぼくはどうなっていたかわからない。


 しかし最近になって、美術館のほかにもぼくを強く惹きつけるものが心斎橋にあることを知った。それはずっと昔からそこにあって、ぼくも何度となく目にしていたはずのものなのだが、恥ずかしながらこれまでまったく気づいていなかったのである。

 以前から、建築という分野には関心があった。といっても、何々様式とか、何々工法とか、専門的なことは何もわからない。あたかも美術の1ジャンルのような感じで、建物の外観を眺め、内部の空間を体感してみるということを、おりにふれてやってきただけである。“観て、触れて、歩ける作品”のようなつもりで、ぼくは建築と接してきたといえるかもしれない。

 いつだったか、京都の洋風建築の本を見ていて、ウィリアム・メレル・ヴォーリズというアメリカ人建築家の名前を知った。建築家といっても、この人はなかなか一筋縄ではいかない人のようだ。もともとは宣教師として明治の後期に来日し、滋賀県で英語の教師をやったりするが、そのうち建築事務所を開いて、昭和初期にかけて全国におびただしい数の建築作品を残した(現存するものも少なくなく、解体問題で揺れる滋賀の豊郷小学校も彼の設計だ)。

 それだけでなく、病院を開設したり、会社を設立したりもしていて、「メンソレータム」や「ハモンドオルガン」を日本に輸入したのがこのヴォーリズであるというから驚かずにいられない。晩年は近江八幡市の名誉市民となり、日本で没したこの型破りな建築家の仕事に、にわかに興味をかきたてられたのである。

 そのヴォーリズが手がけた代表的な建築のひとつが、心斎橋にある大丸百貨店だというのだ。しかもぼくがしばしば出かける美術館というのが、その中にある大丸ミュージアムだったのである。これまで何回も訪れていながら、ぼくには何も見えていなかった。いやはや、ぼくの目は節穴だったとしかいいようがない。

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11 コメント

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Unknown (こいちゃ)
2005-09-20 18:27:55
TBありがとうございます。

ヴォーリズの意匠はいかがでしたか?

わたしも先日心斎橋大丸に行きましたが、

化粧直ししたのかしら?

前より美しくなったような気がしました。



近江八幡にも色々彼の建築がありますので、

もしまだ行ってらっしゃらないようでしたら

行ってみてください。

記念館はしばらく修復中で入れないようですが・・・
Unknown (りうこ@大阪)
2005-09-20 21:46:57
 トラックバックありがとうございます。私共の様な

僻地までお越し頂き(笑)、嬉しい限りです。

 京都の方ですか・・・確かに京都の方からしたら、

「大阪はガサガサしてて疲れてアカン!」かも知れな

いですねぇ。



 ただ、ご指摘の通り大阪には古くからの建物(とい

っても、あらかた大阪大空襲で焼けてしまったのです

が)が結構残っています。また昔船場と言われた地域

(駅名で言うと淀屋橋・北浜・本町など)は京都同様

碁盤目に道が通じており、大正レトロ建築等が結構見

られて楽しいです。休日なら、車も人も殆ど居らず、

のんびり見てまわれます(但し外観だけの所もありま

す)。人込がお嫌いなら、歩き疲れない靴をはいてそ

ぞろ歩かれといいですよ。御堂筋の銀杏並木が金色に

輝く頃は、特にいいです。違った大阪を知って頂けた

らと思います。
TBありがとうございました (kazu)
2005-09-20 22:10:00
モダンなパリと心斎橋(1)~(6)

深い洞察、興味深く読ませて頂きました。 



心斎橋、子供の頃なじんだ街、

私にとってはふるさとのような 

懐かしい街です。 

でも、今は人混みは苦手になりました。
皆さんコメントありがとうございます (テツ)
2005-09-21 03:24:33
まとめレスにて失礼します。





>こいちゃさん



ヴォーリズのことを、本編の最後にもうちょっと書きたかったのですが、長くなりすぎるので割愛しました。



梅田阪急にも先日、見納め(?)のために出かけてきたんですよ。以前は通勤で毎日ここを通っていたこともあったのですが、じっくり見たことはありませんでした。



近江八幡には是非行ってみたいですが、京都にまだまだ素敵なヴォーリズ建築があるそうですから(京都大丸にも遺構が一部残っているとか)、いずれ改めて稿を起こそうかなと思っています。





>りうこ@大阪さん



はじめまして。



確かに住まいは京都ですが、勤務先は「ガサガサした」大阪、しかも本町です(笑)。



安藤忠雄をきっかけに建築に興味を持ちはじめたぼくにとって、戦前の古い建築に開眼してからはまだ日が浅いです。最近になってようやく、地図片手にあちこち歩き回ったりしています。会社の近くにも、意外といい味の建物が残っていて驚かされました。



御堂筋の銀杏並木も、終電のなくなった後にタクシー代ケチって梅田まで歩いたときに「こんなに美しいものか」と目から鱗が落ちる思いでした。



「りう」つながりで、これからもよろしく(笑)。





>kazuさん



はじめまして。



長ったらしい文章を最後まで読んでいただけたのですね。ありがとうございます。



生まれが田舎なものですから、人ごみはどうも・・・。これでも以前は大阪のベッドタウンに住んでいたこともあるのですが、京都へ逃げ出してしまいました。



またお暇なときにでも、拙ブログにお立ち寄りいただけたらうれしいです。どうぞよろしく。
Unknown (こいちゃ)
2005-09-21 08:52:52
こんにちは



京都大丸にヴォーリズって初耳です♪

いいことうかがいました!
こんばんは (テツ)
2005-09-22 00:29:20
京都大丸の高倉通に面した部分だけが、往時の姿をとどめているそうですよ。

神戸の大丸では、別館「旧居留地38番館」がヴォーリズのものです。「ヴォーリズの大丸三都物語」ができますね(笑)。



それと、ご存知かもしれませんが、やはりヴォーリズが設計した大丸社長の旧邸宅「大丸ヴィラ」が、丸太町駅の近くにあります(内部は非公開)。



それにしてもヴォーリズ、すごい人気ですね・・・。
はじめまして (YOSHIYU機)
2005-09-22 09:52:17
TB感謝します。こちらもTBしました。



建築の事は、よく分かりませんが

今の建物は何か味気なく、モダンな建物には

心を惹きつけるものを感じます。



2年前は危機一髪でしたね(笑)

今年も気をつけて下さい。
Unknown (こいちゃ)
2005-09-22 20:34:42
情報ありがとうございます。



彼の人生やエピソードを聞いたりしていると、彼のお人柄があらわれる設計がひとを惹きつける要因のひとつかもしれないと思います。



あらためてヴォーリズで検索すると

彼の建築を美しく撮っているブログがぞろぞろ・・・幸せを感じてます♪

こんばんは (テツ)
2005-09-23 01:12:21
>YOSHIYU機さん



はじめまして。こちらこそありがとうございます。

ようこそおいでくださいました。



ぼくも建築のことは、知識としてはよく分かりません(多少勉強はしていますが)。今は感覚的に楽しんでいます。それでいいのではないかと思います。



古い建物に触れることで、いつもとはちがう空気にふと気づくことができれば、こんなうれしいことはありません。



よろしかったら、また遊びにいらしてください。





>こいちゃさん



ぼくは「随想録」という性質上、画像に頼らず文章でどこまで伝えられるかに苦心していますが、実際に写真を見ると、とてもかなわないなと思いますね(当たり前ですが・・・)。



でも写真ですらかなわないのは、やはり実物です。彼の建築がたくさん残っているうちに、訪ねてみたいものですね。
大丸ヴィラ (遊行七恵)
2005-12-25 23:41:57
てつ様の随想を味わい始めている私としましては、こちらのコメントシリーズに大丸ヴィラの写真をお届けしなければ、と思いました。遅ればせながら、しかも技術が伴わないものですが、中庭から撮影したものです。他にもありますが、デジカメでなくフィルム使用者のわたしは画像レタッチが巧く使いこなせぬので、この一枚しかありませんが、なんとかしのんでください。(あせっ)



てつ様のブログをブックマークさせてもらいましたと報告しようとしてびっくりしました。

ありがとうございます。うちのようなところを既になさってくださってたのですね、嬉しいです。失礼しました。
>大丸ヴィラ (テツ)
2005-12-27 08:48:15
大丸ヴィラの写真、ありがとうございます。

ぼくはまだ塀越しに覗いたこともなかったので、うれしいです。





貴ブログをブックマークさせていただきながら、何の報告もしていませんでしたね。申しわけありません。

ときどき訪問させていただこうと思っています。



今後ともよろしくお願いします。

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