てつりう美術随想録

美術に寄せる思いを随想で綴ります。「てつりう」は「テツ流」、ぼく自身の感受性に忠実に。

工芸に生くる人々(1)

2007年10月18日 | 美術随想
 今年も「日本伝統工芸展」の季節である。といっても、毎年必ず観ているわけではない。そもそもぼくは絵画や彫刻に比べて工芸に強い関心があったわけではなく、展覧会を観るのも「日展」の工芸美術部門ぐらいであった。

 何年前のことだったか、今はなき三越大阪店の近くを通りかかったときにちょうど伝統工芸展をやっていて、無料だというのでなにげなく入ってみると、あまりの数の多さにまず圧倒された。それと同時に、鑑賞者の年齢層の高さにひるむ思いがしたのも正直なところだ。

 しかし、新しい発見もあった。伝統工芸は世代を超えて受け継がれてゆくものであり、さまざまな流派の伝統が窮屈なほど厳密に守られているのではないかと思っていたのだ。早い話が、やや閉鎖的な世界ではないかと思い込んでいたのである。

 だが実際に観てみると、工芸ほど多彩な技法にみちあふれた芸術はないという気さえした。伝統をしっかり踏まえながらも、各人が独自に工夫を凝らして新しい表現を編み出し、ひとつの凛とした形に昇華するまで磨き上げた結果、ようやく優れた工芸品として作家の手を離れるのである。高度な技術に裏打ちされた自在な感性のほとばしりに触れるのは、何とも有意義な体験であった。

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 同展は今年で54回目を迎えるという。展覧会は日本全国を巡回するが、その京都展に出かけてきた。入選作は全部で745点(!)あるということだが、京都で展示されているのは4割に満たない280点ほどだ。それでも、ひとつひとつ丹念に鑑賞していると時間もかかるし、体力もいる。

 だが、さっきも書いたように年配の観客で大いににぎわっているのだった。杖を突きながら懸命に観てまわっている方も、二人や三人ではない。もちろん若い人もいるが、通常の美術展に比べればごくわずかである。行きなれた高島屋の会場が、いつもとは一変した独特な熱気に包まれる。

 それに ― これは京都展だけの現象かもしれないが ― 和服を着ている人が非常に多い。その人たちは、もちろん染織部門の着物や帯などを熱心に見つめていた。

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 ぼく個人の好みをいえば、漆芸がとても好きだ。黒く底光りする漆と、きらびやかな金銀の蒔絵や螺鈿のコントラスト・・・。深遠な“無”の虚空に乱舞する、かそけき美のひとひらを見る思いがするのである。

 このたびぼくの眼を惹いたのは、松田典男の『螺鈿飾箱「落流」』(上図)であった。この作品はNHK会長賞を受賞し、先日の「新日曜美術館」でも制作過程が紹介されていたが、ごくごく薄い螺鈿を指先で折って貼り付けるという、緻密ななかにも偶然性を取り入れた作り方がされている。そのせいか、ともすると完璧すぎて冷徹な感じをいだかせることもある漆工芸のなかにあって、水の流れという“動き”の要素が感じられ、まるで雪解け水の雫の音が聞こえてくるような、不思議に心休まる作品になっていた。

 この作者について調べてみると、何と新宿の朝日カルチャーセンターで漆芸と蒔絵の講師をしているそうだ(新宿という立地が、これまた意外である)。それぞれ経験の異なる大勢の生徒さんを相手に、きめ細かな指導をしているということだが、最初の作品を仕上げるまでに一年ぐらいはかかるらしい。何とも息の長い話であるが、そういった仕事をこなしながら、彼自身もこつこつとみずからの作品を磨き上げていったのだろう。

 かくいうこのぼくも、機会があれば漆芸作りをやってみたくないこともない。だが持ち前の不器用さが大きな壁となって立ちはだかることは明らかだし、子供のころに漆の葉に触れて眼のまわりがかぶれた経験をもっている者としては、眺めて鑑賞するだけにしておいたほうがよさそうである。

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カルチャーセンター 新日曜美術館 日本伝統工芸展
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