彦四郎の中国生活

中国滞在記

丑の刻参り(呪いの藁人形)❸―「奥宮」と「中宮」の間の樹林帯で、五寸釘の跡を見る

2017-07-18 06:11:35 | 滞在記

 貴船神社の"丑の刻参り"―藁人形の呪い―  ◆公家の娘であった「橋姫」が貴船神社で呪いをするという話が、「裏平家物語」(屋代本)というものに書かれているようだ。「橋姫伝説」と言われている「丑の刻参り」にまつわる話である。この丑の刻参りは、中国から伝わった「陰陽道(おんみょうどう)」に関係しているらしい。平安時代に国家の重要な部署であった陰陽道は、安倍清明などの存在が有名だが、このような呪いという祈願もあったようだ。

 「本宮」から貴船川沿いに歩いて10分ほどで「中宮(結社)」の入り口に着く。「奥宮へ5分」との表示がある。まずは、「奥宮」に向かった。「中宮」から「奥宮」一帯が神域(結界)となっているようだ。奥宮に近づくと、「思ひ川」という山からの小さな谷川があった。かって、和泉式部がここを訪れて、夫との不和が解消されるように祈ったと記されていた。奥宮への参道の木々が歴史の古さを感じる。奥宮の門に着く。

 奥宮の本殿の横には御神木の「桂の木」がある。本殿近くに、謡曲「貴船と[金輪(かなわ)]伝説」のことが記されていた。「金輪」とは、丑の刻参りの行為の際に、頭に置き3本のロウソクを燃やす円形の金具のことだ。この奥宮は、朱塗りの門が一つあるが、塀にかこまれていないので深夜でも割と楽に境内に入ることができるようだ。神社の人が寝泊まりする建物もない。貴船の一番奥にあるので、夜になれば人もこなくなるので、人に見られることも ほぼないような神域だと思った。こには、丑の刻参りの五寸釘の跡を残した木があるかもしれないと思った。

 門の入り口近くに「連理の木」という御神木があった。この御神木について「連理とは別々の木が重なって一つの木になる意味で、夫婦・男女の仲睦まじきことを言う。杉と楓(かえで)が和合したしたもので ひじょうにめずらしい」と記されていた。この木には、丑の刻参りの跡があるかもしれないと思い調べてみたが、それらしいものを見つけることはできなかった。木がそれほど太くなく、木の裏にいても 万が一人に見られやすいので、ここではないようだ。「連理の木」なので避けられたのかもしれないと思った。他にも何本かの木を見てみたが、それらしい痕跡はなかった。

 境内の絵馬がある。「なおくんと結婚して 幸せで明るい家庭が築けますように」「運命の人と最後の一秒まで 笑っていられますように」「一生、松本〇〇さんと仲良く暮らせますように。他の誰でもなく、〇〇佳世子を生涯愛して下さい。私も一生愛します」などの絵馬が印象的だった。

 さて、丑の刻参りの痕跡が残る木はいったいどこにあるのだろう。この奥宮には見つけることができにいのだが---。「今はもうないのだろうか。道理の木などは、足場が悪く隠れるとこもないので呪術は難しいし--- 」と思いめぐらせていると、「あっ!中宮から奥宮の途中にあった杉の大木--。」

 その大木に着いた。この木なら裏に廻れば人にも気づかれない。この御神木について「相生の杉(御神木)―樹齢千年―相老に通じ、夫婦ともに長生きの意味。同じ根から生えた二本杉」と記されていた。近くの駐車場の管理をしている若い人(30代中頃)に、「あの木は丑の刻参りの跡がある木ですか」と単刀直入に聞いてみた。そうすると、「そうです。跡があります」とのことだった。「あの木の背後にある杉林にも、何本かの木に五寸釘の跡が けっさこうありますよ」とも話してくれた。さっそく木の裏に廻る。人が4人〜5人隠れても、表からは見えないぐらい太くて大きい。

 高さ的にもちょうどいい箇所に、いくつか連なるように空いた穴が 何か所かある。女が夜の貴船神社で呪詛を打ち付けていたと思うと、戦慄が走り鳥肌がたった。呪いは成功したのだろうか。五寸釘を打ち付けた穴には、苔が生えているものもあり、相当な年月が経っているようだった。また、けっこう近年や最近のものかと思われる穴もあった。他にも幾つか不自然な穴があった。五寸釘を抜いたことで木の繊維が盛り上がった状態が妙にリアルだ。リアルなわけもなにも、現実なのだが--。ここで呪術をした人のほとんどはおそらく死亡しているだろう。呪う人の心中も呪われた側の行方も一切、追うことはできない。

 駐車場の人に教えてもらった通り、さらに奥の杉林に入って行った。ここまで来ると、呪詛が人に見つかる心配もない。太い木ではないが、何本かの杉の木で 明らかに 五寸釘の穴が見つかった。まだ、真新しい穴だった。現代でも、この場所で「丑の刻参り」をしている人がいる可能性もあるかと思うと---。人というものの生きることの難しさというか、苦労心労というか、人間の心というか そんなものに思い至る。

 午後5時すぎに貴船を後にした。

◆この「丑の刻参り」は中国から伝わった「陰陽道」との関係もあるようだ。来期の「日本文化概論」の授業のなかで、この祈道や呪道という「裏文化」に少しだけ触れたいとも思っている。

◆このシリーズは終わります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


コメントを投稿