彦四郎の中国生活

中国滞在記

中国「90後」(90年代生まれ)が語る❹―「日本のACG」(アニメ・コミック・ゲーム)と私―

2016-12-03 06:41:55 | 滞在記

 

 12月2日(金)の昨日、午前0時から 中国で 日本の劇場版『君の名は。』の上映が始まった。インターネット予約は早々と売り切れ 待ちに待ったファンが 深夜から詰めかけているようだ。

―知らないと軽蔑される!?中国人に大人気の日本アニメ3選―中国メディア

 2016年8月31日、中国メディア「北方網」は、「これらの日本アニメは絶対に見たことがあるはず、見たことがなければ軽蔑される」と題する記事を掲載していた。中国では日本のアニメが今も大人気で、特に20〜30代の若者世代はテレビで日本のアニメを見て育ったといっても過言ではないようだ。そんな彼らに「知らなければ軽蔑される」とまで言わしめるアニメとは何か。挙げられるのは、『美少女戦士セーラームーン』『名探偵コナン』『ドラえもん』の3つ。そして続くのが『鉄腕アトム』『聖闘士星矢』『ちびまる子ちゃん』『スラムダンク』『ワンピース』『ナルト』『クレヨンしんちゃん』---。     ―「北方網」報道は以上―

 ドラえもんの誕生日9月3日は、中国では「抗日戦勝記念日」。今年度は習近平主席が各国の首脳を招いて大規模な「軍事パレード」を開催し、世界を驚かせた。にもかかわらず、ネット上にはドラえもんの誕生日を祝うコメントが多数寄せられていたのは印象的だった。『スラムダンク』は中国ではバスケットボールが盛んなこともあり、人気のアニメ。モデルとなった神奈川県の鎌倉高校付近にある踏切には、「聖地」と崇める中国人観光客が数多く訪れるているようだ。

 日本華僑社・日中交流研究所主催の「中国人の日本語作文コンクール」が毎年 開催されている。始まったのは2005年。2016年の今年で第12回目となる。2008年(第4回)から日本国・中国大使賞も作られ、北京にある日本国・中国大使館で授賞式が行われている。2012年の以降の日中関係の悪化にもかかわらず年々 応募数が増え 現在では5000人あまりからの応募者があるようだ。(※応募者は「日本への留学経験がない人」という条件がある。/2013年1月、「NHK・クローズアップ現代」で、この作文コンクールがとりあげられた。)

 日本語作文コンクールは、「日本大使賞」(1名)・1等賞(5名)・2等賞(15名)・3等賞(45名)・佳作(95名)。このうち、3等賞までの作文が『中国若者たちの生の声』という書名で、最近は 毎年出版されています。2014年(第10回)のテーマは次の二つだった。①「ACG(アニメ・コミック・ゲーム)と私」②「公共マナーと中国人」。この中から①の「ACGと私」の作文を2つ紹介します。一つは「日本大使賞」、もう一つは「三等賞」の作文です。中国の若者が、「日本の国 及び 日本のアニメについて」どう思っているかが よくわかる作文です。

      ―「まる子ちゃんからもらった幸せ」―  北京科技大学 楊珺    (三等賞)

 「日本人が作ったアニメね、中国の子供の成長や健康に悪い影響を与えるんだよ。だから、見るのをやめなさい。」        「ちびまる子ちゃん」というアニメを夢中で見ている時に、近所のおばさんは私に言っていました。私はちょっといやな気分がしました。それは小学校三年頃の出来事でした。私の胸に残っていてどうしても取り除けない記憶です。いったいどうして、おばさんはこんなことを言ったのでしょう。

 時間が経ち、今では私にもわかるようになりました。その時期は中日関係があまりよくなかったようです。たぶんそのおばさんは日本に偏見を抱いたのでしょう。だからとしても、あれは言いすぎだったと思います。私からみれば、子供時代に「ちびまる子ちゃん」を見られたのは非常に幸いなことでした。まる子ちゃんがいなければ、幸せをしみじみ感じることができなかったかもしれません。

 五歳のころ、父と母は離婚しました。父は家を出て、母と二人きりで、20年前に建てられた古い部屋で暮らしていました。毎朝、母は八時までに会社へ勤めに行かなければなりませんでした。夕方は家に帰って晩ご飯を作ってくれました。夜中の12時を過ぎてもまだ洗濯をしていました。とても大変だったことを覚えています。その時の仲良しの家と比べたら、本当に貧乏だったと思います。ほかの女の子のように、可愛いおもちゃを持つこともなく、高くてすごく綺麗な服を着ることも夢みたいで、実現する可能性は全くありませんでした。気にしないふりをしながらも、ほかの子供たちをうらやましいと思っていました。しかし、その思いを母には言えませんでした。さらに母に負担をかけることになると思い、ただ心に秘めていました。

 ある日、まる子ちゃんの家庭をとりあげたアニメがテレビで放映されていました。まる子ちゃんの家はとても古くて、貧乏に見えます。ほしいものがいろいろとありますが、実現できません。まる子ちゃんの家は古くて狭いものの、その家は楽しく、面白い出来事がたくさん起きます。家族と一緒に鍋料理を食べたり、祝日にお祭を見に行ったりします。まる子ちゃんもしょっちゅうお姉さんとけんかしますが、おいしい食べ物があると、お姉さんとシェアします。お母さんのの話は聞くそばから忘れるので、よく叱られますが、本当にまる子ちゃんを心配しているお母さんの気持ちが、はっきり伝わってきます。

 確かにこうした出来事は、全然特別なものではなく、どんな家庭にも起こりますが、それは世の中で最も温かいこと、幸せなことだと思います。人間というのは、社会に出れば、以前の平凡な温かさや感動を忘れがちです。人々の間では競争がどんどん激しくなっていき、人間は利益や欲望を追い求めるようになり、目の前の幸せを無視し、後ろに捨ててしまいます。あとで後悔したところで、以前のようには戻れません。

 アニメの最後のところでは、お金がなくても、楽しく生活することができる、重要なのは目の前の幸せを大切にすることだ、とちびまる子ちゃんが言いました。子供時代には、私にとって大切なものが数えられないほどありました。ずっとそばにいて守ってくれる母、私の長所をほめてくださる先生、私と楽しく遊んだ友達は 全部一生の宝物だと思います。

 貧乏な生活を体験したからこそ、周りの一切を大切にすべきだ、とわかるようになりました。いま私はあのおばさんに言いたいことがあります。私は「ちびまる子ちゃん」が大好きです。まる子ちゃんのおかげで、平凡な幸せがしみじみ感じられ、毎日楽しく過ごしてきました。そのことを教えてくれたアニメ、そして、その「ちびまる子ちゃん」を作った日本人に感謝したいです。                           

                                   (指導教官:松下和幸)

      ―ACGと中日関係―     東華大学 姚儷瑾      最優秀賞(日本大使賞)

 「殺されたから殺して、殺したから殺されて、それで本当に最後は平和になるのか」 これは「機動戦士ガンダムSEED」で、幼馴染の主人公二人が立場の違いにより、相手を殺さなければならない状況下で抱いた疑問です。  「戦争の意義って何?」これが私がこのアニメを見た後、ずっと考え続けている問題です。

 当時、十四歳でしかなかった私には、この問題は意味深すぎたのですが、日本のACGは精緻な場面のある作品だけでなく、ACGを通じて伝えたい作者の世界観も面白く、見る価値があると私は感じました。例えば『ガンダムSEED』の中では、遺伝子工学というハイテクをめぐって起きた倫理的問題が発端で戦争が起こるのですが、アニメを見る前はこんな展開になるとは思いもしませんでした。また、このアニメはフィクションですが、描かれている戦争の場面は大変リアルで、命の脆さを丁寧に描いていました。そして、この戦争の切なさは私の頭に深く印象に残り、今の世界情勢を少し自分の身に近づけて考えてみようと思い始めました。このアニメがきっかけで、私は日本のACGに興味を持ち、台詞をより理解するため日本語を勉強し始めました。

 『ガンダムSEED』を見てからすでに六年。今私は日本語学部の学生です。日本語を勉強して二年目、授業中 先生と学生が 何度も日中関係をめぐって、討論をしました。「日中関係がますます悪化し、最悪の場合、戦争になる---。」先生がそう話したそばから、私は『ガンダムSEED』を思い出しました。アニメの中に描かれていた、戦乱のため、自分が自分の親友を殺さなければならない場面。私は絶対に経験したくないです。

 こう考えた私は、あるACGマニアが集まるウェブサイトにこう記しました。 「人が命を失っても、戦争で訴えたいものは何ですか。利益、正義、それとも、ただ殺された人のための復讐ですか。もし戦争が起これば、必ず誰かが殺されます。殺された人のため、また誰かを殺します。こうして戦争は永遠に続きます。その戦争の傷はどれほど大きい勝利でも癒せません。私は心から中日関係の平和を祈ります。」

 すると二日目、意外なことに、ある日本人が私のコメントに返事をくれたのです。 「私もそう思いますよ。」 返事は大変短いものでしたが、私にもたらされた感動は大きかったです。ACGがきっかけで日本人と交流できることには驚きましたが、より収穫だったのは日中の平和を祈っている人が私だけではなく、日本人の中にも中国に好意を寄せている人がいることが分かったことです。その後、ACGがきっかけで何度も交流する機会を得ました。互いに好きなアニメについて話していると、様々な共通点が見つかりました。国籍が違っても、彼らは私の周囲の友達とまつたく同じです。交流した後、中国人への印象が変わったと私に言ってくれた日本人もいます。日本語学部の一学生にすぎない私ですか、自分の力が少しでも役立った気がして嬉しかったです。

 今の日中関係悪化の原因は、政治の関係以外に、双方の理解不足も原因の一つだと考えます。中日戦争の暗い影の下で、日本人全員が悪いと思っている中国人は少なくないでしょう。しかし、これは事実ではありません。現在、中国人に人気のある日本のACGには このような誤解を解く力が秘められています。好きなACGについて話し合いながら、相手の国の姿を確認し合う、これは新たな文化交流の形になるかもしれません。

 そして、日本語を学ぶ学生は可能な限り、日中の交流を深めていくべきだと思います。例えば、定期的に日本のACGマニア大会を開催するなど、同じ興味を持つ日本人と中国人を誘い、私たちが通訳として、彼らの交流の手助けをすれば、きっとみんないい友達になれるはずです。小さなことから努力すれば、きっといつか日中関係がよくなると思います。

 「ガンダムSEED」のラストのように、永遠の平和を祈ります。

                                (指導教官:岩佐和美)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      

 

 

 

 

 

 

                                                            

 

 

 

 

 


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